鏡の王国へ

鏡の王国へ

 アリスはドアを開けると。太陽の日差しが眩しく、目が開けられない。

 しばらくして、だんだん目がなれたアリスは、辺りを見渡すと、どこかで見た風景が広がっている。

 ここは、『不思議の国のアリス・続編』の絵本の中の世界。アリスは、いつものように丘の上の木の下に座っていた。

 この状況に困惑するアリス。ここはまぎれもなくあの絵本の世界。どうしてここにいるのか。ここは、変わらない景色が広がり、この澄み切った青空に緑豊かな山々。辺りが光り輝いて見える。私は、ここから見る景色が1番好きそう思っていると。後ろから、聞きお覚えのある声が。あの『不思議の国のアリス』に出て来るウサギに似ていたウサギだった。


「あのー、すみません。そこで何をしてるんですか?」

「えっ!? なんでわかったの? この木に隠れていたのに」

「言っている意味がわかりませんが……!? もしかして、幻想風景を見ているんですね」

「幻想風景!? 何かの冗談なの? ウサギさん」

「ウサギさん!? 誰かと勘違いしていませんか?」

「私のこと、忘れちゃったの?」

「私は、鏡職人ですけど、お嬢様とは初対面ですけど」

「お嬢様!? 鏡職人さん!? えっ!? ここって、絵本の中じゃないの?」

「絵本!? ここは鏡の王国、第5エリア、ドリームルームですが」

「鏡の王国!? どこにも鏡なんてないわよ!?」


 鏡職人は、ショルダーバックの中から眼鏡を取出し、アリスに眼鏡を渡し。

「その眼鏡、かけて見なさい」

 アリスは言われるがまま、眼鏡をかけて見ると。いままで見ていた景色が一変し、辺り一面鏡ばりの部屋に変わっている。

 アリスは眼鏡を外すと、絵本の中の風景。また眼鏡をかけると、ここが絵本の世界ではないことがわかり、ウサギに眼鏡を返し、愕然とした。

「どうやら、わかっていただけたようですね……。すみませんが、お名前と年齢を教えてくれる?」

「名前!? 名前は、アリス、年は8歳」

 鏡職人は懐中時計を見て。

「アリス様、申し訳ありませんが、時間がありませんので、パスポートを見せてください。ここの規則ですので」

 アリスは言われるがまま、ポケットに入れていたパスポートを鏡職人に渡し。鏡職人はそれを見て。

「やはりそうでしたか……。あなたは、この世界の人間ではありませんね!? このパスポート、誰に作ってもらいました?」

「それ、私のですが、何か?」

「確かに、これはあなたの物です。しかし、私の質問の答えになっていませんが!?」

「言っている意味がわかりません」

「ですから、このパスポートは、誰に作ってもらいました?」

「私は、何も知りません!」

「このパスポート、鏡の番人が作ったものですよね!?」


 既に、鏡の番人が作ったパスポートということがバレていた。


「さっきから言ってますけど、私は何も知りません!」

「仕方がない。この世の果ての番人に来てもらうとするか!?」

 アリスは、この世の果てと聞いても、口を噤み。鏡職人はアリスを睨み。

「もう一度聞く!? このパスポート、誰に作ってもらった!?」

 鏡職人はアリスを怒鳴りつけた。

 アリスは、怖くて怖くて、泣くのを必死でこらえながら、渾身の想いで。

「知らないものは知らないって、言ってるでしょう!」

「仕方がない。この世の果ての番人に来てもらう」


 鏡職人は歩き出し。その時、アリスは鏡職人の手を。

「鏡職人さん、そこ危ない!」

 アリスはとっさに鏡職人の手を掴み。2人は急斜面から転がり落ちた。

 しばらくして、アリスは気がつくと。鏡職人の手を握ったまま、鏡職人を抱きかかえるように倒れていた。

