第4話「神々のお願いと加護」

 目も眩むような光に包まれ、俺の意識がどこかに飛ばされている感覚を味わう。


 暫くすると徐々に光が止み、目を開けて確認すると、以前どこかで見た光景が広がっていた。暗い空の中で月明かりを浴びて、どこまでも続く一面の白い花畑が広がっている。相変わらず怖いくらいに静かで綺麗な場所だよなここ。


『お久しぶりですね坂本匠さん。いえ、今はクロード=グレイナードさんでしたか』


 背後から声がしたので振り向くと、そこには初めて会った時と変わらないサラサラの長い金髪に、吸い込まれてしまいそうなちょっとたれ目のエメラルドグリーンの瞳をしたナイスバディな超絶美女が立っていた。


『ふふっ、あれから5年以上経っていますが、変わりないようですね♪』


「…ええ、お久しぶりです女神様。あと、俺のことはクロードと呼んでください」


『わかりましたクロードさん。たまに下界のあなたの様子を見ていたのですが、かなり激しいことをされていますね。【魔法創造】で戦う男ではなく、モテる男になるのではなかったのですか?』


「俺も最初はそのつもりだったんですけどね。流された結果といいますか…」


 決して好き好んであんなハードワークをこなしていた訳ではない。


『あはは、ご愁傷様です。でも今日は、そんなあなたに良いお話を持ってきたんですよ♪』


 女神様は右手の人差し指を口のところに持って行きウインクする。何その仕草。超可愛い。


「良い話、ですか?」


『ええ。私の知り合いの神々と相談して、クロードさんに4つの神の加護を与えることになったのです! 普通加護を与えられるのは一人あたり1つか2つくらいなので特別待遇ですよ!』ドヤッ


 両腕を大きく広げて何故かドヤる女神様。そのドヤ顔を見てちょっと冷静になった。


「あの、俺にその加護を与えて何かさせる気なんですか?」


『ギクッ! い、いえいえ、そそそそんなことないですよ?』


 いきなり挙動不信になり、目を背けながら手をパタパタ振る女神様。怪しすぎるぞこの人。ていうか今自分でギクッとか言ったぞ。言ったよね?


『い、言ってないですー! ギクッなんて言ってないですー! 失礼しちゃいますねプンプン!』


 おい、キャラがおかしくなってきてるぞ女神様。その腕組んでほっぺ膨らませながらプンプン言うのをやめなさい。可愛いわ。


『コ、コホン。と、ともかく! あなたには私達神々が与える4つの加護を受け取って欲しいのです』


「……先に理由を聞いてもいいですか? 俺に加護を頂ける理由。それを聞かせて貰わないと返答できませんよ。さっきの女神様の態度怪しすぎだし」


『うぐぅ……わかりました。お話しましょう。でもその理由をお話する前に、あなたに加護を与えてくれる私以外の神々を紹介しますね。 この間からあなたに会わせろってうるさくて…。皆さん出てきていいですよー』


 女神様がそう言うと地面から突然3本の白い光の柱が立ち、その柱の中から誰か出てくる。


『おー、そいつがセラスヴィータのお気に入りか』

『フフッ、可愛いぼうやじゃなぁ~い♪』

『ふむ、まだ少年だけどいい魔力光の色をしてるね』


 光の柱から出てきたのは黒い全身鎧を着た赤いリーゼントのイケメンと、弁髪で筋肉が凄いことになってる黒ビキニと蝶ネクタイ着用のおねぇみたいな人、そしていかにも魔女みたいな格好の、三角帽子に右目にモノクルを装備した切れ長な瞳でピンク髪の美少女がそこに立っていた。


『それじゃあ自己紹介してあげてくださいね』


『おうよ! 俺は武神ガルニウスってもんだ! よろしくな坊主!』


『私は恋愛神デュオニソスよぉん。クロードちゃん、仲良くしてねぇん♪』クネクネ


『私は魔法神エレメラ。セラスヴィータに頼まれてきた。よろしく。あと私は美少女じゃない。美女だ』


「えっと…失礼しました。俺は旧姓坂本匠で、今の名はクロード=グレイナードと申します。こちらこそよろしくおねがいします」


 相手に名乗られたら自分も名乗り返す。それが爺ちゃんの教えだ。


 3人の神達に、何故か俺の頭の上から下までじっくりと鑑賞されている。デュオニソス様の視線がなんかぬるぬるしてるのは気のせいだろうか。


『ほう、今時のガキにしちゃ礼儀正しいじゃねぇか。なあエレメラ』


『そうね。ねぇクロード』


「はい?」


『私達に協力してくれたら加護あげようと思うんだけど、どう?』


「協力…ですか? 俺に一体何をしろと?」


 これって神の試練的なやつかな? 一体どんなことさせられるんだろうか。加護やるから勇者になって魔王討伐とか邪神討伐とかしろ! とか言われても絶対無理なので勘弁して頂きたい。


『別に大した事じゃない。私達神々に娯楽品を作って提供して欲しい』


「え? 娯楽品…ですか?」


『そう、娯楽品。オセロとかチェスとか、そういうあなたの前世の世界で流行ってた物』


『その娯楽品をお前が作って、その作った物を俺達に献上して欲しいってわけよ!』


『あのね、私達神々って天界で結構暇してるのよねぇ。だからぁ、地球からの転生者であるクロードちゃんに楽しくなっちゃうような娯楽を提供してもらおうって話になったのよん』


「あぁ、なるほどです。要は暇潰しの品を作って寄越せってことですね。でもいいんですか? そんなことで貴重な加護もらってしまっても」


『そんなことじゃない。私達にとっては死活問題』


 し、死活問題!?


『これからまたこの先数千年も…私達がずっと娯楽なしで過ごすこと考えてみて。正直泣ける』


『そうねぇ、私も最近筋トレしかすることなくって退屈なのよん』


『俺も闘神と軍神の奴等とバトルしかしてねぇな。それも最近マンネリ化してきてよぉ』


『あ、ちなみにクロードさんが作った物はウェスタリテで売っても構いませんよ。向こうも娯楽品の類はあまりありませんからね。いい商売になると思いますよ』


 ウェスタリテで売るより前に、まず自分達が欲しいってことか。いや仕事しろよ神様。でも神様なら娯楽品ぐらい自分達で作るとかしないのか?


『クロードさん、私達神々は武器や楽器といった神器を作ることは出来ますが、娯楽品や趣向品などは作れないんです。私達の上司がそういう堕落しそうな物は作っちゃダメっていう決まり事を作ってしまって…』


 上司って。神様にも上下関係あるのな。その上司もなんでそんなこと決めたのやら。まぁ娯楽品を作るくらいなら割とすぐ作れそうだし、特に問題ないだろう。


「話はわかりました。この依頼、責任を持って受けさせていただきます!」


『本当か坊主、ありがてぇじゃねぇか! それじゃあ先払いになるが俺の加護から授けてやろう!』


 武神ガルニウス様は俺の手を掴み目を閉じる。あ、あの、あんまり強く握られると痛いんですが。


『受取れぇい!!!』


 彼の体から赤いオーラが溢れ出したと思ったら、そのオーラが握られた手を通じて俺の中に入ってくる。体の中で熱い何かが形作られるのを感じた。


『よっしゃ! これでこの俺、武神ガルニウスの加護がお前に付いたぞ! 効果は後で確かめな! 【真眼】持ってんだろ?』


「分かりました。ありがとうございますガルニウス様」


『それじゃぁ次はワタシねぇん♪ お手を拝借ぅ? あらぁ、ちっちゃくて可愛いおててねぇ』


 ぬるっと近寄って俺の手を握り締めつつさわさわされた。デュオニソスはそっと目を閉じる。


『ふぬぅぅぅうううぅぅぅん!!』


 予想以上にキモくて猛々しい気合と共に、ピンクなオーラが俺の中に入ってきた。


『キモいってひどいわぁ』


「あ、すいません。つい本音が」


『い、言うわねこの子。まぁいいわ。私の加護は異性誘引って言って、女の子があなたを見たらかっこよく見えちゃうっていう加護なのよん』


「えーっと、つまり…」


『あなたはモテ体質になったということよん!!』


「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 俺はデュオニソス様の手を上下に振り、何度もお礼を述べた。その勢いのまま土下座して感謝の意を表明しようとしたが止められた。キモいって言ってマジすいません。


