きっかけ
きっかけは、小さなことだった。
ある日、彼女がとても困った様子で学校の駐輪場を歩き回っているのを見つけた。
「何してるんだよ」
放っておこうかと思ったが、気づいたら声をかけていた。
彼女は不意を突かれたのか、びくりと肩を震わせこちらを向く。
「んっ、誰かと思ったら伊月くん。実は、自転車の鍵無くしちゃって……。
あれが無いと帰れないの」
そう言い終えると、彼女は鍵探しを再開した。
あまりにも必死そうなその姿を見ていると、
「俺も手伝う」
と助けずにはいられなかったのである。
「ありがとう、伊月くん優しいんだね」
彼女はそう微笑むと、鍵の特徴を説明し始めた。
幸いその後すぐに鍵は見つかり、彼女は帰路につくことができた。
「本当にありがとう伊月くん、助かったよ」
心からほっとした表情で、彼女は礼を述べた。
その様子を見て、俺も心があたたまる。
それに、人から「優しいね」と褒められたことなどほとんど無い。褒められるのは、決まって兄の方だ。
とても、新鮮な体験だったのである。
それ以降何かと彼女のことを意識してしまい、沢山良いところを知った。
実は料理上手であるとか、本が好きで色々なことを知っているとか。
知れば知るほど好きになるし、彼女と仲の良い兄を羨ましく思ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます