第17話  海底遺跡クランヒル▷▷海底の王

 ーー落ちてます!


 物凄い勢いで落ちてます!!


 私達は海底遺跡クランヒルに来たのだ。だが、今は変なトラップに引っ掛かって、落ちてます。


 引っ掛かったのか? いや。私がスイッチ押した感じ??


 落下ーーとは、永遠ではない。落ちれば着地がある。底があれば。


「え!? 浮いてる!?」


 これはちょっと予想を越えた。てっきりこのまま尻もちどすん! かと、思ったのに。


 浮いてるんですけど!?


 私達はどうやら四人揃って落ちたのだが、広い空間に今……浮かんでいた。


 辿り着いたのは床。石のタイルが敷き詰められた場所だった。


 水の音が凄い。


 ふわっと着地。なんですかね? これもまた魔法ですかね?


「何だ?」


 飛翠も無事着地。見ればネフェルさんもハウザーさんもいる。


 辺りを見回すが、石柱なんかがゴロゴロと転がる空間だ。壁はあるのか無いのか……わからない。水が流れている。


 天井……う〜ん。真っ暗で見えない。上は灯りがない。ここは明るいけど。


 なのでこの水が一体……上のどこから流れて落ちてるのかは、わからない。


 周りは水が流れている。


 よく見れば私達の後ろには、大きな池の様な水溜りがある。


 そこに四方から溝に流れ落ちる水が、溜まっている様だ。溢れないのかな?


 その先。池の様な場所の向こう側には、“水色の結晶”があった。


 丸い結晶は台座の上で煌めく。


 あれが魔石の結晶。


 でも、行けない。


 水の流れる溝に囲まれた正方形の石のタイルの上。そこが私達のいる場所だ。


 池を通る道が無いのだ。


 振り返ると、大きな空洞がある。


 これはもう奥に道があるってやつだね。ここまで来ればわかる。


 それにしても……誰もいない。さっきの冒険者みたいな人たちは、ここじゃない所に行ったのかな〜?


 と……水飛沫があがった。大きな音たてて湧き上がる水飛沫!


 噴水っ!?


 池の様な水溜りからだ。しかもそこから……蒼い龍みたいのが、姿を現した!


 でた! 出た!!


 また!? もーなんでこーデカいの!?


 バカでかい!! 天井まで届くんじゃないかと思うぐらいの大きさ!


 それに長い胴体。これは蛇!?

 いやいや、顔はドラゴンみたいだけど??



「よく来た。紅炎の継承は済んでいる様だな?」


 またもや……喋った。


「ネフェルさん。これは……」


 聞きたくないけど、私は聞いた。


「ええ。海王リヴァイアサンですよ。蒼華ちゃん。」


 あーもう! キレイな顔はわかるけど、にっこりしないで! いじめですか!?


 優しげな返しを頂きました。


「ほぉ? お前が“継承者”か。」


 あ〜……蒼いヒゲがゆらゆらしてる。それになんか細い顔だ。ファイアードラゴンは、もっとこー犬とか狼に近い顔だったけど……これは……。狐??


 あー。狐! 狐に似てる。ほんのちょっとだけど。眼はとんがってるし!


 しかも蒼い! 


 でも、やるしかない。女は度胸!!


「そ……そうだけど!? 」


 あー。なんてこと! 声が裏返ってしまった。


 ぺしん。


 頭を軽くひっぱたかれた。


「えっ!?」


 振り返ると飛翠がいた。


「ビビリすぎだ。どんだけ戦ってきたんだ? いい加減慣れろ。」


 そんなすました顔で言われても!


「わかってる。」


 あれ? なんだろ。落ち着いた。私。


 変なドキドキなくなった。


 なんとかなるかも。


 私はリヴァイアサンとやらを、見つめた。


「よろしくお願いします。」


 出てきたのはそんな言葉だった。


 ぷはっ!!


 と、ハウザーさんと飛翠の吹き出す声が、聴こえた。ついでにネフェルさんまで、笑ってるし!


「ちょっと!!」

「いや〜。嬢ちゃん。緊張しすぎだ。」

「いつものはどうした。」


 ハウザーさんと飛翠は、私の余りの緊張が笑えたらしい。


 うるさいな! もう! ガヤはおだまり!!


「では……継承者。お前の力を見せてみよ。言っておくが、“魔法”しか認めん。支配者の力は借りぬ事。これが掟だ。」


 ゆらゆら動くリヴァイアサンは、とっても余裕のある顔で、そう言ったのだ。


 支配者の力? それって召喚するな。ってこと? 魔法で倒せばいいのね!


 よし。ここは一発!

 新披露!! じゃなかった! 二度目!!


