第5話

 森の奥から魔獣の咆哮が響き渡り、村から領域境界へ向かっていたデュロイが足を止め、森に視線を向けると、白いモフパカが森の茂みから飛び出して一目散にデュロイのもとに駆け寄ってくる。


「お前は、あの行商の……」


 デュロイが手綱を取ると、森の奥へ向き直って促すように手綱を引っ張り返す。


「ああ、案内しろ」


 そうして森の奥を目指す中、向かう先から突如爆発音が響き渡り、デュロイは先を行くモフパカの手綱を引いて退がらせる。


「良かったな。お前の主はまだ無事のようだ」


 そう言い残し、ハルバードを大きく振り回して藪を薙ぎ払いながら爆発音のした方向へ駆け出し、程なくして猟狼の群れと会敵する。


 デュロイは速度を落とすことなく群れに突っ込み、ハルバードを振り下ろして先頭の一匹の頭部を真二つにすると、そのまま後方に続く二匹目を鼻先から串刺しにして上方に跳ね飛ばす。反転させたハルバードの石突きで三匹目の頭部を貫くと足を止め、周囲の群れを牽制しながら一際明るく木漏れ日の射す方向へと走った。


 木立の間から抜け出したデュロイは力無く座り込むミーナを見つけ、踵を返して群れと向き合う。

 追いかけてきた猟狼数匹が勢いを落とさず跳びかかる。喉元に食らいつこうとする獣の牙に左腕を差し出してガントレットに噛みつかせると、力ずくで振り払い後続の猟狼にぶつける。


「おおぉぉぉ!」


 猟狼の群れが怯んだ瞬間、ハルバードが鋭い唸りを上げ、研ぎ澄まされた切っ先が宙に真一文字を描く。一匹は顎から上が飛び、一匹は両前足ごと喉を裂かれ、一匹は背骨を寸断され、三匹が瞬く間に蒸発する。

 続いてハルバードが唸りを上げながら幾重にも弧を描き、残った猟狼も次々と屠られていった。


 ミーナはポーションを飲みながら最後の一匹が蒸発するのを見届け、座ったまま姿勢を正してデュロイに声を掛けた。


「ありがと、助かったわ」

「無事か?」

「お陰さまで。あなたの雄叫びが聞こえたときはもっとヤバイ奴が来たかと思ったわよ。どうしてここに?」

「あれに案内された」


 デュロイが視線を送る先の茂みから白いモフパカが現れる。


「もふみちゃん! 無事だったのね」


 モフパカは軽快な足取りでミーナに駆け寄り頬摺りをすると、ミーナもその顔をぎゅっと抱き締めた。


「よしよし、良い子。ありがとね。ん~、相変わらず良いもふもふ」


 ひとしきり可愛がると、片膝を付き手綱を引いて立ち上がろうとするが、膝が震え再びその場に座り込んでしまう。


「立てないのか?」

「ええ、大丈夫。薬の影響よ。少し休めば立てるようになるから」

「薬?」

「ルナ・エーテルって奴。自分の力の限界を引き出して敵を殲滅するまで戦い続ける狂気の薬よ。理性が飛んじゃうし、反動もキツいからちょっとしか飲んでないんだけどね」

「そうか、じっとしてろ」


 デュロイは少女の脇の下に手を入れ、子供を抱き上げるように抱えてそのままモフパカの背にのせる。


「んにゅ…… ありがと」


 ミーナは少し頬を赤らめて礼を言うと、モフパカの被毛に顔を埋めた。


「近くに泉があるからそこで休みましょ。捨ててきた荷物の回収もしたいし」

「ああ、そうだな」

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