第3話「訓練終了と洗礼の儀」


 おはようございます。クロードです。あれから3年が経過し、俺も5歳になりました。この3年間、訓練しかしてないような気がするなぁ。5歳児なのに(遠い目)


 その日もいつものようにリューネ母さんによる訓練地獄ブートキャンプが開催されていた。ここ3年で俺もだいぶ成長したと言ってもいいだろう。というか、ここまでやって成長してなかったら自分に絶望して魔法を一生使わなくなりそうだ。


 そんな今の俺のステータスがこちら。【真眼】発動!



名前:クロード=グレイナード 

年齢:5歳 種族:人間 

称号:グレイナード子爵家3男 魔導師 リューネの弟子 ゴブリンキラー

 レベル:14

   HP:128 MP:935

    筋力:42 体力:36 魔力:128 

    精神:139 敏捷:50 運:300

EXスキル

   【魔法創造】

      @【念動魔法】

      @【魔法融合】 

魔法スキル

   【火魔法”LV5”】【水魔法”LV5”】【雷魔法”LV6”】

   【無魔法”LV4”】【魔法制御”LV5”】【魔力操作”LV6”】

   【収束魔法】【詠唱短縮】【並列思考】

技能スキル

   【無限収納】【真眼】【言語理解”極”】

   【短剣術”LV2”】【盾術”LV2”】



 スキルのLVは1~3で初級、4~6が中級、7~9が上級、10がMAXで極になる。以前俺の魔法適性を調べてもらったら、火、水、雷の3系統(無属性魔法は魔力があれば誰でも使える)だった。あと俺のLVが上がっているのは、リューネ母さんが召喚魔法でテイムしている魔物を呼び出して俺と戦わせているせいだったりする。短剣術と盾術もその時実地で教えてもらったものだ。




「それじゃあクロちゃん、今日も張り切っていってみよ~!」


「よろしくお願いします!」


『契約に従い、我が前に現れ出てよ真紅の鬼人!』


 リューネ母さんが呪文を唱え始めると、足元に六芒星の魔法陣が現れ怪しく赤い光を放ち始める。


『召喚! レッドオーガのルガール君!!』


「HUNGAAAAAAAAAAA!!!」

 

 魔法陣から現れたのは身長3mはありそうな赤黒い肌をした巨大なオーガだった。右手には巨大な棍棒を装備している。その上、このリューネ母さんが手塩に掛けたオーガは動き自体は遅いが、何故か魔法防御力が異様に高いのだ。

 

 このオーガと対戦をするのは今日が初めてではない。過去の対戦成績は0勝2敗。俺の魔法を尽く耐え抜いて攻め切られてしまい、敗北を喫している。


「クロちゃん、準備はいいかな?」


 俺は体には革鎧、左腕に革の盾、右手にはリューネ母さんにもらったミスリルの短剣を装備している。装備のフィット感を確認し、問題なしと判断した。


「いつでもいいよ! 今日こそ勝つからね!」


「それじゃ・・・始め!!」


「HUNGAAAAAAAAAA!」


「我が内なる魔の力よ、我が身を包み強化せよ! 『身体強化アクセルブースト』!」


(こいつに勝っているのは小回りの効く体と素早さだけ。それなら!)


 身体強化魔法を掛け、俺はオーガに向かってダッシュする。それと同時に走りながら呪文を詠唱しておくのも忘れない。俺の意外な行動に不意を打たれたのかオーガの反応が一瞬遅れつつも、俺に対して正確に巨大な棍棒を縦に振り下ろしてくる。それをギリギリで横に回避し、その勢いのままオーガの顔の目の前に接近して魔法を発動する。


「喰らえ! 『超閃光ギガフラッシュ』!」


「!? HUGAAAAAA!!!」


 雷魔法、超閃光ギガフラッシュ。ぶっちゃけただの目くらましだ。しかしこの魔法は俺のオリジナルで、閃光の光量が通常の3倍になっている上に催涙効果もプラスされている。普通の攻撃魔法を食らわせても持ち前の魔法防御力であまり効かないうえに、オーガ種の特徴として傷を負うとすぐに自己再生してしまう特性を持っている。しかし直接目に叩き込んだ催涙付き目くらましはそう簡単に消えることはない。


 俺はオーガが目を眩ませている間に大きく距離をとり、今日のために用意しておいた切り札の準備に入る。


『灼熱の炎よ、我が右手に集いて槍となれ! 紅蓮の炎槍クリムゾンランス!!』


『轟く雷光よ、我が左手に集いて槍となれ! 雷華の轟槍ヴォルテックランス!!』

 

