鏡の城(2)

 鏡の王には3人の兄弟がいる。双子の兄として生まれた、鏡の王国の王、アラン王。双子の弟、太陽の王国の王、アーロン王。そして、末っ子の弟、暗闇の王国の王、エリック王。


 今から38年前。当時、アラン17歳、アーロン17歳、エリック16歳、この3人兄弟は仲が良かった。しかし、アリスと同じ世界から1人の女性がこの世界に迷い込んだせいで、結果的に3人兄弟の仲が悪くなってしまった。


 ある日。

 アランは婚約者のアメリシアといつものように、お城の庭園を散歩していると。1人の女性が倒れていた。

 すぐに医者を呼び手当をし、何とか命は助かったが。その女性は、自分が誰なのか、どうしてここにいるのか、何も覚えていない。その女性は記憶喪失だった。

 この時、その女性を看病したいとエリックが言い出し。その女性が自分の名前を思い出す間、仮の名前をつけ、エリックはつきっきりで看病し。その甲斐あって、1ヶ月経った頃。仮の名の女性は体調もよくなり、歩けるようになり、見違えるほどに元気になった。


 一方、当時の鏡の王は、仮の名の女性がいったい何者なのか家来に調べさせ。なんの情報も得られないまま、1ヶ月経ち。やはり、自分の名前を覚えていない者がパスポートを呼び出してもパスポートは現れない。そこで、王は仮の名の女性に、新たなパスポートを用意した。

 すると、エリックは王に、彼女にはパスポートはいらない、彼女と結婚すると言い出した。


 王族と王直属の職業の者たちは、胸にバッジを着け、パスポートは必要ない。


 王はエリックに、記憶喪失者と結婚させるわけにはいかないと言い。それに、今のお前は結婚できる器ではないと、結婚に反対し。彼女の気持ちはどうなんだ、お前の片思いではないのかと言われ。何一つ言い返せないエリック。

 王は、仮の名の女性の記憶が1年過ぎても戻らない場合は、この城から出て行ってもらうことを決め。この王国の国民として暮らすことを仮の名の女性に命じた。


 このことがきっかけで、王とエリックの仲が悪くなり。来年は、兄2人は結婚をする。そのことでエリックは1人とりのこされ感じになり、兄2人を羨むようになった。

 そんな中、仮の名の女性のパスポートを作って1週間過ぎた頃。突然、仮の名の女性は自分の名前を思い出した。その名は、スザンヌ。

 すると、パスポートにはスザンヌの名前が刻まれ。エリックは、スザンヌの記憶が全て戻れば、この気持ちを伝えられると思った。

 一方、スザンヌは、アメリシアとアーロンの婚約者、アイリスとまるで姉妹のように仲がよくなり、お城で楽しく暮らし。

 一方、エリックと王の仲はこじれたままで、兄弟との仲はぎくしゃくし、エリックは1人、孤独を感じ。スザンヌの記憶は戻らず、1年が過ぎようとしていた。


 そんなある日、アランとアーロンの挙式を1週間後に控え、その準備をしていると。お城の庭からエリックの叫び声、助けを呼ぶ声か聞こえる。

 その叫び声に気づいた、家来たちは急いで庭に行くと、そこには、スザンヌが倒れていた。

 すぐに医者を呼び見てもらうと、別問題ないと言われ、しばらく様子を見ることになり。その2時間後、エリックが真っ青の顔で頭を抱え庭園のベンチに座っていると。そこに、アランとアメリシアが通りかかり、その光景を見てアランはエリックに声をかけ。

 すると、アランとアメリシアは思ってみないことを聞き愕然とした。スザンヌが全ての記憶を取り戻し、スザンヌはこの世界の人間ではないと言う。エリックはその場に泣き崩れ。アランは言葉を失い、何も声をかけられなかった。


 スザンヌと1番仲が良かったアイリスは、スザンヌが記憶を取り戻したことを知り、急いでスザンヌの部屋に行くと。スザンヌは窓の外を見ながら寂しそうにしている。

 スザンヌはアイリスに気づき、記憶を取り戻したこと、この世界に迷い込んだ経緯を話した。

 私はこの世界の人間ではない。別の世界から来た人間。私はここに来る前に、結婚まで考えていた人に裏切られ、これからどうしたらいいのかわからなくなり。泣きながら、水車小屋の近くで泣き崩れ。気がついたら森の中にいた。ここがどこなのか、私は誰なのかわからない。私は歩き、歩き続け。この城にたどり着き、気を失った。


 スザンヌとしては、記憶を取り戻した以上ここにいる訳にはいかない、元いた世界には家族がいる。しかし、ここで暮らした1年間を思うと、これからどうしたらいいのか、スザンヌは悩んでいると。アイリスは涙を浮かべ、元の世界へ戻るべきだと言う。だが、元の世界へ戻るすべがわからない。

 その時、そこへ王が現れ、いきなりお城の地下室に眠る太陽のドアの話を始めた。


 太陽のドアとは、150年以上前からこの島に存在するドア。一見普通のドアに見えるが、そのドアの前に立ち、願いを言い、ドアが開けば、願いを叶えてくれる。但し、ある条件が揃わないと太陽のドアは開かないと言われている。

