第6話「貢物と冒険者ギルド」

 父さんの書斎で話をしたあと、すぐにサムソンと共に家の外に出る。今日も雲一つない良い天気だ。こんな日はどこかの川原にピクニックに行って釣りでもしたくなるね。


「それでは馬車の準備をいたしますの少々お待ちください」


「あ、待ってサムソン! 出来れば歩いて行きたいんだけど、ダメかな?」


「歩いてでございますか? 冒険者ギルドまでは少々距離がありますが…」


「俺は大丈夫だよ。まだ街の中を歩いたことないから行ってみたいんだ。お願い」


「畏まりました。それでは徒歩で向かいましょう」


「うん!」


 ということで、サムソンと二人で徒歩で冒険者ギルドに向かう。屋敷の外に出たのは先日教会に行っただけだったので、街の中の建物や街路樹、その全てがなんだか新鮮に感じられた。

 

 家から出てしばらく道なりに歩いていくと、街の中心部らしき所に出ることができた。そこには様々な店が軒を連ねて建っている。露天なんかもあるようだ。


「サムソン! あの店はなんの店?」


「あの店は防具屋でございますね」


「あの店は!?」


「あの店は雑貨屋でございます」


 色々な種類の店があって全然飽きないな。出来ることなら片っ端から店の中に入って商品を見てみたいが、そんな時間もないのでさっさと目的地を目指すことにする。


「サムソン、教会ってどの辺かな? ちょっと神様にお祈りをしていきたいんだけど」


「教会でございますか? 教会はこの通りを真っ直ぐ行って2本目を右に行ったところにございます」


「わかった。ちょっと寄って行くね」


「畏まりました」


 真っ直ぐ行って2本目を右に曲がったところに、洗礼式を行ったクリスティア教会が見えてきた。正面の入口から中に入って入口横にある受付に辿り着くと、受付嬢が立ち上がり一礼した。


「クリスティア教会へようこそいらっしゃいました。本日のご要件を承ります」


「神様へのお祈りに来たのですが、大丈夫でしょうか?」


「畏まりました。それではこちらに署名の方をお願いいたします」


 顧客名簿のようなものと羽ペンを渡され、そこに俺の名前を記入する。クロード=グレイナードっと。


「これでいいですか?」


「はい、ありがとうございます。お連れ様はどういたしますか?」


「サムソンはちょっと待っててもらっていい? すぐ済むから」


「畏まりました。お気をつけていってらっしゃいませ」


 サムソンを受付前に置いて教会の中へと歩を進めていく。重厚な扉を開けると、その中には司祭様が祭壇の前で祈りを捧げているようだ。入ってきた俺に気付いたのか、祈りを止めてこちらに近寄ってくる。


