第7話「ギルマスと冒険者証」
ギルマスのハルファウェンさんの後ろに付いて階段を上がって2階に行くと、ひとつの部屋の前に辿り着く。扉には『ギルドマスター室』と書かれていた。
「ここが私の部屋です。どうぞ」
ドアを開けて中へと誘われる。ギルマス室の中には、大きい机と応接セットがあるだけの普通の事務室のようだ。
「そちらのソファにおかけください。今お茶を淹れますね」
…ギルマスが自分でお茶入れるんだな。誰も入れてくれないのか? ソファに腰掛けて部屋の中を眺めていると、額に入れられて壁に飾られた高そうな剣を見つけた。
「あの壁に掛かってる剣はなんですか?」
「あぁ、その剣は国王陛下に頂いたんですよ。優秀なギルドに対する報酬です。うちのギルドが国家の危機を齎した
おお、ドラゴン! ファンタジーっぽい! ていうかやっぱりこの世界にもドラゴンっているんだな。そのドラゴンを倒して表彰されるとか、どうやらここのギルドには結構強い人が在籍しているらしい。
ハルファウェンさんもソファーに座り、お茶を飲んで一息入れたあと話を切り出してきた。
「さて、それでは聞かせていただけますか?」
「何をです?」
「あなたのその加護、そしてスキルについて」
えらい直球で来やがったな。しかし話せって言われてもどこから話していいのか分からないし、この人がどこまで知ってるのかも分からない。……とりあえず惚けとくか。
「えっと、何のことですか? そんなこと言われても何のことか分かりませんね」
「ふふっ、警戒しなくてもいいですよ。誰かに漏らしたりする気は全くないですから」
そんなこと言われても警戒しない訳が無いだろう。こっちのカードを先に晒すわけにはいかない。ここは慎重に相手の出方を見た方がよさそうだ。
「………」
「あー、めっちゃ警戒されてますね。分かりました、こちらからネタバラシしましょう。実はですね、あなたのステータスには隠蔽が掛かっていたので、鑑定とは違う方法で見させて頂いたんですよ」
「違う方法?」
「はい。『精霊の魔眼』といって、相手のステータスにどんな隠蔽が掛かっていようがその全てを見通せるスキルがあるんです。私のこの魔眼の前ではステータスでの隠し事は出来ませんよ」
隠蔽の意味がない鑑定眼とか…卑怯すぎない? プライバシーの侵害し放題だな。
「なので、あなたの情報は全て見せて頂きましたから隠す必要はないですよ」
どうやらこの人にはこれ以上抵抗しても無駄のようだ。素直に話を聞くしかないか。
「…はぁ。わかりました。それで、俺に何を聞きたいんですか?」
「ズバリ聞きますが、あなたは転生者なんですか?」
「……なぜそう思うんです? 転生神の加護があるからですか?」
「いえ、それもありますがそれだけではありません。もうひとつの根拠がその【真眼】【言語理解”極”】【無限収納】、そして一番引っかかったのは【魔法創造】のスキルです」
ですよねー。
「あなたの年齢でそのような超激レアスキルを複数覚えることなんて出来ないでしょう。神の介入、転生者ならば神からそのスキルを与えられ、この世界に送られたと言った方がよっぽど信用出来るってものです。違いますか?」
「…俺が自分で会得したのかもしれませんよ?」
「いえ、それはないですね。【魔法創造】は魔導師の常識を覆すとんでもないスキルです。熟練の魔導師でも使えない魔法系スキルを
「!? 異世界の勇者っているんですか?」
「はい、以前魔王がこの世界に居たときに、隣国のギルランディオ帝国が勇者の召喚に成功しているんですよ。まぁ今から80年ほど前の話ですが」
80年前かよ! その勇者はまだ生きてるのかな? 仮に生きてるのなら会ってみたいものだが。
「何回かこのギルドにも寄ってくださいましてね。その時にこの魔眼で鑑定した時に見たのです。そしてその勇者達に尋ねてみたところ、彼らはここではない異なる世界で死んで、こちらの世界の魔王を倒すために神から送り込まれた転生者だったという話です」
「なるほどね。あの、魔王ってまだこの世界にいるんですか?」
「いえいえ、その勇者、スバル君というのですが、彼が魔王を倒したあとはその存在は確認されていません」
よかった。まぁ、女神様は魔王がいるとか一言も言ってなかったからな。
「それで、あなたが転生者であるという最後の根拠ですが」
ま、まだあるんかい!?
