第86話 恋の話 二十九

 もちろん私には感情がないので、「面白い」と実際に思っているわけではありません。しかし、周りを注意深く観察していれば、どのタイミングで笑えばいいのか何となく分かってきます。そしてそのタイミングで笑うことを繰り返していくと―、不思議なことにいじめはなくなりました。そして私は、そんな「愛想笑い」の重要性に気づきます。

 すると両親も一安心し、両親の顔からも笑顔が見られるようになっていきました。それは両親が、「私がついに感情を持つようになった。」と考えたからでしょうか?いえ、そうではなく、両親は私が無理をして笑っていることを見抜いていたと思います。それでもいじめがなくなったことに、両親は安堵したのでしょう。

 そしてその頃、いじめがなくなった頃に、私には興味のあることができました。それは、ご存知の通り宇宙です。「宇宙」というものは人間の感情を含めた存在をはるかに超越するもので、そこには感情を持ち合わせていようがいまいが、ゾンビであろうがなかろうがそんなこととは関係なく悠然と存在している―。私はそんな宇宙の姿を見て、少し安心したことは事実です。しかし、私が宇宙に関心を持ったのはそれだけが理由ではありません。もっと大きな理由、それは単に「宇宙が好き。もっと勉強したい。」という、純粋な好奇心です。

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