第ニ章 麗香


-待ってるわ。私、ずっと待ってる。白いウェディングドレスを身に着けて。この家で、あなたを待ってるから。待つわ、いつまでも。愛しい、あなた-



-神崎一家がこの家に引っ越ししてきたのは、10年前のこと。秋人が7歳の時だった。


「秋人、ここが今日から我が家になる家だよ。秋人の部屋もあるからね。」


父親は、そう言うと、家の鍵を開けドアを開いた。築5年の家。引っ越しして来るはずだった前の持ち主が一度も住まず、ずっと、空き家になっていた家である。


母親に手を引かれ、玄関に入った秋人は、ボロボロのウェディングドレスを身に着け、悲しい瞳で見つめる女の姿に足を止める。何もない空間を見つめる秋人を見て、母親は父親の元へ向かい、眉を寄せた。


「あなた、あの子がまた……。何かいるんじゃない?」


そう言った母親に、キッチンから玄関に立つ秋人を見て、父親は、少し冷めたように言った。


「秋人。お前の部屋は2階だから、見ておいで。」


父親に言われ、靴を脱ぐと秋人は、2階への階段をトントントンと上って行った。


「嫌だわ。引っ越して、早々……。」


「お前も、いい加減、慣れなさい。秋人の母親だろう?今までだって、そうじゃないか。」


「そうだけど……。」


父親と母親の、そんな会話を聞きながら、秋人は、部屋のドアを閉めた。


「いるんでしょ?入っておいでよ。」


秋人の声に、閉まったドアを音も無く、スゥーとすり抜け、女が入って来た。

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