悪役令嬢の娘だけど復讐のために父親である国王を殺しにいきます

白濁壺

第1話


 『公爵家令嬢ナディリアを国外退去処分とする』


 母がいわれのない罪で国を追われてから10ヶ月後、異国の地で私を生んだ。

 私の父親はベルゼグル王国リーデリッヒ二世国王陛下である。

 もちろん認知もされていないし、父は私が生まれたことさえ知らないという。


 今まで父のことを話してくれなかった母が死の間際私に全てを話してくれた。


 婚姻を結ぶ前に変装して部屋に押し入って無理やり母を抱いたこと。

 そしてそれを不貞の証拠として自ら聴衆の前で母を糾弾したこと。

 当然、清さの証拠は既に破られているため反論ができなかったこと。

 そして父親には母の他に愛する人がいたこと。


 父であるリーデリッヒ二世は愛する人と結婚したいがために私の母の母を貶め国外追放したのだ。


 私はそれを聞いた時ハラワタが煮え繰り返る思いがした。


 そして母は死んだ。


 『もし、お金に困るようなことがあれば父親を訪ねなさい』と言う言葉を残して。


 母は女手一つで私を育ててくれた。貧乏だったけど食べるものには困ったことがない、元公爵家令嬢が平民に混ざって子供を育てながら働くことがどれだけ大変か、私には推し量れない。


 いつも文句も言わず働き優しかった母。


 しなくてもいい苦労をさせた父親を許せない。


 優しい母を裏切った父親を私は絶対に許せない。


 だから、私は復讐することにした。


 母は復讐など望んでないだろう。


 復讐は何も生まないと言うだろう。


 だけど、そんなことは関係ない。私が復讐したいのだ。優しい母を犯し、ありもしない罪を作り嵌めた父親に。




「なるほどね、ナディさんにそんな事情があったのか」

 ナイスト博士は死んだ母を思い出し感慨深く頷く。博士ははマッドサイエンティストで、あまりの異端さにベルゼグル王国を追い出された咎人とがびと だ。

 そして同じ国から追い出された母に博士は住む場所や仕事を紹介してくれた、いわば母や私の恩人でもあるのだ。


「博士、だからお願い。私に力を、あいつらに復讐する力を頂戴」 


「ミディア、そんなことをしてもナディリアは喜ばないぞ」

 私の願いに博士は頑として首を縦に振らない。母であるナディリアに面目が立たないと言って。


「博士、これは取引よ。博士は私の体で実験ができる。私は力を得ることができる。ただそれだけ」

 私が同情や知り合いだからということで博士に力が欲しいと言ったのではなく、純粋な取引を持ちかけた。

 その目論見はあたり、純粋な取引なら博士は首を縦に振るしかなかったのだ科学の探求者として。


「わかった、自分で決めたことならこれ以上止めるのはエゴじゃな」


「ありがとう博士」

 そして私は博士にその身を差し出し復讐するための力を得た。


◇◆◇◆◇◆


「ひゃっはあぁぁぁ!! 極上の女だぜ!」

 モヒカンヘアーの男達が私の周りを馬で駆け回り囲む。どうやら傭兵崩れの盗賊のようだ。

 盗賊達は馬から降りてニヤニヤ笑いをしながら私を取り囲む。身なりを整えることを知らない男たちの体からは汚物のような体臭が漂い嗚咽を誘う。

 態は人を表すと言うように精神も汚物なら外見も汚物なようね。


「女が一人で歩いて旅とは不用心じゃねぇか? それとも俺たちに可愛がってもらいたかったのかな。 ん? ん?」

 男の一人が私のアゴに手をかけ顔を上げさせる。


「おいおい、まじでぺっピンだぜこいつは高く売れるぞ」


「そう、私そんなに高く売れるの?」


「なんだい、やっぱり売られたかったのか。まあ売るにしても俺たちが楽しんだ後だけどな」

「ヒャヒャヒャ兄貴、俺二番でお願いしやすぜ」

 盗賊達は武器を持っていない私に油断して完全に警戒を怠っている。

 それが最後の会話とも知らずに。


「だけど残念ね、この体はまだローンが残ってるから売れないのよ」

 私がそう言うと3人の男の首がポトリと落ちる。


「ひゃっ! なんだテメェのその腕は!」

 私の右手は超音波ブレードになり一瞬で敵を切り裂いた。

 残りは五人。

 左腕を魔導銃に変え、フルオートで盗賊がミンチになるまで撃ちまくる。弾は外気のマナを変換して作るエネルギー弾なので、その弾数は無限大だ。


 一人を残し盗賊は全て皆殺しにした。残したのは話をしたかったから。今の私の気持ちを誰かに聞いて欲しかったから。

「ひぃいぃぃぃ、なんでもする殺さねぇでくれぇ」

「今ね私は生まれ変わって、汚い身体を捨てられて最高な気分なの。だから優しく殺してあげるわ」

 男の頭に手を置くと超音波を発して脳をシェイクさせペースト状態にする。男は鼻や耳から血を流し絶命した。

 死んだ男の体を魔銃で打ち抜きミンチにし残った頭を踏み潰すとまるでスイカのようにベチャリと潰れた。


 生まれ変わった身体で何者にも侵されない力を得て私の心は晴天のように晴れやかだった。初めての殺しもまるで鶏を捌くように何の感慨も浮かばなかった。

 それはそうよね悪人は人ではない、ただの肉なんだから。

 せめて土中の栄養になって綺麗な花でも咲かせて見せなさい。


 だけどしばらくするとその晴れやかな心も曇りに変わる。だってそうでしょう、私が本当に殺したいのは父親なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪役令嬢の娘だけど復讐のために父親である国王を殺しにいきます 白濁壺 @white_pot

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