『それじゃ私も』


 エレメラ様の手は小さく、でも暖かくて柔らかい可愛い手をしていた。


『それじゃいくよ。はぁぁぁぁぁぁ!!』


 紫色のオーラが俺の中に入ってくる。神によってオーラの色って違うんだね。


『これでOK。私の加護は魔法威力増強に魔力消費量減少が付いていて結構便利』


「おぉ、確かに便利ですね。すっごいありがたいです!」


『うん、いっぱい役立ててね。そして娯楽品よろしく』


「わかりました、なるべく早く作りますね。ありがとうございますエレメラ様」


『それじゃ私達もう帰るから、セラスヴィータ、あとよろしく』


『それじゃーな坊主! 楽しみにしてるぜぇ』


『バハハ~イ♪』


 そう言い残して加護をくれた3人はあっさり帰ってしまった。実は忙しいのかな?


『さて、それじゃ最後に私、転生と輪廻の女神セラスヴィータの加護を与えましょう』


 いきなり後光が差して神々しくなった女神様に優しく手を握られると、彼女の青いオーラが俺の中に入ってくる。ふんわりして暖かい優しい感じのするオーラだ。


『ふぅ…。さて、これで私達四神の加護があなたに宿りました。これから先のあなたの研鑽と、娯楽品の提供を楽しみに待っていますからね。あとお菓子とかもあったら嬉しいです!』


「…あの、なんか急いでません?」


『えぇ、もう少しであなたの目が覚めてしまいますから、チョッパヤで終わらせました』


 チョッパヤって久しぶりに聞いたわ。


『娯楽品は教会の祭壇にお供えしてくれれば大丈夫ですから、よろしくお願いしますね』


「了解しました。今日はありがとうございます。その、また女神様に会えると思ってなかったから…会えてすごく嬉しかったです」


『ど、どうしたんですか急に///』


「いや、なんとなく言っておきたくて。また会えますか?」


『…はい。教会の祭壇で祈りを捧げて頂ければまた会えますよ』


「わかりました。それじゃ次来るときは手土産持ってきます」


『えぇ、また再び会える日を楽しみにしています』


 女神様がそういって優しく手を振ると、俺の意識が再び遠くなっていく。





「――――っ!?」


 感覚が戻ったので目を開けると、俺の横からフェリシア姉さんが顔を覗き込んでいた。


「クロく~ん、祈りながら寝ちゃダメだよ?」


「い、いや、寝てないよ?」


 どうやら普通にこっちに戻って来れたらしい。そこそこ長い時間向こうに居たはずだが、行く前からほとんど時間が経過していないようだった。俺の手にはまだ向こうで神様達に握られた手の感触が残っており、さっきのが夢ではないということを如実に物語っていた。




「それでは最後に、こちらが神が我らに与え賜うたステータスプレートです。これを手にして『ステータスオープン』と唱えればあなたの現在の状態が見ることが出来ます。さぁ、神から授かった加護を私達に見せてください」


「え、今ですか!?」


「えぇ。無事に加護を得ることが出来たかを確認しなければいけませんので」


 …ど、どうする!? 女神様達から4つも加護を貰ってしまったし、【魔法創造】とか他のチートスキルもあるのに今ここで俺のステータスなんて見せた日には大騒ぎになる可能性がある。なんとか誤魔化す方法を…そうだ! 【魔法創造】起動!


《魔法創造起動。

術式構成:ステータスプレートの内容を偽装することができる。

術式名:隠蔽魔法コンシール


隠蔽魔法コンシールを創造するコストとしてMPを500消費します。よろしいですか? Y/N


 YESだ! 魔法を創造してから速攻で頭の中で隠蔽作業を完了する。


「おや、どうしました?」


「い、いえ、何でもありませんよ。それじゃ『ステータスオープン』!」



名前:クロード=グレイナード 

年齢:5歳 種族:人間 

称号:グレイナード子爵家3男 魔導師 リューネの弟子 ゴブリンキラー

加護:武神の加護 恋愛神の加護 魔法神の加護

 レベル:20

   HP:258/258 MP:785/1535

 筋力:74 体力:67 魔力:218 

精神:175 敏捷:78 運:300


魔法スキル

   【火魔法”LV6”】【水魔法”LV5”】【雷魔法”LV6”】

   【無魔法”LV4”】【魔法制御”LV5”】【魔力操作”LV6”】

   【収束魔法】【詠唱短縮】【並列思考】

技能スキル

   【短剣術”LV2”】【盾術”LV2”】【物理耐性】

   【魔法耐性】【異性誘引】



 【魔法創造】だけじゃなく、【無限収納】と【真眼】、【言語理解”極”】と、あと念のために転生神の加護も消しておいた。余計な疑いかけられてもめんどくさいからね。転生者とか神の使者とか勇者とか。



