第15話 フィランデル王国!!

 ーーフィランデル王国。


 それはガトーの大河のド真ん中にあるお城だった。琥珀色のお城は、大きな巻き貝みたいだ。ぐるっと囲む城壁に、段々とした造り。


 イメージしているお城とは違うが、でも強そうだ。


「やばい!! すごいすごいっ!!」

「わかったから、バシバシ叩くな! イテーんだよ!」


 大河から流れる大きな滝。まさにナイアガラの滝!! ど迫力!! 


 大河から流れ落ちるそんな絶景に近い滝の側に、その琥珀の城は建っているのだ。


 私は余りの美しさとダイナミックな景色に、飛翠の腕を叩いていたらしい。


 興奮のあまり。


 ランセルから見えるこの絶景は、最早! 世界の神秘!! キラキラとした水面の大河は、とても広い。どこまでも続いてそうだ。


 それに滝の水しぶきであがる七色の虹! レインボー!! スマホ使えたらインスタあげるのに!!


 アークから大河の脇を、ぐるっと走ってきた。ここからトンネルを潜り、あの水の上の琥珀の城に行くらしい。


 これは……歩いて行けない。その意味がわかった。


 ネフェルさんにそう言われたのだ。


 大河の中をトンネルで進むのだが、その入口までは、外が見える。


 滝が川に落ちる所が見えるのだ。なんて素晴らしいパノラマ!! 


 空洞を堀り景色が見える様に作ってる辺りも、凄い。そこを通り大河の中を突き進むトンネルに、入る。中は真っ暗でランセルの光だけが頼りだ。


 ひんやりとしたトンネルを潜りぬけ、出た先は大きなターミナルだ。


 それもアークどころではない。一両のランセルしか無かったが、今。私達が乗ってるのと同じ様に、三両編成。これはもう列車だ。


「すげーな。人が。」

「東京駅みたいだね。」


 そう。人が多い。それに、軍服?? 緑や蒼。紅などの兵隊が着る様な服装。それが目立つ。


 白のズボンに膝下からの、茶のブーツ。鎧とかは着てないけど……腰には、剣を挿している。


 ブロンド髪が多いな。それに蒼や碧の眼をした人たちが、異様に目立つ。


 ここの国の人達の象徴なのかな。


「蒼華。」


 と……きょろきょろしてる私の腕を、掴んだのは飛翠だった。


「ねぇ? 私達……完全に浮いてない?? 目立つよね?」

「は?」


 物凄く呆れられた。


 女性もいるけど……男性と同じ様に、軍服みたいなワンピースドレスだ。色は様々だけど。足までしっかり隠してる。


 これは……国の衣装ってことなのかな? 女性はチェリーピンク、ブラッドオレンジの髪が……多い。


「驚いただろ?」


 ハウザーさんが、幾つも乗り場のあるターミナルを抜けながら、そう言ったのだ。


「フィランデル王国は、“軍事国家”。この国の民は、“王国軍の兵士”たちです。」


 ネフェルさんが、ターミナルを抜けた辺りで、そう教えてくれた。


「えっ!? みんな!?」


 王城の下……。つまりここは城下町になるのだろう。そこに出て私は納得した。


 街の中には至る所に、“碧色の鮮やかな国旗”が、飾られているのだ。街の中を歩く人達は、私達の様ないわゆる……“外国人”もいるのだが、圧倒的に軍服を着た人達ばかりだ。


 良かった。冒険者とか普通にいる。


「女もか?」

「彼女たちは“魔法使い”だ。兵士には変わりないがな。」


 飛翠の声に答えたのは、ハウザーさんだった。


「この国と“イレーネ国”は、イシュタリアの二大勢力。その軍事勢力も、互角とも言われてる。」


 ハウザーさんの表情が、どことなく険しいですけど!? なんか……今の言葉もとっても重みありますけど!?


「協定などを結び……今は、互いに牽制し合う仲ですが、昔は派手にやっていたそうですよ。」


 ネフェルさん。涼しい顔で言われても……笑えません。それにとっても仲良くないってことでしょ?


 私はちょっと……心配になってしまった。


「王国に立ち寄る用も無いですからね。船乗り場に行きましょう。」


 ネフェルさんの言葉に、ホッとした。


「ちょっと失礼。」


 だが、私は気が付かなかったのだ。この地に来てから、ヒソヒソと私達の事を見て、話す人達がいたことに。


 私と飛翠の前に碧の軍服を着た人と、蒼い軍服を着た人が、立ったのだ。


 色は違うけど襟元から肩まで、金のラインが入っている。


 ん? 蒼の人は二本ラインだけど、碧の人は三本ラインだ。それになんか服のデザインも違う。


 コック服みたいだ。肩に金のボタンがついてる。そこで留めて、着る服みたいだ。


 隣の人は学ランみたいだけど。ボタンついてないタイプの学ラン。なんだっけ? 飛翠の持ってるヤンキー漫画で、よく見るな。


 白ランとか言うんだよね?


 と、私が恒例のファッションチェックを、していると……


「この国には何の用で?」


 と、碧の軍服の人に聞かれたのだ。


 ブロンドイケメンなんだけど、おっかないな。

 でも、この感じ。


 これは“手配書”が出回ってるってこと!? ウソ!? アークだけだった!! 幸せな土地!!


