パスポートの秘密
パスポートの秘密(1)
アリスは森の中にいる。後ろを振り返ると、あのドアはなく、森が広がっている。
アリスは深呼吸をすると、春を思わせる匂いと優しい風が吹いている。少し気分も落ち着き。とんでもない世界へ迷い込んだと、今ごろ思い。これから向かう場所、鏡の城とはどんなお城なのか。あの絵本のようなお城なのか。この地図を頼りに、前に進むしかない。元の世界に戻りたい。もう泣くのはやめようと心に誓ったアリス。
もうあのころの「泣き虫アリス」は、ここにはいない。
心に少し余裕ができたのか、アリスは鏡職人の名前を聞いていなかったことを思いだし。そういえば、あの絵本の中にいるウサギの名前はウサギ、それでいいのだろうか、そんなことを考えていると。お腹が鳴り、空を見上げると太陽は真上にある。アリスは歩きだした。
アリスは森の中を歩くのは慣れている。メアリーと一緒によく薪拾いに行ったことがある。道なき道をこのまま真っ直ぐ進むと森を抜けたところに、鏡職人の知り合いの家があり。鏡職人から、そこを訪ねるように言われていた。
アリスはしばらく歩くと、右の方から声が聞こえ。
「誰かー、水を、助けてくれー!」
アリスは急いで声のする方へ走り。
すると、おじいさんが倒れている。
「おじいさん、大丈夫? 大丈夫?」
おじいさんは胸を押さえ苦しんでいる。
「……すまん、水を……」
アリスは持っていた水筒を渡し。おじいさんは手に握っていた物を口に入れ、水筒の水を飲み、しばらくすると。
「薬が効いてきたようじゃ、お嬢ちゃん、助かった。ありがとう、あんたは命の恩人じゃ」
「命の恩人だなんて……」
おじいさんはゆっくりと立ち上がり、近くの切り株に座り。
「本当に助かった……。家に水筒を置いてきてしまって、この森に来る途中に思いだしのじゃが、今日は気分がよかったので、大丈夫だと思っていたんだが、急に胸の持病が、本当にありがとう」
「いえ、私は何も」
「ところで、お嬢ちゃんは何でこんな森に?」
「この森を抜けたところのお家に行くところなの」
「お嬢ちゃん。名前は?」
「アリスです」
「アリスか、よい名だ。ところでアリス。その家は私の家だが!?」
「えっ!? そうなんですか!? 鏡職人さんから、ここに行くように言われて」
「鏡職人!? どなたの鏡職人かな? 何もいるからな」
「名前、聞いてなくて」
「そうか、アリスは知らないのか。鏡職人に名前を聞いても教えてはくれない」
「えっ!? 教えてくれないって、どういう意味ですか?」
鏡職人、鏡の番人は、その実態を庶民に知られることなく生活している。その身分を隠し、名も限られたものだけが知り。特別なエリアのみで生活をしている。
アリスは、そのことを知り、鏡職人は偉い人なんだと。
ソラは、このおじいさんの家に1晩泊めてもらうことと、アリスがここに来たことを話すように言っていた。
アリスは、おじいさんの家に1晩泊めてもらうことを頼み。この世界の者ではないことと、太陽の王に会いに行くことを伝えた。
「なるほど、話は分かった……。多分そいつは、長い耳の男ではなかったか?」
「はい、そうです」
「やはり、あいつだったか……もう7年になるか、泣き虫の女の子を連れて来て、家に泊まったのは」
少し悲しげな表情で7年前を語るおじいさんは、ポケットの中から懐中時計を取り出し午後0時を過ぎていた。
おじいさんとアリスは、おじいさんの家に向かい。アリスたちは森の中を30分くらい歩き、森を抜けると1件の家が見え。だんだんと家に近づくと。そこには、アリスの家に似ている家が建っていた。
おじいさんは玄関をあけ、2人は中に入ると。小さいテーブルに、小さな花が瓶に一輪活けてあり、屋根裏部屋の階段もある。
「おじいさんは、1人で暮らしているの?」
「娘が1人いるが、緑の王国で暮らしている……。アリス、お腹はすいていないかね? さっきからお腹が鳴っているようだが」
「お腹減っちゃって」
「わしも、お昼がまだだったから、一緒食べるかね? 大したものはないが」
「いいんですか?」
「少し待っていなさい」
「はい、ありがとうございます」
しばらくすると、おじいさんはパンにハムとチーズを挟み、スープを持ってきた。
アリスは、まるで家で食事をしているようで、目頭が熱くなり、涙は見せず。美味しくいただき。後片付けも手伝った。
おじいさんは紅茶を入れ。アリスの住んでいる世界のこが気になったのか、アリスからいろいろ聞き。この世界とよく似ている点があると。
アリスは、ソラに地図を書いてもらった時、なぜ鏡の王国と名がついたのか気になっていた。そこで、おじいさんにそのことを聞くと。
ここは元々島国で、半径150キロの円形をしている島で、今から240年前に、鏡の持つ力を発見し。この力を守る為にこの島の周囲を鏡の壁で囲み、島の存在を隠すことに成功した。このことは、限られた人間だけが知り。この島だけの独自の文化が発展し。この島の住人は、この島から出ることはできない。