「鏡職人さん、大丈夫?」

「……ここは? 私は、どうしたんだ……? 体が痛い……これは、どういうことだ……?」

 この状況を把握できない鏡職人。

「鏡職人さん、私、体が痛くて、動けないよ……」

 その時、鏡職人はこの状況を把握し。

「まさか、アリスの幻想に入り込むとは……。アリス、なぜ私を助けた? あんなひどいことを言ったのに!?」

「……わかんない。いつのまにか、鏡職人さんの手を握ってた……」

「こんな強い意志をもった優しい子供にあったのは初めてだ……。本当に、8歳なのか!?」

「鏡職人さん。体が痛いよ」

「すまない。手を放してくれないか?」

 アリスは鏡職人の手を放すと。鏡職人の体の痛みや傷は消え、立ち上がり。バックから眼鏡を取り出し、アリスに眼鏡かけると。体の痛みや傷は消え、アリスは立ち上がり。辺りは、鏡ばりの部屋へ。アリスは、いったい何がどうなっているのか、困惑している。


 このドリームルームとは、許可を得た者だけが入ることができ。年齢制限は20歳以上で、心の中に強い想いを描く場所に反応し、幻想空間を生み出す。但し、現実と同じ痛みを感じる。幻想空間を抜け出すには、特殊な眼鏡を使用し、現実に戻ることでき。幻想空間で起こったことは、記憶のみで、実際には何もなかったことになる。アリスの見た幻想空間は、本人しか見ることはできない。


 本来なら鏡職人は、幻想空間を見ることはできない。アリスが見た幻想空間に入ることもできない。ではなぜ、アリスの幻想空間に入り込むことができたのか。噂では、幻想空間にいるものと手を握れば同様の効果があると。噂は本当だった。鏡職人は思わぬ体験をした。


 アリスは、ドリームルームのことを知り。本当にあの絵本の世界に戻りたいのか、そんな疑問を抱き。アリスの心の中で、何かが変わろうとしていた。

 そんな中、鏡職人はわかっていた。アリスのパスポートは鏡の番人よって作られた物だと。ではなぜ、危険を犯してまであのパスポートを鏡の番人が用意したのか。無断でパスポートを用意したこの行為は処罰に値する。

 その時、鏡職人は7年前のあのことを思い出し。これは、鏡の番人になる昇格試験だと。


 鏡の王国では、鏡職人、鏡の番人は憧れの職業。ただ、代々受け継がれた家系のみで、特殊な能力を持ち、鏡の持つ力を操れるものだけがなれる職業。そして、鏡職人から鏡の番人なるには、技量と人間性が問われる。


 今から7年前、当時23歳だった鏡職人のソラは、鏡の番人に昇格する年齢になり、昇格試験に合格すれば、鏡の番人になり、鏡の王の直属の家来になれる。ただ、この試験はいつどこで行うかわからない。ようするに、日頃の行いや鍛錬を問うもの、毎日が試験のようなもの。

 ソラは、最終試験を残すのみになり。最終試験の内容は、鏡の番人が個々の人間性を判断して決める。

 最終試験の日、ソラは鏡の番人呼びだされ。暗闇の王国と鏡の王国の境界線にある、見張り小屋に来ていた。

 この見張り小屋は、異世界からの侵入者を監視する場所。そこに7歳の少女が現れ。ソラの最終試験が始まった。

「ソラ、お前だったら、この少女、どう対処する?」

「決まってるじゃないですか。法の定めにより、この世の果ての番人に渡します」

「事情も何も聞かずに、渡すと言うのか!? この子を牢に入れるつもりか!?」


 この世の果てとは、地上の光がない世界。その世界に足を踏み入れた者は、二度とこの世界に戻れない。


 ソラは、森の中で泣きじゃくる少女からやっとのことで事情を聞き出し、パスポートを作り、異世界から来たこと隠し。この少女をもとの世界に戻す方法を知っているのは太陽の王だけ、ソラはそう思い、2人は太陽の王国に向かった。

 ソラたちは1週間かけて、太陽の城の入り口にある見張り小屋へ着くと。そこには、太陽の番人になったばかりのソラの親友がいた。パスポートを確認する太陽の番人。

 すると、パスポートの不備が発覚し、パスポート偽造の罪に問われ。そのことを聞きつけた鏡の番人は事情を話し、少女を助け、無事に太陽の城へ行き、元の世界へ帰った。

 ソラには罰が下され、7年間鏡の番人の昇格試験を受けることができなくなった。しかし。今年から、再度、鏡の番人の昇格試験を受けることができる。


 ソラは、いくら仕事でも子供を脅すような真似をしたことに恥じ。アリスの強い意志を目の当たりにし。優しさの心を忘れていた自分に恥じ。アリスに申し訳なかったと謝った。

 ソラはアリスに、なぜこの世界に来たのか聞くと。7年前の少女に似ていた。ただ、その少女はひどい泣き虫で手に負えなかった。

 ソラは、アリスがここに来た経緯を知り。アリスは鏡の番人のことは一切話さなかった。

 この時、アリスは疑問に思っていた。なぜこの世界の人間ではないとわかったのか、そのことをソラに聞くと。


 パスポートになくてはならない大事な紋章がなかった。そう生まれた王国の紋章がなかった。もしこの紋章があったとしても、そもそも、ここに子供が入る自体おかしいし。それに、今日はこの部屋の点検日、ここには入れない。となると、ここに入るには、あのドアしかない。あのドアを呼びたすことができるのは、鏡の番人だけ。

 ソラは、アリスが手に持っていたパスポートに、誕生の紋章として、鏡の王国の生まれの紋章を授けた。

 すると、アリスは、もしこのパスポートをなくしたらどうなるのか聞くと。

 まず、この世の果ての番人ところへ行き、そこで事情を聞かれ、この世の果ての王の裁きを受ける。故意に壊さない限りなくなることはない。


「それって、どういうこと?」

 ソラは、アリスにパスポートを借り、10メートルくらいアリスから離れ。

「アリス、パスポートよ、私の元へ、って言ってみなさい」

「パスポートよ、私の元へ」

 すると、アリスの手にパスポートが戻っている、驚くアリス。

 ソラは懐中時計を見て。

「アリス、1つだけ聞きたことがある」

「何?」

「なぜ、初めて会った、鏡の番人との約束を守ることができる!?」


 そう聞かれたアリスは、アリサとの約束を思い出し。私の大好きなお姉ちゃんが、私との約束を破るはずがない。今まで一度もお姉ちゃんが私との約束を破ったことがない。きっと、約束を守れなかった事情があったと思い、お姉ちゃんに謝りたい。信じてあげられなかったことを。

 

 アリスはソラの質問に答えなかったが、ソラはそんなアリスを褒め、太陽の王に会えば、元の世界へ戻れるはずと言い。本当なら太陽の王国へ、連れて行ってあげたいのだが、鏡の王の仕事を仰せつかっているから行けない。しかし、アリスなら1人でも大丈夫とソラは言った。

 しかし、8歳の女の子が1人で太陽の王国へ行くには危険が伴う。そこでソラは、鏡の城に行くように言い。その場で鏡の王様宛に手紙と鏡の城までの地図を書き。パスポートの使い方を記したメモを渡し。2人はこの部屋の非常用出口に行くと。

 アリスは眼鏡をはずし、眼鏡を鏡職人に返すと。非常用ドアが、アリスの家の玄関前の風景に変わり。私の帰る場所はここしかない、もうあの絵本の中ではない、そう思い後ろを振り返り。ソラはアリスを見て。

「さぁー、行きなさい。アリスなら必ず戻れるはず。大丈夫」

「ありがとうございました、鏡職人さん。お元気で、さようなら」

「さようなら。気をつけて」

 

 アリスはソラに手を振り、鏡の城に行くために、ドアを開けた。

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