 詠唱短縮スキルを覚えているため詠唱が短くて助かる。今の俺が使える最強の中級魔法、炎の槍を右手に、雷の槍を左手に顕現させる。ここからが本番だ。


「【魔法融合】発動!」


 頭の上に炎の槍と雷の槍を融合して一本の槍を形成する。2つ合わせて雷炎槍って感じか。これを更に収束魔法スキルで煮詰めていく。


「収束、収束、収束!!」


 俺の魔力をガンガン注ぎ込み、雷炎槍を収束させていく。収束魔法は自分の体に結構な負担が掛かるが、そんなことは気にしていられない。俺の殆どの魔力を収束させた槍は次第にそのサイズと熱量が膨れ上がり、最終的に熱量が4000度を超え、炎と雷は混ざり合い、プラズマに変貌した直径8m程の巨大な槍が現れた。


 このオーガに対して俺が取れる策は、オーガの魔法防御力を上回り、自己再生が間に合わないレベルの強烈な一撃による一点突破のみだ。これでダメなら今の俺にはまず勝ち目はないだろう。

 やっと目くらましから回復したオーガは、棍棒を振りかぶりながら俺の元へと突っ込んでくる。あと10m……5m……今だ!!


『喰らえ俺の全魔力!! 轟魔雷炎槍プラズマ・クラスター!!!』


 オーガに向かって全力で投擲した槍は、一気に加速して一直線に攻撃対象に向かっていく。オーガもそれに対して棍棒で打ち返そうと試みるが、棍棒が触れた瞬間、轟魔雷炎槍プラズマ・クラスターの超高熱で瞬く間に炭と化してしまう。そのまま勢いが衰えることもなくオーガの巨体の中心に突き刺さった。


「貫けぇぇぇ!!」


「HUGAAAAAAAAA!!!!」


 オーガの強靭な魔法防御をぶち抜き、巨大な体躯に風穴を開けながら貫くと、槍は慣性を失うことなく光の帯を残しながら空の彼方へと消えていった。


「HUNGAAAA…AAA…」


 断末魔の声を上げてオーガは地面に倒れると、赤い光の粒子になって消え去ってしまった。


「そこまで! 勝者クロちゃん!」


 …どうやら倒しきれたらしい。魔力を使い切り、慣れない収束魔法を限界まで使用した俺の体は無理が祟ったのか限界を迎え、その場に崩れるように座り込んだ。連敗を喫した相手に勝った優越感と、魔力不足による気持ち悪さが入り混じり、なんだかよくわからないことになっていた。


「おめでとうクロちゃん! 最後の魔法凄かったね~。まさか魔法を融合するなんて思わなかったよぉ」


 座り込んだ俺を優しく抱き上げ、慈しむように頬ずりしてくる。


「ありがとう、母さん。結構ギリギリだったけどね」


「うんうん。これでクロちゃんはお母さんの訓練卒業だね」


「え、そ、卒業?」


 どういうことだ? これが卒業試験なんて聞いてないぞ。


「私の手持ちの上位召還獣、レッドオーガのルガールくんを倒すことが訓練の最終目標だったってことだよ。それに2歳から今日までずっと訓練ばっかりさせちゃったからねぇ。遊びたい盛りのクロちゃんに無理なことさせちゃってるなぁってずっと思ってたんだぁ」


「母さん…」


 たしかにこんな鬼のような戦闘訓練、普通の幼児は絶対やらないだろう。下手したら死ぬし。もうちょっと早く気付いて欲しかったよ母さん…。


「だから、これからはクロちゃんの好きなようにして欲しいんだ。訓練するもよし、遊ぶのもよし、魔法以外の他のことを頑張るのもいいしね。もちろん、お母さんに訓練して欲しかったらいつでも言ってくれていいからね」


「…わかった。母さんに教えてもらった事を忘れることなくこれからも頑張るよ。今日まで…ありがとうございました!!」


「うん! お疲れ様、クロちゃん!」


 こうしてリューネ母さんの訓練地獄ブートキャンプが終了した。今日まで学んだことを胸に、俺はモテ魔導師道を邁進していくことだろう。今日までありがとう、母さん。




      §    §    §    §    §





 コンコンと俺の部屋のドアをノックする音が聞こえる。


「おはようございますクロード様! もう起きてらっしゃいますか?」


「あぁ起きてる。入っていいよフィリス」


「はーい! 失礼します!」


 この元気な子はフィリス。年は俺より7歳上の12歳で、俺専属のメイドさんだ。俺専属のメイドさん…いい響きだ。半年前に、俺はもう5歳になるんだから専属のメイドをつけたほうがいいんじゃないかとオリビア母さんからの貴重な意見が上がり、父さん達もそれを了承した。どんなメイドがいいかと聞かれたから俺は迷わず答えたね。獣人のメイドさんがいいと! メイドさんといえば獣人。獣人といえばモフモフ!! モフモフ!! しかもメイドだから逆らえない!!! まぁ無理やり触ったりする気はないけど。


