第91話 エピローグ 二

 「お待たせしました、中野さん。」

「いえ、全然待ってないですよ。」

 その翌日、僕は平沢さんを大学内のカフェに呼び出していた。

 …それは僕と平沢さんとが出逢うきっかけとなった場所。

 あの時僕が平沢さんとぶつかっていなかったら、2人の出逢いはなかった。

 その日の平沢さんはやはりおしゃれで、薄い水色のコートを着ていた。

 やっぱり、いつみても平沢さんはかわいい。

 「平沢さん、今日は僕から話が…、」

「その前に中野さん、私の方から話があります。」

 平沢さんは椅子に座り、続ける。

 「中野さん、こうしてあなたとお逢いするの、今日で最後にしてもらえないでしょうか?

 私、中野さんのことが好きです。中野さんを、心からお慕いしています。

 ―私にとって、こういった『感情』、いえ感情と言って良いのかどうかは分かりませんが、こういったものを持つ、こういう気分になるのは初めてです。

 だからこそ、私はあなたを傷つけたくありません。

 ですから、私みたいな『ゾンビ』と一緒に過ごすのは、中野さんにとっても苦痛になると思われますので―、」

「待ってください!」

 少し声が大き過ぎただろうか?ただ、僕はそれに構わず平沢さんの言葉を遮る。

 しかしその遮りは、昨日のものとは意味が違う。

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