「君は確か、クロードくんだったね。今日はどうしたのかな?」


「こんにちわ司祭様。ちょうど近くまで来たので神様に祈りを捧げたいと思いまして」


「おお! それはそれは。敬謙な信徒で私も嬉しいです。ではこちらへ」


 司祭に導かれ、祭壇の前まで行く。だが貢物をするのにこの司祭様は邪魔だな。


「あの、少しの間一人で祈らせて頂いてもいいですか? 集中したいので…」


「ふむ、わかりました。席を外すので終わったら声をかけてください」


「すいません。ありがとうございます」


 そういうと、司祭様が隣の部屋に引っ込んでいった。一応周りを確認するが、どうやらこの部屋の中には誰もいないようだ。


「さて、さっさと済ませますか」


 【無限収納】からオセロ盤を4つ取り出し祭壇の上に乗せる。一人一個じゃないと喧嘩しそうだし。貢物を置いたあとその場に跪き、手を合わせて祈りの姿勢をとる。


「女神様達、約束していた貢物をお受け取り下さい」


 すると女神像の一体が光り輝き、その光が一箇所に集まり人型を形成していく。


『また会えましたね、クロードさん』


「…まさか女神様が出てくるとは思ってなかったですよ」


『ふふっ、せっかく来ていただいたのですから今回は特別です。それで、これが例の娯楽品ですか?』


「はい、オセロって言います。使い方は付属してある説明書に書いてありますので楽しんでくださいね」


『わかりました。ありがたく頂きますね。それでは初回特典としてにこれを授けましょう』


 女神様から一本の大きい鳥の羽のようなものを受け取る。それは取っ手の所が金で加工された真っ白でとても手触りのいい物だった。


『それは『転翔の羽』。これまで貴方の訪れたことのある場所に転移できるという代物です。きっとこれからのあなたに必要になるものでしょう。活用してくださいね』


 永続版キ○ラの翼!? 初回特典って言ってもこれって明らかに貰いすぎな気がするんだが…。


「あ、ありがとうございます。でも、本当にこんなすごいアイテム貰ってもいいんですか?」


『はい。喜んでくれた様でよかったです。それでは次の娯楽品も楽しみにしていますね』


「了解です。ありがとうございました!」


 そう言って女神様は祭壇に置いたオセロと共に去っていった。これで任務完了だな。それにしてもとんでもない物を貰ってしまった。今度また何か作ったら持ってきてあげよう。


 司祭様に祈りが終わったことを告げてから教会を後にする。外に出るとサムソンが待っていた。


「おかえりなさいませ。お祈りは無事に済みましたか?」


「うん! バッチリだったよ」


「それはようございました。それでは冒険者ギルドの方へ向かいましょう」


「そうだね。行こう!」


 俺とサムソンは再び冒険者ギルドへと歩き出した。街の中心部にある大きな公園を通ると、遊んでいる子供達の無邪気な声が聞こえてきた。公園内には茹でたとうもろこしを売ってる屋台なんかも出ているようだ。んー茹でたのより焼きとうもろこし食べたい。


「サムソン、冒険者ギルドってどの辺にあるの?」


「もう少しで到着いたしますよ。あの通りの角の建物ですね」


 サムソンの指差す方を見ると、3階建ての大きな施設があった。その施設の入口からは鎧を着て剣を携えた屈強そうな人達が活発に出入りしている。


「おぉ! 冒険者ギルドっぽい!」


「冒険者ギルドですよ。それでは中に入りましょう」


「うん!」




 冒険者ギルドの中に入ると、冒険者っぽい人達が沢山いる。皆それぞれ杖や剣、槍などを持って装備を固めているようだ。超かっこいい。ファンタジーはこうでないとな! テンション上がるわ~。


「すごい! 冒険者かっこいい!」


「ははは、左様でございますね。それでは私は受付で依頼を出してきます。条件は技術と経験がある若い女性冒険者、でよろしいのですね?」


「うん、それでお願い。俺は建物の中見てるよ」


「畏まりました。あまり遠くへ行かないようにお願い致します」


「わかった!」


 サムソンは依頼書を作りに行ったようだ。時間掛かるかも知れないし、その間に冒険者登録しておこうかな。ちょっと受付の人に聞いてみよう。


「お姉さんお姉さん」


「あら、どうしたのかなボク? 何かの依頼かな?」


「違いますよ? 冒険者登録しに来たんです!」


「……えーっと、君が登録するのかな? ていうか何歳?」


「5歳ですけど、登録できないですか? 父さんに年齢制限はないって聞いたんですけど」


 やはり5歳じゃ早すぎたんだろうか。受付のお姉さんはどうしたらいいか分からなくなっているようだ。


「いや、確かに年齢制限はないんだけど……ボク一人? 親御さんとかは?」


「今は違うところで仕事してます。両親と一緒じゃなきゃだめなんですか?」


「えーーっと、わかりました! それじゃ……」


「おいおいおい、こんなクソガキが冒険者登録とか正気かよ!!」


 ん? なんか変なのが絡んできた。テンプレ展開きた?


「冒険者に年齢制限はないって聞いたばかりだけど?」


「年齢制限はなくてもお前みたいなガキが登録するもんじゃないって言ってんだ!! お前みたいなのがいるから冒険者が舐められるんだよぉ!!」


 一々デカイ声出さなきゃ喋られないらしい。ストレスでも溜まってるのか?


「それじゃ、どうすれば認めてくれるの?」


「そうだなぁ。試しに俺に一発入れて、ここから少しでも動かせたら認めてやるよぉ!」


「…本当にそれでいいの?」


「ああ、、男に二言はねぇよ。ほら、さっさとかかってこい! それでさっさと諦めろ!」


 どうやら本気のようだなこの男。んじゃさくっと行きますか。身体強化アクセルブースト発動!


「行くよ!」


 その場から高速で男の懐に飛び込んで、みぞおちにボディーブローを食らわせる。ついでにコークスクリューっぽく回転も加えたのでいい感じに腹にめり込んだ。


「!? ぐはあああああぁぁぁ!!」


 革鎧越しだからそんなにダメージ無いだろうと思ったがそんなことはなかったようだ。くの字に曲がって5m程後ろに飛ばされた男は、腹を苦しそうに押さえてピクピクしていた。予想より力が出た気がしたけど武神の加護のおかげかな?


「あのー、大丈夫ですか? ていうかこれで認めてくれるんだよね?」


「だぃ…ぶじゃ…い…認め…てや…」


 だいじょうぶじゃい! 認めてやんよ! ってかんじかな? そんなに悪い人じゃないのかもしれない。


「ありがとうございます。それじゃ!」


 そう言いながら受付のお姉さんのところに戻る。お姉さんはポカーンとした顔をしていた。


「お姉さん続き! 冒険者登録したいんだけど出来ますよね?」


「…はっ! か、かしこまりました! それでは登録料として銀貨1枚頂きますが、よろしいですか?」


 なんかいきなり事務的になったなこの人。…あ、お金がない。サムソンに借りよう。


「お金は後で執事が持ってきますので、先を続けてください」


「し、執事ですか!?」


「クロード様、こちらをお使いください」


 気付いたらサムソンが俺の背後に立っていた。差し出されたその手の平には銀貨1枚が乗っている。さすが敏腕執事、いいタイミングだね。


「ありがとうサムソン。依頼は出せたの?」


「はい、少々時間がかかりましたが無事に。先ほどの一撃はお見事でした」


「あはは、見てたんだね。ありがとう」


 受付のお姉さんに銀貨を渡す。お姉さんはサムソンをじーっと見つめていた。その目は珍しいものを見ているというより、この執事さん渋くて素敵?みたいな目のような気がする。


「お姉さん、どうかしましたか?」


「っ!? ご、ごめんなさい。それじゃこちらの用紙に氏名と年齢、生年月日、職業を記入してください」


「わかりました!」


 受付の後ろに備え付けてある机に座って記入していく。えーっと、名前はクロード=グレイナード 生年月日は王国歴175年12月23日っと。かきかき。


 それで職業が…魔導師かな。剣よりも魔法の方が得意だし。


「これでいいですか?」


「はい、お預かりします……あの、グレイナード子爵家の方なんですか? 領主一族の」


「はい、そうですよ?」


「えーっと、領主様はこのことはご存じなんですよね?」


「ええもちろん。父さんの許可は取ってますよ」


「うーーーん、少々お待ちください。ギルドマスターに確認してきますので…」


 そういうとお姉さんは席を立ち、受付の奥へ行ってしまった。領主の息子が冒険者やるなんてよくある話だと思ってたんだが、なんか拙かったのかな?


「サムソン、やっぱり領主の息子が冒険者って珍しいの?」


「いえ、問題はないかと。旦那様やリューネ奥様も元冒険者ですので」


「そうだよね」


 そんな話をしているうちに、奥から緑色の長髪で白いローブを着た男が出てくる。その耳は長かった。まさかのエルフ!? 初めて見た! 耳長い! イケメン!! イケメンは滅びろ。


「初めましてクロード=グレイナード君。僕は当ギルドのギルドマスターをやっているハルファウェン=ソロンディールっていいます。よろしくね」


「ギルドマスター!? えっと、クロード=グレイナードです。よろしくお願いします!」


 挨拶を交わすと、ハルファウェンさんはじっと俺のことを見ている。その緑色の瞳は、俺の中の奥の底まで観察しているように思えた。…もしかしてこの人鑑定持ちか? ステータスプレートには隠蔽魔法コンシールは掛かってるから大丈夫だと思うけど…。


「クロードくん、ちょっと私の部屋に来てくれるかな? 聞きたいことがあるんだけど」


「聞きたいこと、ですか?」


「うん。ぜひ二人だけでお話したいな。君のことをもっと知りたいんだ。君の持ってるスキルのこととかね」


 …そのセリフってことは、やっぱり俺のステータス見られたっぽいな。隠蔽魔法コンシール仕事しろ!


「…わかりました。サムソンはここで待っててくれるかな」


「いえ、クロード様を一人で行かせるわけには…」


「サムソン、大丈夫だから…お願い」


「…畏まりました。何かあればすぐにお呼びください」


 もし【魔法創造】や転生神の加護の話になったら拙いからね。ごめんねサムソン。


「それじゃ行きましょうか」


「はい、ではこちらへどうぞ」



 さて、何を聞かれるのかわからないけど気を引き締めていこう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る