 そんなわけで狐人族のフィリスが晴れて俺のメイドになった。たまにドジもして食器を割ったり、バケツの水をひっくり返したりするけど、俺的にはむしろご褒美です。


「今日は洗礼式ですので正装の貴族服を準備をいたしますね」


「うん、お願い。父さんに恥をかかせるわけにもいかないから頑張るよ」


「はい! 私も精一杯お手伝いいたします!」


 この世界は前世と違って子供が死にやすい世界だ。だからこそ5歳まで無事に育ったのを祝い、今まで健康に育てられたことを教会で神と両親に祈りと感謝を捧げる儀式が行われる。その結果、神々からの祝福と加護を授かり、身分証としても機能するステータスプレートが授与される。それが洗礼の儀だ。


「クロード様、服も髪型も準備完了です! 今日もとってもかっこいいですよ!」


「ありがとうフィリス。それじゃ行こうか。と、その前に耳触らせて?」


「嫌です!」


 あっさり断られた俺は、フィリスと一緒に部屋を出て朝食をとりに食堂へと向かう。そこには父さんと母さん達、フェリシア姉さんも待っていた。


「おはようみんな。待たせちゃった?」


「いや問題ない。それよりも見違えたぞクロード! さすが俺の子だ! 良く似合っているぞ!」


「ほんとね。リューネに似て可愛い顔してるから余計に似合ってるわ」


「クロちゃん可愛いよぉ! 早く抱きしめさせてぇ!!」


「ママずるい! 私もクロくん抱きしめる!!」


 そのままリューネ母さんとフェリシア姉さんに捕まりギューッとされ続けた。抱きしめられるの気持ちいいから大歓迎だけど、とりあえず朝食食べさせて?

 

 その後みんなで朝食を採り、洗礼式へ向かうため筋肉ムキムキの敏腕執事、サムソンに用意された馬車にみんなで乗り込む。6人乗りのグレイナード家の紋章が入った高そうな馬車だ。

 ここからファルネス領内にあるクリスティア教会へ行くことになる。


「それじゃ行ってくる。あとは頼んだぞサムソン」


「はっ! お任せ下さい旦那様! では出発してください」


 御者に指示を出し馬車が動き出す。なにげに馬車に乗るのって初めてだからなんか嬉しい。

 

 …しかし、楽しんだのは最初だけだった。


 まぁこの世界の馬車にサスペンションやショックアブソーバーが付いてるわけでもなく、舗装もアスファルトではなくレンガ作りだからかなりガタガタ揺れる。そしてお尻が痛い。父さんとかは平気な顔してるけどよく耐えられるな。密かに念動魔法サイコキネシスでお尻を浮かせるとちょっと楽になった。




 暫くしてクリスティア教会の正門前に到着し、その場で馬車を降りてみんなで教会内部へと入っていく。綺麗に整備された庭を抜け、正面入口の横にある受付へ赴く。


「子供の洗礼の儀を予約しているガルシア=グレイナード・ファルネスだ」


「はい、ようこそいらっしゃいました領主様。司祭様より予約の件を伺っております。こちらへどうぞ」


 受付嬢は礼儀正しく一礼し、俺達を教会の中へと誘導する。


 教会の中には、数多く並べられた椅子の奥に祭壇があり、その後ろには10体の神の像らしきものが祀られていた。祭壇の前には司祭らしき人が笑顔で待ち構えている。


「ようこそいらっしゃいました領主様。司祭のクリムド=アガーシュでございます」


「ガルシア=グレイナード・ファルネスです。今日は我が子をよろしくお願いします」


「はい、承りました。それではこれより、クロード=グレイナード様の洗礼の儀を執り行わさせて頂きます。ご家族の方は椅子にお座り頂き、クロード様は祭壇の前へをお進みください」


 司祭様に促されるまま前へと進み、事前に学んでいた通りの作法で祭壇の前で片膝をつき、両腕をX字に重ねて祈る姿勢をとる。


「クロード=グレイナードよ、我らが十神教が讃える主神、全能の創造神フェレトリウスが、汝が洗礼の儀を迎えられた事を祝います。真理の源なる天主、主は誤りなき御者にましますが故に、我は主が公教会に垂れて、我らに諭し給える教えを尽く信じ奉る。今後も我らが神を敬い讃えたまえ」


 祝詞を読み上げると、司祭様は後ろにある神像に膝を付き祈りを捧げる。


「この世界の子らを見守りし我らが十の神々よ、クロード=グレイナードに神の啓示とご加護を授け、かの者のこれからの進むべき道を示したまえ」


 俺もそれに習い目を瞑り、神に祈りを捧げる。


(女神セラスヴィータ様、色々あったけど5歳になりました。これからも見守ってください)




 その瞬間、10体の神像が光を放ち輝き始めた。それと同時に俺の視界が真っ白になり、意識がどこかに飛ばされるような感覚に陥った。

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