第11話 つむつむフレンズ

か……」


陣と別れてからずっと心がモヤモヤしてる。

いま、冷静になって考えると間違っていたことをしたと後悔するばかり。


「おとなしそうなのに意外と積極的だったんだ」


一つ上の有松先輩が陣に惹かれてたのは気づいてた。だから付き合ってるときはなるべく部活以外では一緒にならないように陣の側にいた。先輩は魅力的だから。


「別れた途端これだもんね。ひょっとして押し倒すくらいのことを平気でするんじゃないかな?」


今日だって、見せつけるかのように手繋いで。

落ち着いて陣と話したいのに相手にすらしてもらえない。

手遅れになる前に……

手遅れかもしれないけど……謝りたい。

できれば許してほしい。

また、陣の彼女になりたい。

将来的にお嫁さんになんて言ってる場合じゃない。がないのにがあるわけないんだよね。


「警戒するのは先輩だけじゃないし……」


明日から新入部員が入ってくるんだからしっかりしないと。


「負けないよ、紬」


♢♢♢♢♢


「お、大島紬です。リベロ希望です。よろしくお願いします」


新入生の仮入部が終わり、今日から本格的に新チームが始動する。

私たち栄北高校バレー部は昨年のインターハイ予選では県ベスト8の成績を修めた。

昨年のベンチ入りメンバーが半数以上残っている今年は昨年以上の成績を目標に掲げている。


目の前で自己紹介している新入部員を見てみると中学時代の後輩が3人いる。みんな私が中3の時にメンバー入りしていた実力者。


セッターだった紬、見た目はイケイケのギャルなのに技巧派の小町絹枝こちょうきぬえ。そして全日本ユースの合宿にも参加したことのある神崎志乃かんざきしの


「かんざし、あんたまた身長伸びた?」


仮入部のときに久しぶりに再会した後輩を見上げて顔を引きつらせたのは記憶に新しい。


「はぁ〜、このまえ測ったらぁ〜、180こえてたかなぁ」

気怠そうに話すかんざしは「ぶろっくは〜、痛いから嫌い〜」といつも間延びした声で言っていた。

普段のおっとりとした口調と動きからは想像できないが、負けず嫌いで試合中、苦しくなったときは「私に上げろ」と背中で語ってくる。


「よし、今日から新チームの本格始動だ。とりあえずアップした後に恒例の「タカさ〜ん、チェック!」を行う」


監督の大林尊子おおばやしたかこ先生が体育館の隅をビシッと指差しながら新入生対2、3年生チームの紅白戦を宣言した。

何事もなかったかのようにアップをはじめる私たちに対して、新入部員は先生が指差した方をジッと見ている。何もないよ?


♢♢♢♢♢


「とりあえず新入生の実力見せてもらいたいから初っ端から熱くなりなさんなよ」


キャプテンの堤華つつみはな先輩が円陣の真ん中で声を掛ける。


「まずは織姫なしで行くよ。はじめは新入部員に華持たせてあげようじゃないか。華だけにね」


「先輩、かんざし……神崎は代表から声がかかる程の実力者です。私の出番がないようにお願いしますよ?」


軽い口調で華ちゃん先輩に声をかける。


「大丈夫よ。ちゃんとあんたの見せ場は作ってあげるから。にいいとこ見せなよ」


あざといウインクをしながら言った華ちゃん先輩は観客席の方を見て私に微笑みかけてくれた。


「……陣」


華ちゃん先輩の視線を追った先には陣と静が座っていた。

笑顔で手を振る先にいるのは私ではなくビブスを着た紬だった。

お絹に肘で突かれながら照れて小さくなっているが胸の前で小さく手を振り返してる。

あの姿は1年生のときの私。

私は涙を堪えながらベンチに腰を下ろした。


♢♢♢♢♢


「お兄ちゃん、明日練習ないよね?」


昨晩のこと、夕食を終えてソファーで寝転がってテレビを見ていると後ろから静がひょこっと顔を出した。


「なんで知ってるんだよ」


静の言う通り、明日は新人戦の説明会があるらしく監督とキャプテンがいないので休みになった。


「まあ、それはいいじゃない。明日からつむつむもバレー部に本入部なんだけど噂によると毎年新入生と上級生の紅白戦やるんでしょ?見に行こうよ」


俺たちサッカー部も本来なら明日から新入部員が入ってくる予定だったから、他の部活は予定通りなわけなんだが……


「バレー部ねぇ」


京極が所属している関係で先輩や同級生のほとんどが顔馴染みなので、別れたいま顔を合わせづらいんだよな。


「お兄ちゃん?やっぱり嫌?」


俺の様子から躊躇しているのを感じ取った静がで見てくる。


「つむつむの応援!師匠としてかわいい弟子の高校デビュー戦を見守るべきだと思うよ」


あれからつむつむがどれだけ成長したかは興味がある。まあ、京極とのことは過去のことだし踏ん切りをつけるのにはちょうどいいかもな。


「了解。付き合ってやるよ」


ということがあり、俺は応援に来たというわけだ。


「お兄ちゃん早かったね」


前の座席に両肘をつきながらアップの様子を見ていると、少し遅れて静がやってきた。

俺の隣に座るとアップをしていた同級生たちからの視線を感じた。妹だからな?


「おい、かんざしまたデカくなってね?俺と同じくらいじゃないか?」


隣にいるのがつむつむと言うのを抜きにしても上級生を含めたバレー部で1番デカく見えた。


「あ〜、し〜ちゃん180の大台に乗ったらしいよ。かわいい服が着れなくなる〜とか言ってたもん」


「俺にはデニムにTシャツ姿しか思い浮かばないけどな」


それこそ静と私服で歩いてればカップルに間違われるんじゃね?


「あっ、始まるみたい」


ネットを挟んで挨拶をした両チームの選手がポジションに着いた。


『ピッ』


ホイッスルが吹かれて新入生チームのサーブで試合開始。紅白戦なのでラリーポイント制だろう。そう時間はかからないはずだ。


サーバーはお絹。

茶髪をサイドで束ね、ライン後方からボールをひょいっと上げてジャンピングサーブ。


「オリャ!」


コギャルから放たれたボールはゆらゆらと揺れながら上級生チームのコートを漂う。


「っと」


サーブレシーブが乱れてセッターは仕方なくアンダーでトスを上げる。

オープントスにアタッカーがスパイクを打つが、正面に素早く回り込んだつむつむがイージーに拾う。

きれいにセッターに入ったボールはクイックでかんざしに上げられる。

上級生の2枚のブロックの上から悠々とスパイクを決めるかんざし。

試合は新入生チームの得点からスタートした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る