「“紅炎の弾丸ファイアーボール”!」


 とてつもない勢いで、ロッドから放たれたのは大きな炎の球。


 それがリヴァイアサンめがけて、吹っ飛んだ。今までのファイアとは違う。


 これは……凄すぎでしょ! 大砲!?


「ふむ」


 えーっ!? 効かないの!?


 受け止めちゃったし! しかも消えちゃったし!


 そうなのだ。ファイアーボールはリヴァイアサンに、直撃したのだがたいした効果は、無さそうだった。それに、消えてしまった。


「紅炎の魔法を継承しているからと言って……。この程度では困るな。お前……死ぬぞ。」


 えっ!?


 なに? なんか雰囲気変わった??


 ゆらっとしつつも、その頭を低くした。私をじとっと見る。


 いや。睨む! 蒼い眼がえげつなく光ってる!


 これは……まじだ。


 やばい。殺されるかも!?


「やってみなさいよ! 私はそう簡単に死にません!!」


 あーもう!! なんでこうゆう時に、心とは間逆な言葉がでるかね!?


 これは強がり、見栄っ張り! 最悪だ! 自分!


 とは言え……ロッドだけは向けておく。


「ならば対決といこうか。」


 狐みたいな顔をしたリヴァイアサンは、口を開く。蒼い水晶球みたいのが光りはじめた。


 これはなんだ? なにか飛んでくるのかな?


 と、思っているとその水晶球はカッ!! と、放たれたのだ。


 大きなバルーンの様な水の球だ。


 なんですか!? それ! 水の弾丸!?


 迷ってる場合じゃない!!


「“紅炎の弾丸ファイアーボール”!!」


 バルーンみたいな水の弾丸に、私の紅炎の弾丸は飛んでゆく。


 どうでもいいけど! この熱風みたいのどうにかなりませんかっ!?


 そうなのだ。ファイアーボールを撃つと、その威力の強さなのか……私は、熱風に煽られるのだ。


 魔石の魔法とは違う。こんな風に感じたことはない。ここからして、魔法の強さ、迫力が違う。


 これが……魔法。


 私はそんな事を考えつつ、目の前でぶつかる水の球体と紅炎の弾丸。


 それを見つめていた。


 でもやっぱり! 私の魔法は、威力が弱い。掻き消されてしまった。


 と……言う事は??


 そうなのだ。水の球体は向かってくる。


 あーもう!! 


「“ファイアーボール”!!」


 連射じゃ!!

 蒼華様必殺!! “倒れるまでぶっ放せ!”だ!


 私の魔法の力は、リヴァイアサンの魔法の力の前には、非力だ。


 ならば! 数を撃つしかない!


 四発。弾丸を連射したところで、ようやくだった。私の目の前で水の弾丸は、消えてくれた。


 まるで床に落ちて割れた水風船。それみたいに弾けた。


 びしゃっと。


 はー……はー……


 は……弾けたいのは……私だ。


 やばい。ふらつく。


 私はロッドを地面に突き立て杖代わりにした。


「お前……まさか、そうやって戦ってきたのか?」


 ごくごく。と、栄養ドリンクの様に、魔力回復薬マジックメイトを飲み干す私。


 リヴァイアサンは呆れた様な声を掛けてきた。


「そうよ? 悪い?」


 はー。美味しい! クセになる。この味。


 ふははははっ!


 と、リヴァイアサンは大声で笑った。

 しかも頭まで反らした。長い蛇みたいな身体まで、揺れる。


 どんだけツボ!?


「ちょっと! バカにしてんでしょ!?」


 笑いすぎだ!


 あっはっはっ!


 えぇっ!? こっちもかい!?


 見れば……三人とも笑ってた。


 このガヤ!! 笑うな!!


 リヴァイアサンは笑うのをやめた。

 私を見下ろす。


「普通はな。それなりに力をつけてから来るものだ。それに……敵わないと知れば出直す。」


 リヴァイアサンのバカにした様な声。


 やっぱりイラッとする。


「うるさいな! 出直すって言うのはちょっと考えられないし! それにそんなヒマないの! 私達はとっとと……強くなんなきゃいけないんだから!」


 いや。私なんだけどね。

 飛翠は強いからいいんだけど。


「強くなる? 魔法連射で魔力向上。経験にはなるな。だが、魔法とは精神が左右されるものだ。すなわち……集中力。お前にはそれが足りない。心の強さを磨く事。この世界ではそれが強さに繋がる。」


 リヴァイアサンはそう言ったのだ。


 心の強さ……。


 痛い……。ズキッとくるな。その言葉。私の胸に。


 ダメダメだからね。私は。


「魔法を覚えて使うだけなら、誰でも出来る。だが、魔力を高め強力な魔法にするのは、お前次第。心で使うものだ。それがわからんうちは、乱射に頼るしかないな。」


 心で使う??