 私は血の気が引く思いであった。


 問答無用で、私達は“王城”に連行されたのだ。


 話を聞いてもくれなかった!




 ▷▷▷


 琥珀の城は、ガトーの大河で見た時は確かに綺麗だった。でも今はただの軍隊基地だ!!


 強制連行されて、私達は今……“総帥”とやらに、必死に説明しているところだ。


 この人が王様らしい。


「だから! 何回も言ってるでしょ!? 私はティア王女じゃないの! コッチもシェイドとやらじゃないの! こんな目つき悪い騎士います!?」


「オイ」


 思いっきり頬を抓られた。


 ぎゅうっと。


「いだい!」


 手加減してよね! バカ飛翠!


 目の前の大きなテーブルの向こう側。そこにいるのは、碧なんだけど、国旗と同じ鮮やかな碧の軍服着た男の人だ。


 でもなんか勲章やら金のボタンやらが、じゃらじゃらとついてる。それから金のチェーンもムダに。


 コーヒー色の鼻の下の髭と、髪にはちょっと驚いた。ここにいるのは、ブロンドの髪をした人しかいない。だから、異色で目立った。


 まー私達二人は、漆黒ですけど!


「ふむ。その割にはよく似ているな。」


 大きなテーブルの上に置かれたのは、なんと懐かしい! セピア色の手配書。


 カラーじゃないから、髪の色とか眼の色とか説明出来ない。それに服装も映ってないし。髪型まで似てるし!


 私と飛翠の顔によく似た男女が映るものだ。それにWANTED!! 髑髏付き。


 それを放り投げた。


 黒い手袋がなんかとっても……嫌な感じ!


「だからそれは……間違いなの!」


 このセリフを……あと何回。言うのだろうか。私は。


 この広い会議室みたいな空間には、軍服着た男の人たちが、何人もいる。


 私とこの男性の様子を見ている。


 私が変な事をしない様にと、監視してるんだろう。ネフェルさんとハウザーさんは、入れなかった。


 よって! 私と飛翠だけなのだ。


「では聞こう。この国には何の用だ?」


 バンッ!!


 私は彼の目の前でテーブルを叩いた。


「だから! 船に乗るの!」


 これもさっき言った! 聴いて! 人の話を!


「何の為に? 逃亡か?」


 総帥とやらのきらっと光る蒼い眼も、とても憎たらしいが、私は手配書に目がいってしまった。


「ちょっと待って!! なにこれ!? 3億5千コア!? なんで増えてるのよ!!」


 3億だった。確かに。そこからあんまり上がってなかった。


 一気に五千万!?


 あーもう。立ちくらみが。


「“マーベルスの街”を聖剣と、召喚獣で襲い……壊滅させたのだ。自国“イレーネ国”と親交のある街をな。全く……狂った者達だ。」


 総帥は……そう言ったのだ。


 な……なんですって!?


 と、私が驚いた時だ。


「失礼します。」


 颯爽と入ってきた人がいた。

 紅い軍服を着た“サファイアピンク”の長い髪を、靡かせた女性兵士だった。


「“アイリス“か。」


 男の人たちは、碧色の軍服だ。総帥とも街にいた人たちとも少し違うけど。


 でもこの人は紅い軍服。それもやっぱり勲章とかが凄い。


 女性兵士は腰に剣を下げていた。


 私の隣に立つと


「“グロウ総帥”。同行していた“神導士”。ならびに、“戦神”と呼ばれる男からの聴取は、終わりました。この者達は、“イレーネ国の者”ではありません。」


 綺麗な人だ。眼もうっすらとピンクグレーだ。お姫様みたいな人だ。


「ほぉ?」


 グロウと言う人……なのか。この総帥は。目がぱっ。と、開いたけど。


「大魔導士ゼクセン殿のお知り合いだとか。」


 アイリスさん……が、そう言ったあとで、なんだか部屋の中がざわついた。


 凄い人なんだな。ゼクセンさんは。


「なるほど。」


 にやっと笑うグロウ総帥。徐にイスから立ち上がったのだ。


「失礼したな。良き旅を。」


 グロウ総帥は、そう言うと右手を胸元に置き……頭を下げたのだ。


 え?? なにこの変わりよう??


「行くぞ。蒼華。」


 飛翠はそれを見ると、私の腕を掴んだのだ。


「えっ!?」


 引きづられる様に部屋から連れ出される。


 なんでこー……力ずく!?


 部屋のドアから出る時に、私はアイリスさんと目があった。


 アイリスさんは微笑んでいた。その優しそうな顔が、とても印象的だった。


「大丈夫でした? 何かされませんでしたか?」


 通路に出ると、ネフェルさんとハウザーさんがいた。ネフェルさんはとても心配していた。


「嬢ちゃんの威勢のいい声は、聞こえてたがな。」


 ハウザーさんはにやにやと、笑いながら私を見下ろした。


 レッドブラウンの長めの横髪垂らしている。そこから見える金色の左目。本当にアクション俳優さながらの、格好いい男なのに。


 このにやけた顔は何とも……残念!


「そりゃー。怒りますよ。毎度なんで。」


 この騒動もどうにかしてほしい。


「疑いも晴れたことです。行きましょう。」


 ネフェルさんの言葉に、私は強く頷いた。


 こんな王国からはさっさと出よう!!

 えーもう! とっとと!


 お尋ね者もいい加減にしてほしい。と、思った私だった。

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