パスポートの秘密(3)
アリスは、パスポートを見ると、午後3時。宿泊所には、午後6時に着く予定。あと3時間も歩かなければならない。今度は、平たんな山道を歩き。この一本道の先には宿泊所がる。しかし、それを示す物はなにもなく。ただ、宿泊所から500メートルくらい手前に来ると、パスポートが音で知らせ、黄色の紋章が光り始める。
アリスは、湖から休まず歩き続け、足の疲れや痛みが限界に近くなり、一旦立ち止まり。水筒の水を飲み、パスポートを見ると午後5時。辺りを見ると、陽が落ちかけている。
アリスは足の痛みをこらえながら、また歩き始め。20分くらい歩くと。パスポートから音が聞こえ。ポケットからパスポートを取り出すと、音が消え。黄色の紋章が光っている。どうやら、宿泊所が近い。そのまま歩いていると、光が徐々に明るくなり。
すると、右側の方に1件の建物が見え。周辺には建物はなく。辺りは少し薄暗くなり、急いで建物の所へ行き。パスポートを見ると、黄色の紋章の光は消え。青の紋章を触り、ランプの明かりより遥かに明るく、辺りが良く見え。ドアをノックすると、声はなく。アリスの持っているパスポートがドアに反応し、ドアの鍵が開き、ドアを開けてみると。中は割と広く綺麗。こごが、あのおじいさんの言っていた宿泊所。
部屋の真ん中には大きめのテーブルがあり、左側には3段ベッドが2つ、右側には3段ベッドが1つある。正面の奥の方には、屋根裏部屋の階段が見え。右側のベッドの近くに、パスポートの形をした物が壁に張りついて、それを触ると部屋全体が明るくなり。アリスは、ふとあの家もランプ点けるより明るかった。
アリスはパスポートの明かりを消し。リュックをテーブルに置き。辺りをよく見ると。どうやら、ここにいるのは自分1人。
椅子に座り、一息つき、足をさすり、もみほぐし。しばらく、ぼーっとしていると、お腹が鳴り、夕食を摂ることに。
あまりの静かさに、少し不安になったが、パンを食べ元気が出た。
夕食がすむと、突然。
「アリス、暗闇の住人が近づいています。この場所から外へ出てはいけません!」
「パスポートさん。私、お礼が言いたくて」
「それはいいですから、パスポートを見なさい!」
パスポートを見ると、赤の紋章が光、危険が迫っている。
「私、どうしたらいいの?」
「大丈夫。この家から出なければ大丈夫。すぐに明かりを消して」
部屋の明かりを消し。
しばらくすると、宿泊所のすぐそばに、暗闇の住人が2人現れ。暗闇の住人の1人が何かに気づき。
「食い物の匂いがするな!?」
「兄貴、あの家から食い物の匂いがします」
アリスはテーブルの下に隠れ。
暗闇の住人のもう1人が、辺りを窺い、宿泊所に近づこうとしている。
すると、兄貴を名乗る暗闇の住人が。
「ちょっと待て! この家は駄目だ。鏡職人の細工がしている。この眼鏡をかけて見てみろ」
眼鏡をかけると。家の回りには鏡が埋め込まれ。この鏡に暗闇の住人が近づくと鏡の王国の家来がやってくる仕掛けになっていた。
「兄貴、どうします?」
「ちょっと耳を貸せ」
この2人、何やら耳打ちをしている。
「兄貴、お腹へってもう動けない」
暗闇の住人の1人が、その場に突然倒れ込んだ。
「弟よ、大丈夫か!? しっかりしろ! 誰かいませんか!? 4日間何も食べていないのです。すみません、誰かいませんか!? 弟だけでもいいですから、何か食べ物を、おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」
アリスは、テーブルの下から出ようと。
「アリス、騙されただめだよ」
「でも、私、行って来る」
「アリス、行ってはいけない、罠よ!」
「大丈夫。信じなくちゃ」
アリスは、パスポートの言うことを聞かず、リュックを背負い、外へ出て行くと。
家の周りが急に明るくなり、目の前には、あの暗闇の番人と同じくらいの大男。アリスの身長の3倍はある。
アリスはその光景にひるまず。
「このリュックにパンが入っています」
「ひっかかったな。こんな手に騙されるとは、やはり子供だな。テーブルの下に隠れたても、バレバレなんだよ!」
そこには暗闇の目があった。
暗闇の住人の1人は、何もなかったように立ち上がり、平然と。
「兄貴、うまくいきましたね」
「リュックを渡してもらおうか!? もし妙なまねをしったら、子供だからと容赦はしないかい。わかったら、そのリュックを渡せ!」
兄貴を名乗る暗闇の住人はアリスを睨み。
「どうして騙したの? 私、信じていたのに」
