第9話 えろい
「やられた」
日曜日、現在の時刻は9時30分。
10分前集合を擦り込まれている俺は先輩を待たせるという体育会系にはあるまじき行為を避けるために30分前に待ち合わせの駅前に着いた。
駅前の時計広場で紫穂里さんと待ち合わせていたのでベンチに座って待っていようと足早に移動したところ、時すでに遅くブルーのフロントボタンワンピースに身を包んだ女神様が鎮座されていた。
不安そうな顔で周りをキョロキョロしている。なにかあったのかと俺も周りを見渡すと、チャラそうな2人組が紫穂里さんを見ながらニヤニヤしていた。
なるほど、あいつらの視線に気づいて怖がってるのか。
残念ながらその人の今日の予定は予約済みだ。足早に紫穂里さんに近づくと、それに気づいた紫穂里がパァッと笑顔になり小走りで近寄ってきた。
「おはようございます。すみません待たせてしまって」
先程の2人組を見ると不機嫌そうな表情で去っていく姿が見えた。紫穂里さんも気づいたのだろう。ホッとした表情になり俺の袖をギュッと握ってきた。
「う、ぅうん」
俺はわざとらしく咳払いをして姿勢を正す。
それを見た紫穂里さんもはっとしたらしくバツの悪い表情で目を逸らした。
「や・く・そ・く・は?」
ゆっくり丁寧に聴き逃したなどと言い訳ができないように紫穂里さんの顔を覗き込むと「ごめんなさい」と小さく呟いた。
♢♢♢♢♢
昨晩のこと
妙を家まで送り自宅に帰った俺は風呂上がりにストレッチをして身体をほぐしていた。
「ん?」
ベッドに置いてあったスマホが震えたので肩越しに掴み取り画面を確認すると紫穂里さんからメッセージが届いていた。
『明日10時寝坊しないようにね』
「大丈夫です。朝は強い方です」
『ふふ。そうでした西くんは朝練1番乗りだもんね』
「ですね。紫穂里さんこそ早く着き過ぎないで下さいよ」
『なんで?』
「1人で待ってたら厄介なことになる可能性があるからです。俺より早くに来ないで下さいよ?」
『そんなこと言われても待ちきれないかも』
メッセージを打つ手がとまる
この人はわかって送ってるのか?
まさか紫穂里さんが俺を騙すなんてことは考えたくないけど、ここまであからさまだと逆に疑っちゃうな。今までの俺だったら単純に喜んでただろうけど、京極みたいなこともあるからな。勘違いしないようにしないと。
「買い忘れないように買う物のリストアップお願いしますね」
買い出し買い出し。明日は先輩と買い出し。
しっかりと胸に刻んでおかないとな。
『大丈夫だよ。リストアップ済みです』
エッヘンというぶさかわいいブルドックのスタンプが送られてきた。
♢♢♢♢♢
「あははは。ごめんね。西くんが早く来てくれてよかった。迷惑かけといて何なんだけど西くんの姿見たときはすっごく安心した。ありがとうね」
はにかんだ笑顔にドキッとさせられた俺は、この笑顔が偽物だったらこれから先何も信じられないくらいの人間不信に陥るだろうと思った。
「……お役に立てて何よりです」
♢♢♢♢♢
自動ドアが開き冷気が逃げ出してくる。
まだ4月だと言うのに冷房の効いているショッピングモールに一歩踏み入ると身震いしてしまう。それはもちろん俺だけではなく「寒いっ!」と、両手で自分の身体を抱きしめる紫穂里さんの姿があった。
その姿がなんとなくかわいらしくて、思わず肩を抱き寄せたくなってしまうところだった。
俺は腰に巻きつけていたジャージを紫穂里さんの目の前に差し出した。
「ふぇ?」
目をパチクリさせながら俺とジャージを交互に見ている。そんな大層なものじゃないのになぁ。
なかなか受け取ってくれないジャージを広げて肩に掛ける。ファッションセンスなんて皆無の俺が言っちゃなんだけど、意外とありなんじゃないか?
「せっかくかわいい格好してきてくれたのに申し訳ないんですが、風邪ひくといけないのでちょっとだけ我慢して下さい」
ブカブカのジャージを羽織った紫穂里さんはさっきまでの清楚なお嬢さんから、余った袖が幼く見せてしまう妹キャラのようになってしまった。
しかし、この男物を着ている姿というのはなんなく庇護欲を刺激される。
「あ、ありがとうね。えへへへ、なんか西くんに抱きしめられてるみたい」
口元を袖で覆われた両手で隠しながらの上目遣い。紫穂里さんレベルの攻撃をくらったら勘違いしないわけはない。しかしながら鋼鉄の意思を持った俺の前では……
「どうしたの西くん?」
「大丈夫です。それよりも早く行きましょう」
♢♢♢♢♢
デジャブなんだろうか?
「どっちがいいと思う?」
紫穂里さんの手には膝丈のフレアスカートとデニムのショートパンツが握られていた。
正直、妙よりも紫穂里さんの方が難しい。
イメージは完全にスカートなんだけどなぁ。
「紫穂里さんのイメージはスカートです」
キョトンとしてしばし考え混んでた紫穂里さんは「サイズ見てくる」と更衣室に消えていった。店内を見渡すとレジには昨晩、妙と来た時にもいたおばちゃんが俺を若干生暖かい目で見ていた。
「西くん、西くん」
ドレッシングルームのカーテンの向こうから紫穂里さんのに呼ばれたので「はい」と返事をした。
「どうかな?」
シャッとカーテンを開けた紫穂里さんはワンピースの裾をたくし上げて試着したスカートを見せてきた。
う〜ん。似合うとは思うんだけどワンピースを着たままだからイメージが付きづらい。俺が返答に困っていると、「あ、ちょっと待っててね」とカーテンを閉めた。次はショーパンに履き替えるのだろうが、できれば上も着替えてもらえるとイメージつきやすいんだけどなぁ。
「お待たせ」
再度開かれたカーテンの中から出てきた紫穂里さんを見て思わず息を呑んだ。
先程と同様にワンピースをたくし上げてるんだが今履いてるのはショーパン。布面積が少ないために紫穂里さんの透き通るような肌が露わになっている。制服姿のときはミニスカートなので生足を見る機会はあるのだが、試着しているショーパンを見やすくしてくれているのだろう、ワンピースをたくし上げすぎているためにかわいいおへそまで露わになってしまっている。
夏なんかだと目にする機会もあるけれど、今まで隠れていたものをひっそりと見せてくれているというシチュエーションも相まって、なんというか……えろい。
「西くん?」
1人邪な想像をしていると不安げな表情で紫穂里さんに声をかけられた。
「あ、すみません」
俺は胸に手を当ててゆっくりと深呼吸。
「……こっちがいいと思います」
恥ずかしさから紫穂里の目を見ることができなくなっていたので、それとなく視線を逸らしながら答えた。
紫穂里さんは鏡の前で角度を変えながら何度も自分の姿を確認していた。
「いまさらなんだけど、この格好だとイメージつきにくいね」
あ、今気付いたんだ。
普段はしっかり者のお姉さんなのにたまに抜けてるんだよね。
「でも西くんが選んでくれたからこっちにするね」
本当によかったのだろうかと言う思いがこみ上げてきた。
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