「私の精霊の魔眼は生物の魂の色も見ることが出来るのですが、あなたの魂の色はこの世界に住む人間の色とは全然違うんですよ」
「魂の色…ですか?」
「この世界に住む者の魂は皆青っぽい色なのですが、あなたの魂の色は赤いのです。ちなみに勇者のスバル君も君と同じ赤い色でした」
「…マジですか」
「マジです。では改めてもう一度聞きましょう。あなたは転生者なんですか?」
これもう向こうは確信してる感じだよね。これ以上黙ってても仕方ないか。
「……はぁ。俺が転生者だったとしたらどうします? 先に言っておきますが、俺は勇者とか聖者とか神の遣いとかじゃありませんからね?」
「違うのですか?」
「違いますよ。俺は前世で違う世界で死んで、こっちの世界に生まれ変わっただけです」
「そう…なのですね。ではなにか目的があって転生したわけでは…」
「ないですね。あぁ。最近女神様から娯楽品を提供して欲しいみたいなこと言われましたが」
「ん? 女神様? 娯楽品ですか? どういうことです?」
俺は女神様達から暇つぶしの為に娯楽品の提供を求められたこと、先程教会でオセロを提供したことを話した。女神様からは他人に話すなとか言われてないからいいよね?
「んで、これがそのオセロです」
【無限収納】からオセロを取り出しギルマスに見せる。ギルマスは興味深そうにオセロ盤を手に取り、まじまじと観察している。そんなに珍しいのかこれ。
「ほぅほぅ、これがオセロですか。どうやって使うのですか?」
「えっと、ルールは…」
ギルマスに簡単にオセロのルールを教えると、その緑色の目が輝きだした。めっちゃ興味深そうにオセロの石を手のひらでコロコロしている。
「ルールは結構簡単ですねぇ。ちょっとやってみませんか?」
「…別にいいですけど」
オセロは昔から得意な俺であるが、さすがギルマス張ってるエルフなだけはある。3回戦でもう攻略法を編み出し始め、5回戦で初めて負けた。要領良すぎだろこの人!
「なーるほど。これは面白いですね! 売り出せば確実に売れること間違いなしですよ!」
「いや、売り出そうにもそう言う伝が俺にはないですからね。一応5歳児ですし」
「そう言えばそうでしたね。それなら、商業ギルドで売り出してもらうのがいいかと思いますよ。あそこもうちと同じで年齢制限とかありませんからね」
「商業ギルドですか?」
「はい、このファルネスの街の商いを統括しているところです。税金とかは取られますが、変なところで売るより確実ですよ」
へ~、そんなところがあったんだな。いいこと聞いた。
「わかりました。今度行ってみますね」
「はい。それで、あなたのスキルの魔法創造のことなのですが…」
まだ続くんだなこの話。だがこれ以上の情報は渡せない。黙秘だ黙秘。
「俺のスキルについては秘密です。それで、俺をどうする気ですか?」
「あ、いえいえ、どうにもしませんよ。私はただ事実が知りたかっただけですし、知ったからといってクロード君が不利になるようなことは何も言いません。そこはギルドマスターとして保証しますよ」
「…不利になるようなこと以外は言いそうですね」
「個人情報は誰にも漏らしませんよ。当然」
なんか恐ろしく胡散臭いが…今はこの人を信じるしかないだろう。
「信用しておきます。それで、俺って冒険者になれるんですか?」
「ええ、領主の許可があるならこちらは何も問題ありません。後で冒険者証をお渡ししましょう。詳しい説明は受付を担当していたソニアに聞いてください」
「わかりました。それじゃ失礼しますね」
「…はい、お疲れ様でした。今後の活躍を期待してますよ。何かあったら私のところに来てくださいね。力になれることもあるかと思います」
「…適度に頑張りますよ。その時はよろしくお願いします」
そう言って部屋を出る。結局転生者だってバレちまったけど大丈夫だろうか? まぁ考えても仕方ないか。なんとかなるだろ。多分。
2階から階段を下りて1階に戻ると、サムソンが俺に駆け寄ってきた。
「クロード様! 大丈夫ですか? あのエルフに何かされたとか…」
「大丈夫だよサムソン。色々話し合っただけだから」
「そうですか、それならよかったです」
なんか心配かけちゃったみたいだ。まぁあのギルマスエルフ、表情とかセリフとかかなり怪しかったから仕方ないか。
「それじゃ受付で冒険者証もらいに行こうか」
「発行できたのですか?」
「うん! さっきのギルマスが発行を許可するから受付で説明受けろってさ」
