第4話 ナポリタン その4
店内には、想像以上に異様な光景が広がっていた。
カウンターオンリー、客全員が壁側を向く形。
会話をしている人たちはおらず、
皆黙々と食べているか、
提供されるのを待っている。
おいおい、
立ち食いそば屋でももう少し会話があるぞ。
そして、もう一つ俺の目を引いたのは、
客が食べているスパゲティだった。
とにかく、
「・・デカい」
銀皿に載っている麺が、小山の様になっている。
まるで食べ放題の店の様だ。
まさか、あの量がこの店の基本なのか?
だとしたらマズい。
唖然としていた俺は、店員の声で我に返った。
「いらっしゃいませ。お客さん、食券を」
差し出された手に食券を渡した後、
店員が続けて問いかけてきた。
「いくつにします?」
問われた俺は理解できない、
オウム返しで、
「いくつ?」と、問い返すと。
「麺の量です。400、500、600gまで追加料金なしです」
待て・・・600?、麺の量が600?
部活帰りの高校生か。
「通常はいくつです?」
「300ですね」
って事は、追加料金なしで
麺の量が倍になるのか・・・・・・って、
何考えてる俺。
普通に考えて、600なんて食えるわけがない。
いや、学生の時なら食えたか?
あの頃は部活帰りにラーメン食って、
家に帰ってからも普通に飯食ってたしな。
600なんて余裕・・・・っ、おいっ!
俺は頭を振って雑念を追い払う。
50を過ぎたおっさんが、
若い連中に交じってなにやってる。
分相応に振舞おう。
ここは無難に、
「600で」
口からは頭とは逆の数字が滑り出ていた。
「はーい!ナポ600入りました!、こちらの番号札を持って席でお待ちください」
呆然としたまま番号札を受け取り、
俺は空いていた端の席に座る。
座った途端、頭を抱えた。
何をやった?俺は。
600?スパゲティ600g?
無難に300じゃなかったのか?
正直に言おう、
学生の頃を思い出して攻めてみたいと頭をよぎったのは認める、
だが、俺は53だぞ。
年々食も細くなり、
あの頃みたいに肉も油物もあまり食わなくなった。
そもそも、
食い物に対する興味も全然無いだろうが。
それが若者に交じってスパゲティ600gだと?
正気か?
あぁマズい、本当にマズい。
ただ、そう思いながらも、
気持ちのどこかが沸々と湧いていた。
何かを思い出し、
それが段々と広がっていくのを感じていた。
これは何だ?
この気持ちは何だ?
思い出せ・・・・・この気持ちは。
「32番でお待ちの方!お待たせしました」
店員の声で我に返り番号札を見る【32】番、
俺だ。
席から立ちあがり、受付カウンターに向かった。
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