第ニ章 麗香


「………ごめん、少しだけ。」


そう呟くと、秋人は声を上げ泣き出した。

誰にも言えなくて、誰にも甘えられなくて

強いふりをしてきたのだ。小さな心で。

誰にも分かってもらえなくて

誰にも信じてもらえなくて、そうやって、心を閉ざしてきたのだ。


麗香は、秋人が愛しくて、たまらなかった。


「話してくれて、ありがとう秋人。私も、いつか話せる時がきたら、話すね。その時は、聞いてね。」


秋人は泣きながら、何度も頷いた。


-それから、何時間過ぎただろうか。グイッと涙を拭うと秋人は、顔を上げた。


「泣いたら、お腹空いた。」


秋人の言葉に、麗香は、クスッと笑う。


「何か、食べてきたら?」


「うん。麗香さんは?」


「私、お腹空かないの。幽霊だから。」


フフフと笑う麗香に、秋人も、フッと笑う。


「幽霊って、便利だね。」


「でしょ?年も取らないのよ。」


そう言ってウインクをした麗香を優しく見つめる秋人。


「待っててね。すぐに戻るから。」


「待ってるわ。……ずっと、待ってるから。」


微笑んだ麗香に、背を向けたまま、秋人は呟く。


「……ありがとう。」


バタンと閉まったドアを見つめ、麗香は、一人寂しく、呟いた。


「……待ってるから。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る