 精神論……。魔法だから?


 強くなる。とは言っても具体的には、よくわからない。でも、魔法は使える様になりたい。


 その為にここにいるんだから。


「良くわからないけど! とにかくあんたを倒して、えっと………」


 私はふと考えてしまった。


 海王って言うんだから……なんの魔法?


 でも水みたいな魔法だったよね? あーそうか。ここは聞けばいいんだな。


 私はとりあえずロッドを降ろした。


 質問したいので、戦意喪失をわかってもらおう。


 うん。


「あのー……すみません。私はここでなんの魔法を継承するんですかね? 海とか?」


 海ってなんだ?? 母なる大地?? 良く知らんけど。


 言っておいて突っ込んだ。自分に。


 すると、蒼く煌めく眼がまん丸。くりっくりになった。


 あらま。三角っぽいきっつい眼が随分とかわゆくなってしまった。


「何を継承するのかわからんで、ここにいるのか? お前は……バカ娘なのか?」


 ブッ!


 と一気に吹き出す音がした。


 あっはっはっ!!


 笑いが起きる。


「ちょっと! なんなの!? ガヤ戦隊! こっちは大真面目なんですけどっ!?」


 こんの男ども!! ネフェルさんまでお腹かかえて笑ってるけど!?


「いや。すみません。そういえば言ってませんでしたね。」


 もー! 涙目! ネフェルさんは涙拭いてるし!


 真面目にやってよね!


「おかしな娘だな。お前が受け取るのは“水流”の魔法。つまり水魔法だ。」


 リヴァイアサンは呆れつつも、教えてくれたのだ。


 水流……。あ!


 私は右の中指にはめてある指輪に、視線を向けた。1210コアもしたので、中々使う気になれないこの指輪。


 これは“水流の雫アミナス”と言う、回復魔法を使えるアクセサリーだ。


 水色の長方形バゲット型をした宝石が、煌めく指輪。飛翠とシロくんが持っている。


「水流の魔法。そうだ。シロくん、言ってた。水魔法って。」

「シロくん?」


 あ! 声に出ていたらしい。リヴァイアサンが、聞き返したのだ。それにとても驚いていた。


「私の大切な仲間なの。」


 ちゃんと教えてくれてたシロくんは。ド忘れしてたのは、私だ。


「ふむ。仲間とな。お前が魔法を使うのは仲間の為か?」


 リヴァイアサンのその言葉に、私は力が入る。びしっとロッドを突きつけた。


「そうよ! 私はみんなを助けつつ迷惑をかけない! そうなりたいの!」


 そう。護って貰うばかりなんて良くないからね。ちょっとはみんなを、助けられる様にならないと!


「迷惑? 良くわからんが……助けたい。その気持ちはわかるな。」


 リヴァイアサンはゆらっと動くと、ヒゲを揺らしながら、頭を低くした。


 私に届くぐらいではないけど、ちょっと……近いな。そこから撃たないでね。さっきのやつ。


「わかって頂けてなにより。だから! 魔法が欲しいの! その為に貴方の魔法は頂いていく!」


 泥棒か。私は……。


 思わず突っ込んでしまった。自分に。


「良かろう。その覚悟受け取った。」


 リヴァイアサンの口元が強く煌めき始めた。


 んん? さっきのよりもなんか強い煌めきじゃありませんか!?


 なんですか??


 水晶球が出て来る訳ではなさそうだ。


 でも何かを放つ気配はわかる。光ってるから。


 リヴァイアサンから放たれたのは、鉄砲水みたいな勢いのいい放水だ。


 それも物凄い流れ。どどーんと落ちるあの……滝の様だった。


「きゃあーっ!!」


 避けるヒマも魔法を使うヒマも無かった。私に直撃した放水は、身体ごと吹き飛ばした。


 私は一気に壁のある所まで吹き飛んだのだ。


「蒼華!」


 飛翠の声が聴こえた時には、私は壁に直撃していた。


 痛いし! 苦しいし!


 身体を圧迫された様な苦しさと、背中に壁が直撃した痛み。


 私はずるずると壁を背で引きずり、落ちた。


 痛すぎるでしょ! 背中の骨とか折れてない??