「おぉ! これは素晴らしいですな。加護を3つも授かっておりますぞ!」


「あ、あはは、ありがとうございます」


 あ、危なかった。流石にかなり焦ったぞ。


「加護を授けて下さった神々にこれからも感謝を忘れないように。それと、この『ステータスプレート』はあなたの身分証も兼ねていますので、決して無くさないようにしてくださいね」


「分かりました。ありがとうございます」


「それではこれにて洗礼の儀を終わらせていただきます。これから先も我らが十神の神々に感謝を捧げながら生きてゆくとよいでしょう。あなたのこれからの成長を願っております」


「はい、ありがとうございました司祭様」


 なんとか無事に洗礼式が終わった。俺達は教会を出て、外に準備していた馬車に乗り家路に着く。馬車の中では先程公開した俺の加護の話で盛り上がっていた。

 

「クロード、3神から加護を授かるなんて凄いじゃないか。さすが俺の子だな!」


「そうだねぇ。神様もクロちゃんには期待してるってことなんじゃないかな?」


「いいなークロくん。私2つだったよ?」


「うん、俺もびっくりだよ。でもせっかく加護を貰ったんだから使いこなせるように頑張らないとね」


 特に恋愛神の加護は今後の俺の人生を左右する重要な加護だ。なんとか活用してモテモテハーレムライフを確立しなければならない。頑張ろう。うん。




 家に到着し、自分の部屋に戻ってから着替えを済ませるとステータスプレートを取り出す。せっかくだから隠蔽なしで使ってみよう。【真眼】と何か違うのかな? 


「んじゃ『ステータスオープン』」


 ステータスプレートに俺のステータスが映し出される。やはり隠蔽を解くと【真眼】で見るものと中身は変わらないようだ。



名前:クロード=グレイナード 

年齢:5歳 種族:人間 

称号:グレイナード子爵家3男 魔導師 リューネの弟子 ゴブリンキラー

加護:転生神の加護 武神の加護 恋愛神の加護 魔法神の加護

 レベル:20

   HP:258/258 MP:785/1535

        筋力:74 体力:67 魔力:218 

        精神:175 敏捷:78 運:300

EXスキル

   【魔法創造】

      @【念動魔法】 @【魔法融合】 

魔法スキル

   【火魔法”LV6”】【水魔法”LV5”】【雷魔法”LV6”】

   【無魔法”LV4”】【魔法制御”LV5”】【魔力操作”LV6”】

   【収束魔法】【詠唱短縮】【並列思考】

技能スキル

   【無限収納】【真眼】【言語理解”極”】

   【短剣術”LV2”】【盾術”LV2”】【物理耐性】

   【魔法耐性】【異性誘引】



 あの時はじっくり見てなかったから気が付かなかったが、加護が付いたおかげでHPとMPがかなり上がっている。武神と魔法神の加護の効果かな? そういえばガルニウス様が【真眼】で加護の効果が分かるって言ってたな。よし、加護の項目に【真眼】!


転生神の加護

   致命的な一撃を受けたとしても一度だけなかったことにできる。

   使用後24時間で効果復帰。

武神の加護

   体力及び筋力増強、体術習得速度上昇、物理耐性スキル付与。

魔法神の加護

   魔法威力増強、魔力消費量減少、魔法耐性スキル付与。

恋愛神の加護

   異性誘引スキル付与、好みの異性と巡り会いやすくなる。


 転生神の加護の効果がチート並にすごい。一度は致命傷が防げるんなら色々と戦術の幅が広がりそうだな。さすが転生の女神様。というか加護の中身は全部がありがたいです。


 あと恋愛神様! 何度も言いますがありがとうございます!!



 …はぁ。洗礼式と【魔法創造】使ってなんか疲れたし、今日はもう寝ようかな。あ、そういえば娯楽品作らなきゃいけないんだった……けど、今日はいいか。明日考えよう。



 それじゃ、おやすみなさい~。Zzz



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