 その条件がなんなのかわならないが、1度試してみてはどうかと王は言う。


 さっそく、地下室へ行ったスザンヌとアイリス。太陽のドアの前に立ち、「元の世界に戻りたい」と言うが、太陽のドアは開かなかった。

 いったいどうすればドアが開くのか、王が言う条件とは何なのか、2人は頭を悩まし。

一方、エリックは、スザンヌが元の世界に帰りたいと思っていることを知り、部屋に閉じこもった。


 太陽のドアを開く条件がわからないまま、5日が過ぎた頃。エリックは意を決し、スザンヌに、ここに残ってもらえないか説得をしにスザンヌの部屋に行った。スザンヌの部屋は、この城の1番高いところ、高さ40メートルの場所にはある。


 エリックは、スザンヌの部屋のドアの前に立ち、ドアをノックし、部屋に入るなりいきなり。

「スザンヌ、頼む! ここに残ってくれないか!? 君がいないと、私はこれからどうしていいいかわからない……」

「何いっているの!? 今のあなたはなんの!? 情けない顔して、そんなことで、この城の王になれと思うの!?」

「スザンヌに、俺の気持ちなんかわからない!」

「わかるわよ! 私だって、あの人に裏切られて、これからどうしよって、でもね、どうにもならないこともあるの」

「だったら、この窓から飛び降りてやる! スザンヌがいない人生なんて……」


 エリックは、窓の近くにあったテーブルに乗り、窓を開け。


「バカなまねはやめなさい! あなたは何もわかっていない。あなたはこの世界に必要な人。私だって、記憶が戻らなかったら、ここにずっといるつもりだった」

「だったら、ここにいればいいじゃないか!?」

「私は、ここの世界の人間じゃない!」

「それは、わかっている……」

「あなたは、私の命を救ってくれた、優しくしてくれた、感謝しています。あなたが看病してくれたおかげで、私はこうして生きていられる。ここで過ごした日々は絶対に忘れないし。もう一度誰かを信じてみよって思った」

「わかっている、どうにもならないことぐらい……。ただそばにいてくれたら」


 その時、テーブルがぐらつき。

「あっ、エリック! 危ない!」

 テーブルが傾き、エリックはその反動で体制を崩し、窓の外へ投げ出された。

 ところが、間一髪でスザンヌが窓から身を乗り出し、両手でエリックの足首を掴んだ。

「エリック、しっかり! 今引き上げるから!」

「スザンヌの力では無理だ! 手を放せ! このままだと2人とも落ちる」

「何言ってるの!? 救ってもらったこの命、今度は私が助ける番、あなたを見捨てたりはしない。あなたを絶対に助ける! 私は負けない! この命に代えても」

「何いってる!? 離せ!」

「ダメー! 絶対に助ける!」

 その瞬間、スザンヌの体が少し浮き、窓の外に投げ出され、2人とも地上へ落ちて行った。

 その時、スザンヌの部屋の窓からパスポートが飛び出し、光りを放ち、その光が円になり、2人を包み込み、透明な球体は空中で静止し、2人は呆然としている。

「エリック、私たち浮いてるよ」

 スザンヌの手にはパスポートが。

「スザンヌ、パスポート見て見ろ、黄金の紋章が2つある」

「……エリック、これって……」

「初めて見た、こんな紋章……」


 2人を包み込んだ透明の球体は、ゆっくりと地上へ降りて来る。下を見ると、アイリスとアメリシアが2人の名を叫んでいる。

 2人無事に地上に降り立ち、透明の球体は消え。この出来事が、あの太陽のドアを開く条件を見つけるきっかけとなった。


 実はこの時、パスポートが作ら200年経ち、記念行事を控え、古文書を整理している真最中だった。王自ら、この機会に古文書を調べ直し、太陽のドアのことを調べていた。しかし、太陽のドアを開く条件が記載する文献が見つからない。

 

 そんな時、この出来事が起き。王も知らなかった黄金の紋章のことを調べていると意外なことがわかった。


 古文書によると、本来パスポートは身分や生きた証を示すもの。但し、使う者によってパスポートは変化し、いつどこで変化するかはその人次第。

 紋章には特別な紋章、黄金の紋章が5つある。正義の紋章、勇気の紋章、信じる心持ち、強い意思の紋章、思いやり、優しさを持つ紋章、持ち主の紋章。他にも、これ以外の紋章が現れるかもしれない。

 古文書にはそう書かれ、スザンヌのパスポートには、正義の紋章と持ち主の紋章、スザンヌの紋章を意味する、Sの文字が刻まれていた。そして、この古文書の最後のページには、太陽のドアに関する記事が見つかり。黄金の紋章を持つものが太陽のドアを開くことができると記載されていた。

 この日、スザンヌは別れが辛くなると思い、置手紙をして、1人地下室へ行き。太陽のドアを開け、元の世界へ戻って行った。

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