第ニ章 麗香


-二人だけの結婚式を挙げよう。この家で。このウェディングドレスを着て、待っててくれ。必ず、行くから。-


 あれから、もう何年の月日が流れたのだろう?あの言葉を信じて、一人、この家で待っていた。毎日、毎日、今日は、今日こそは来てくれる。そう信じて。


本当は、分かっていたのかもしれない。いくら待っても来ることはないと。その事実を認めたくなかったのかもしれない。だが、今でも、こうして、待っている。決して、来ることはない、待ち人を待って。


真っ白だったウェディングドレスは、やがて、薄汚れ、所々、破けてゆき。身体は次第に痩せて、細くなっていった。そして、動けなくなって。そして……。


 眠っていたのか、麗香は、うっすらと瞳を開けた。身体を起こすと、机に向かって座っている秋人の姿があった。


「私……寝ちゃってた。」


麗香の声に、クルンと椅子を回し、秋人がこちらを向いた。


「疲れたんじゃない?待ち過ぎて。」


一瞬、ドキッとした。秋人には、何も言わなくても、読まれている気がした。


「…もしかして、もう、分かっているの?」


静かに尋ねる麗香に、秋人は応える。


「僕には、心を読むことは出来ないよ。僕に、出来ることは、消すことだけだから。」


「消す……?」


眉を寄せる麗香。秋人は言う。


「消滅させること。その存在を消すこと。生まれたことも、生きてきたことも、全て無かったことにして、消すことだよ。」


その言葉に、しばらく考えていたが麗香は、静かに口を開いた。


「……それを望む、霊もいるの?」


「いるよ。その時は、消してあげるんだ。」


「そう………なのね。もし………もし、私が消して欲しいと言ったら、消してくれるの?」


呟いた麗香に、秋人は無表情で応えた。


「麗香さんが本当に、それを望んでいるなら。」


麗香は、口を閉ざし、黙ってしまった。秋人は、力無く、息をつく。


「……消えたいの?」

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