「かしこまりました。それでは参りましょう」
受付してくれたお姉さん、ソニアさんだっけ? のところへ行く。
「あ、クロード様! こちらへどうぞー」
「はい、失礼します。ギルマスから聞いています?」
「はい、伺っています。今冒険者証作っていますので、渡す前にギルドの説明をしたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「まずこれから渡す冒険者証にはクロード様の個人情報が書き込まれています。冒険者ランク、受けた依頼の数や依頼の成功数と失敗数、現在受けている依頼内容なども確認することが出来ます」
成功数だけじゃなく失敗数もか。まぁ失敗だらけの冒険者に依頼はしたくないよね。
「次にギルドランクですが、ランクはFランクから始まり、E、D、C、B、A、S、SS、SSSの順に上がって行きます。ランクが上がるのは依頼の成功数や失敗数が考慮され、失敗が多いとギルドランクは上がりません。自分の実力に見合った依頼を受けることをオススメします。あと、同一ランクの依頼を受け続けてもランクは上がりません」
「? どういうことですか?」
「依頼はひとつ上のランクのものまで受けることが出来るのですが、そのワンランク上の依頼を成功させないと次のランクにランクアップは出来ないということです。Fランクですと、大体10回以上Eランクの依頼を受けて頂くと、ギルドが依頼結果を査定してランクアップ出来るかを審査します。その結果次第でランクアップが出来ますので頑張ってくださいね」
「なるほど。わかりました、頑張ります!」
「次に口座についてです。ギルドカードを作った時に、同時にお金を預けられる口座も開設されます。こちらの口座はどこの国の冒険者ギルドでも使うことが出来ますので、是非ご活用ください。手元に大金を持っている時にスリにでも会ったら目も当てられないですからね」
確かにな。この世界は結構物騒だからちゃんと預けよう。
「あと、もしクロード様が犯罪等のギルド規約違反を犯してしまったら、冒険者登録を抹消されてしまう恐れがありますので注意してくださいね」
「わかりました。気をつけます」
「最後に、このカードはクロード様しか使うことは出来ません。紛失した場合は金貨1枚の再発行料がかかるので注意してくださいね。それでは、こちらが冒険者証になります」
青い色の冒険者証を受け取る。中身は単純だ。
名前:クロード=グレイナード
年齢:5歳 職業:魔導師
冒険者ランク:F
クエスト受注数:0 成功数:0 失敗数:0
受注中依頼: ―
これだけしか情報は書かれていない。誕生日はどこに?
「依頼を受ける場合はあちらのボードに張り出されていますので、受けたい依頼があったらその紙を持って受付までいらしてください」
そっちを見るとボードの前には今も人集りが出来ている。今度来た時にでも見てみようかな。
「あと、高ランクになると2階の受付が使えるようになります」
「高ランクって何ランクからです?」
「Bランクからですね。クロード様も数年したらなれるかもですね! 5年以内なら最年少ですよ!」
この歳でBランクになんてなったら、目立ってどうしようもないだろうな。最年少記録にはちょっと惹かれるが、そんなに急いではいないのでゆっくり行こう。
「説明は以上です。何か質問等はありますか?」
「いえ、今は大丈夫です。わからなくなったらまた教えてください」
「かしこまりました。またのお越しをお待ちしていますね」
「うん、ありがとうソニアさん。助かりました」
ソニアさんが驚いたような顔をしている。名前間違ったか?
「私の名前…」
「ギルマスに聞いたんですよ。あと、俺のことは様付じゃなくていいですよ。クロードって呼んでください」
美人には気さくに名前で呼ばれたい。そんな俺の幼心。
「んー…うんわかったわ。じゃあクロードくんって呼ばせてもらうわね」
「はい、その方が嬉しいです。それでは今日は帰りますね」
「ええ、またいつでもいらっしゃい。待ってるからね♪」
手を振るソニアさんと別れ、サムソンと共に冒険者ギルドを出る。色々あったが、やっと冒険者になれたな。けどまだ家からそんなに出れないだろうし、自由に依頼を受けるってわけにも行かないだろう。はやく冒険者の家庭教師が来ることを祈るとしよう。
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