第8話

 デュロイは深呼吸し精神を統一すると、森の木の影から真っ黒い塊に向かい、一直線に駆け、腰に差した片手剣を抜く。

 鋭い刃が閃き、風切り音を上げる。


「ぐおおぉぉぉおお!」


 瞬間、長身のデュロイの倍近い体躯、ナイフのような爪を持つ強靭な両腕、筋肉と漆黒の分厚い毛皮の鎧に身を包んだ巨大な人狼、ライカンギガントの黄金の瞳が輝き、空気を震わせる咆哮を上げてデュロイに突進する。


 人狼が右腕を振りかざし、それを見切ったデュロイが身体を翻す。振り下ろされた腕が空を切り、鈍い音と共に鋭い爪が地面に叩きつけられる。

 それに合わせて鋭く振り下ろされる剣が人狼の爪を叩き折り、切り返す刃が毛皮を裂く。


「ぎいぃい!」


 遅れて繰り出される左腕を盾で受け止め、その反動を使い後方へ跳び、間髪いれず再度剣を振り上げると、二本の指を切り飛ばされた人狼が低い唸り声を上げた。

 人狼の金色の眼がデュロイの姿を写し、頬まで裂けた大きな口から鋭い牙を覗かせながら威嚇し、じりじりと後退あとずさって間合いをとり、対峙するデュロイが盾を構え、身を屈めて人狼の懐に突入する。

 振りかざされた右腕を盾で制しながら全身のバネを使い左腕へ向けて剣を振り上げ、その脇の下まで刃を走らせる。片手剣の切先が肉を切り、血管を裂き、筋を断った。


「ぎぃゃあああぁぁあ!」


 人狼は苦痛に絶叫し、大量の血が噴き出す左腕をだらりと垂らした。


 木の陰から覗くミーナの視線の先にはデュロイとライカンギガント、茜に染まる斜陽の空に満月が青白く浮かび上がる。


「へー、彼、やっぱ強いわね。でも、あのバケモノも魔獣の癖にお利口さんじゃないの。 ……色々と想定外だわね」


 注意深く隙を窺いながら鋭い連激を浴びせかけるデュロイに対し、人狼は打ち込まれる剣を右腕の折れた爪で払いながら後退して間合いを取る。

 膠着状態が続くなか、陽が沈み始め黄金の月が輝きを増す。詰め寄るデュロイの剣からは徐々に鋭さが失われ、少しずつ連激の速度が落ちて行く。


「タイムアウト、かしら」


 ミーナは地面に突き立てたハルバードを見つめて呟き、道具袋の中を探る。

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