「防御もする事なく受けるとは。初心者だな。」


 リヴァイアサンの声が遠い。


 でも……動ける。


 背中はズキズキしてるけど、何とか動ける。立てる。


 これはまた……カレンさんのお陰かな? 助かった。生きてます。私。


 ロッドを突き立て立ち上がる。


「ほぉ? しぶといな。いやその魔法闘衣ネイルか。身体を護ってくれる防具。中々良いものを持っているな。」


 やっぱりそうなんだ。


 ごほごほと、私は咳き込んだ。ちょっと息出来なかった。お腹が圧迫されたみたいだった。


 これは俗に言う……ボディブローとやらを食らったと、言うことなんだろうか。


 飛翠が良くやるやつ。


「蒼華!」


 その飛翠は少し心配そうだ。でも、隣のネフェルさんに、止められてるけど。


 大丈夫。飛翠。


 私だって……護りたい。飛翠のこと。大切だから。そのためには……こんな所で、負けてられない。


 ふぅ。


 私は傷治療薬ショートメイトを飲み干した。


 紅い丸い瓶は消えてくれる。

 これだけは、この世界の好きなところだ。エコ。ゴミの出ないシステム。このアイテムだけなのか、わからないけど。


 私は回復すると、リヴァイアサンの元に戻る。


 リヴァイアサンはゆらっとしながらも、私を見据えていた。


「その顔は諦めてはいないな?」

「当然でしょ! 誰が諦めますか!」


 リヴァイアサンの口元が、さっきと同じ様に光り始めた。蒼い強い光だ。


 これは最初の水晶球じゃない。さっきの魔法だ。


 だったら! 私も!


「“紅炎の嵐ファイアーストーム“!!」


 黒崎さんが使ってた魔法だ。


 この紅炎の熱風! それはまるで強風。炎が燃え広がりながらリヴァイアサンに向かった。


 でもリヴァイアサンが、魔法を放ったのも同じだ。放水を私の炎の嵐は包んでくれる。


 でも弱い。


「“ファイアーボール”!!」


 援護射撃じゃ!! 絶対負けない!!


 炎の嵐に弾丸が後押しみたいに向かっていき、勢いのいい放水とぶつかり合う。


 押し合い凌ぎ合う。


「“ファイアーボール”!!」


 あの放水を返り討ちで、リヴァイアサンにお返ししてやる!


 消せないなら押し合いだ。


 と、私の心は決まった。放水を押し返す。その為には、ファイアーボールで押し戻すのだ。


 ここは連射じゃっ!!


 心が決まれば即決だ。私は撃ちまくった。


 と言っても三発だった。


 それが限界。ふらふら状態。


 でもリヴァイアサンの放水は、最後の一発を撃つと大きな水飛沫をあげて、弾けた。


 リヴァイアサンが驚いた顔をしていた。


 やった。消えた! 水飛沫をあげながら水は落ちてゆく。炎が競り勝ったのだ。


「なるほど。」


 リヴァイアサンは笑みを零した。


「蒼華。ほら飲め。」


 飛翠だった。ふらふらの私を支えながら、差し出したのは蒼い小瓶。


 はい。私の必須アイテム。魔力回復薬マジックメイトです。


「ありがと……」


 物凄い心配した様な顔だ。それに支えてくれてる。シロくんみたいだ。


 私はごくごく。と、飲み干した。


「無茶もたいがいにしとけ。見てらんねー。」


 ぼそっと飛翠はそう言った。


 え? 


 そんな言葉がどこの口から出た!? ウソでしょ!? なに??


 ごっくん。と、思わず飲み込んだ。マジックメイトを。


 飛翠は本当に切なそうな顔をしていた。


「水流の継承者。動けるか? ならば前に来い。」


 リヴァイアサンの声に、私は前に進んだ。飛翠は手を離した。


「私の力を継承する者よ。名を。」


 リヴァイアサンの美しい光を放つ頭が、下がる。顔が私の前に近づいた。


 綺麗な表面だ。蒼い宝石の様だ。


「“桜木蒼華さくらぎそうか”です。」


 私は真っ直ぐと蒼い眼を見つめた。


「蒼華。私はリヴァイアサンだ。お前に力を与えよう。」


 リヴァイアサンはそう言うと、身体から蒼い光を放った。眩しい程の光だ。それはまるで水。


 リヴァイアサンの身体を水流が覆った。噴水の様な勢いのある水に包まれ、やがてそれは消えた。


 コトン。


 と、意思の床に宝石が落ちた。


 蒼い宝石だ。涙型ティアドロップの宝石だった。


 私はそれを拾う。


「指輪の石と違うな?」

「うん。魔石の中にある原石。それが水色なのかな?」


 飛翠の声に私はそう言った。

 ここからだと結晶が良く見えない。


 私は金のバングルにかちっと石を嵌めた。


 ちゃんとハマる様に後ろがカットされている。それがまた不思議だ。


 こうして私は……海王リヴァイアサンの継承を、終えたのだ。

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