「信じる!? 笑わせんな! 騙されるのが悪いんだよ」
アリスは悔しくて、悔しくて、泣きそうになったが、泣かない。
兄貴を名乗る男がアリスを睨みつけ。
「さっさとリュックをよこせ! 泣いてもむだだぞ! 助けを呼んでも誰も来ないからな。さっさと渡さないか!」
大声を張り上げ、怒鳴った、兄貴を名乗る男。
アリスはひるまず。
「なんで、こんな事をするの?」
「なんでだと!? お前らの鏡の王と太陽の王のせいで、闇の王がどんなひどい目に合ったか、知らないとは言わせないからな! 4ヶ月間しか太陽が当たらない、あとは真っ暗闇。どうやって暮らしていけというのだ!」
「私、何も知らない。けど、やっていいことと悪いことがあります!」
「うるさい!」
「兄貴、無茶ですよ、こんな子供に言っても」
「生意気な口を利きやがって!」
兄貴を名乗る男が怒りあらわにし。アリスのリュックに手を掛け、無理やりはぎとろうしている。
「ちょっと何するのよ!? その手を離してよ! 離してって言ってるでしょ!?」
アリスはリュックを絶対に離さない。
すると、アリスはリュックを背負ったまま、兄貴を名乗る男がリュックを持ち上げた。
「どうやら、痛い目を見ないとわからないようだな……。このまま、地面に叩きつけられてもいいのか!?」
アリスはそれでもひるまず。
「このパンは、あなたたちには絶対に渡さない!」
「たかがパンだぞ。何でそこまでする!? 怪我だけで済まないんだぞ!」
「このパンはおじいさんが、私の為に、どんな思いで作ってくれたか……」
「そんなこと知るか!」
「おじいさんの娘さんが小さい時、仕事が忙しくてかまってやれなくて、悲しい思いをさせたこと、今でもくやんでいるって。涙をこぼし、パンを焼いてた」
アリスは毎日見て知っている。朝早く起き、アリサがパンを一生懸命作っていたこと。
「自業自得だ。それがどうした!?」
「おじいさんをバカにしたな……!? バカにしたな!? 謝りなさい……! このパンは、あなたたちなんかに絶対に渡さない。私の命に代えてもこのパンを渡すわけにはいかない。あなたたちなんかに、私は負けない!」
アリスは兄貴を名乗る男を睨みつけ。
睨み返す、兄貴を名乗る男。
「……小娘が生意気嫌がって!」
兄貴と名乗る男は、リュックを背負ったままのアリスを空高く放り投げ。
「私は負けない! 私は絶対、負けないのー!」
アリスは渾身の想いで叫んだ。
その時、アリスのポケットからパスポートが飛び出し、光りを放ち、その光が輪になり、アリスを包み込み、透明の球体となり、空中に浮いている。
アリスは呆然とし。この光景に暗闇の住人たち2人は驚き。
「兄貴、あれはいったい……?」
兄貴を名乗る男はこの光景に動揺している。
「まさか、あれは……この世界に存在しないはず、どうして……」
透明な球体の中にいるアリスは、ゆっくりと地上へ降りて来る。
アリスは呆然としまま、地上に降り立ち、透明な球体は消え。パスポートに新たな紋章が1つ増え、アリスの手に。
兄貴を名乗る男はパスポートを見て。
「あの紋章は、正義の紋章。なぜだ、あの紋章を持つことがきるのは、あのお方だけ。なぜおまえがその紋章を。アリス、いい気になるなよ! 今回は見逃してやる。このことは、暗闇の王に報告をするからな。暗闇の世界ではこうはいかない。覚えて置け!」
アリスは、自分の身に何が起こったのかわからない。
「兄貴、何であんな小娘を見逃すんですか!?」
「あの紋章がある以上、手が出せない。このことは、限られた者だけしかしらない。あの紋章は、暗闇の王と同じくらいの力を持つと言われている。だから、うかつに手出しはできない。ひとまず引き上げるぞ!」
暗闇の住人たち2人は、暗闇の中に消えて行き。
アリスは急に怖くなり、その場に座り込み。
「アリス、だから言ったでしょう!? 罠だって」
「だって、信じてあげたかったの……」
「もし紋章が助けてくれなかったら、怪我どころじゃすまなかったのよ!」
「……わかってる」
「この紋章が現われた以上、鏡の王様に合わないと」
「どうして紋章が現われたら、鏡の王様に合わないといけないの? それと、正義の紋章ってなんなの?」
「いずれわかる。鏡の王様に会えば」
「……わかった」
アリスは宿泊所に戻り。疲れがどっとでたようで、屋根裏部屋へ行き、ベッドに倒れ込むように眠った。
あんなことがあったあとなのに、何もなかったような顔をしているアリス。
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