昔は、鏡の王国は一つの国だった。しかし、今から35年前に、島の中心から放射状に6等分され、6つの王国ができ、国民は自由に他の王国へ行き来できた。
ところが、今から3年前。鏡の王が保管している幻のパスポートを暗闇の王国の王が奪いに来ると噂され。太陽の王国の王が幻のパスポートを守るために、全ての王国の境界線に鏡の壁を作り。鏡の世界の出入り口には、鏡の王の了解もえずに鏡の森を作った。
この鏡の森は、人間の心を映し出し、パスポートを守るための森となり。怪しき人物はここで食い止められ、鏡の王国には入国できない。鏡の力で人を操っても瞬時バレて捕まる。
鏡の王は、この噂は単なる噂に過ぎない。そこまでする必要はないと太陽の王を止めた。しかし、聞く耳を持たない太陽の王。このことがきっかけで、太陽の王と鏡の王は仲が悪くなった。
確かに、あの森のおかげで悪さをする人間はこの王国には入って来ない。しかし、国民は心を覗かれると、鏡の王国へ来る人間は減少している。これでは誰も寄りつかない王国になる。
その後、元々エリア分けしていなかった鏡の王国を含め5つの王国は、5つのエリアに区分され、監視が強化された。ところが、噂はただの噂でしかなかった。
しかし、つい最近になって鏡の王国で暗闇の王の家来が目撃された。鏡の王国の出入り口は1つ、鏡の森で守られ、鏡の壁が侵入者を防いでいるはずなのになぜ。現在、原因を調べている。
暗闇の住人は、悪さはしないが、暗闇の王に逆らえない。とくに、暗闇の王の家来には、特に気をつけないといけない。何を考えているか分からないと言われている。
ただ、暗闇の王の家来が目撃された場所が、これからアリスが通る道にある、第5エリアのドア。このドアは各エリアに数ヶ所あり、このドアを開ければ次のエリアに行ける。幸いアリスが通るドアでは、暗闇の王の家来は目撃されてはいない。もしこの壁を勝手に乗り越えようとすると、この世の果ての番人に捕まってしまう。
このエリアドアは、簡易的に宿泊できる建物で、この宿泊所がドアになっている。もし暗闇の王の家来に見つかっても、宿泊所の中にいれば大丈夫。
アリスはそんな話を聞かされて、意味が分からないが、幻のパスポートが気になり、何でそんなことを話すのって思い、怖くなり。しかし、お家に帰りたい。
「おじいさん。暗闇の家来って、どうやって見分けるの?」
「大男だからすぐに分かる……。あっ、そうだ。アリスは、パスポートの使い方は大丈夫か?」
アリスは、ソラから渡されたパスポートの使い方のメモをまだ見ていなかった。メモを見るアリス。
注意事項、パスポートをやたらと人には見せないこと。そして、パスポートは大切にすること。
パスポートの使い方。パスポートの名前が書いてある方が表で、下にある白い枠には、この世界の日付と時刻が表示される。暗闇で明かりが必要の時は、裏側の青の紋章を触るとランプの代わりになる。(触るたびに明るさが変化する。この世界を行き来する為のドアの前で、黄色の紋章を触るとドアが開く。危険を感じると、赤の紋章が光る。
「アリス……一緒に行って上げたいところだが、この体では無理だ、すまない」
「いえ、大丈夫です」
「なかなか、いい度胸をしているな……。まぁ、あの鏡職人ことだ、ここにアリスを1人でよこしたということは、多分大丈夫だろう」
「おじいさんって、鏡職人さんと、友達なの?」
「友達!? まぁ、いいか。実は、わしは昔、鏡の番人でな、引退して15年になるか」
「えっ!? そうなんですか!?」
「あいつも、あんなことがなければ、いまごろは……仕事は優秀なんだが、真面目すぎるところがあってな、まぁ、それはいいのだが。ただ、そそっかしいところがあってな」
アリスはいろんなことを知り。おじいさんの話しによると、あのドアに行くには、子供の足では8時間はかかる。
アリスは夕食の準備を手伝い、食事をして、後片付けも手伝い。屋根裏部屋を使うことになり。屋根裏部屋へ上がったアリスは、どっと疲れが出たのか、倒れ込むようにベッドに入り、眠った。
翌朝。
アリスは目を覚ますと、いい匂いがする。屋根裏部屋から下へ降りると、おじいさんが朝食の準備をしていた。アリスは、その様子を見ていると。
「おはよう、よく眠れたかね?」
「はい、眠れました」
「そうか。もうすぐしたら朝食がだから、顔でも洗って来なさい」
「はい」
食事の準備ができ、2人は一緒に朝食を摂った。
「アリス、4日分の食糧を準備しておいたから持って行きなさい」
テーブルの上には、リュックが置いてあり。パスポートの時計は、午前9時。ここから先、8時間も歩く。今までにそんな距離を歩いたことがないアリスは不安。しかし、今は前に進むことだけを考え。アリスは、リュックを背負い。
「おじいさん。ありがとうございました」
「気をつけるんだぞ。もし、何かあったら戻って来なさい」
「はい!」
アリスは玄関を出て。第5エリアのドアに向かって歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます