第9話

 連激を受け続ける人狼の瞳が満月を映す。デュロイは人狼の右腕を強く打ち払って後方に跳び、片膝に屈み込むと、剣を強く握り直して肩に担ぎ、盾を構え、一呼吸。

 両足を踏み切り、跳び出す勢いを剣に乗せ、放たれた矢のような早さで人狼に一撃を放つ。夕陽を反射する刃が宙に弧を描き、するりと人狼の右肩をすり抜けた。


「ぐぉおおぉぉお!」


 人狼の絶叫が森に木霊し、どすりと丸太のような右腕が地面に転がる。

 その刹那、デュロイが息を整え剣を構え直す僅かな隙を付き、動きを止めたはずの人狼の左腕が振り降ろされる。

 デュロイは一瞬の判断で盾を構え、人狼の渾身の一撃を受け止める。

 日が落ちて満月が輝きを増す中、先ほど切り飛ばされた人狼の指と爪はすでに再生し、盾にその鋭い爪が深々と食い込む。

 人狼の巨体の重みと膂力りょりょくで抑え込まれる圧力に耐えながら、デュロイは人狼の喉元に狙いを定め、剣を突き出す。

 ギィン、と鋭い金属音。人狼は急所を狙う刃に怯むことなく刀身に食らいつき、大きく首を左右に振ってデュロイの手から片手剣を奪い取る。


「くっ!」


 デュロイは咄嗟に武器を失った右手で盾の留め帯を外して後転し、間合いを取る。

 あるじを失った盾が地面に叩きつけられ真っ二つに裂けた。


 丸腰になったデュロイは人狼を睨みつけ、さらに後方に退がり、周囲に注意を巡らせる。片手剣は人狼の足元に転がり、背後の木立に退避するには距離が離れすぎている。捨て身の覚悟で息を飲み、人狼の左腕に注視し、剣を取り戻す手立てを思案する。


――パリーン!


 突然の硝子の砕ける音が対峙する両者の注意をそらし、不意に小さな影がデュロイの脇をすり抜ける。


 どすリ。


「ぐぅぅ……」


 鈍い音と小さなうめき声がデュロイの注意を人狼に引き戻した。人狼の腹にはハルバートが深々と突き刺さり、人影が人狼の頭上に跳び上がる。

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