第13話 紅炎の支配者

 ーーマグマが煮えたぎる洞窟。


 炎の大空洞。

 まさにその名の通り……。溶岩をこんなに間近で見る事になるとは……。


 なんて凄い世界に来ちゃったんだか。


 それに目の前には、紅炎の支配者だとか言う大きな獣。犬なんだか狼なんだかわからない……野獣。


 この茶と紅い毛に覆われた者は、獣人と呼べばいいのか。


 腰に巻いてる金色の布から見える脚は、かなりゴツくて太いし、腹筋八パックだし。


 と言うか! 風の魔法をぶつけてるのに、全然! 効いてくれない!


 私は既に……三本目。トロピカルジュースみたいな味のする魔力回復薬マジックメイトを、飲み干した。


 蒼い小瓶。これにこんなにお世話になるとは。


「そろそろコチラからいくぞ。人間。」


 紅い両眼光らせながら、ソイツは言った。イフリートだっけ?


 口を開くと私に向かって紅炎の弾丸を、放ってきたのだ。


「きゃあっ!」


 ちょっと!! こんな火の玉! 聞いてません!!


 私は思わず避けました。

 私の居た所に直撃すると、地面が燃え上がる。


 あーもう! あんなのくらったら死ぬわ!


 この世界の住人は……冗談がキツい!


 イフリートは私めがけ……紅炎の弾丸を、乱発してきたのだ。


 まるで大砲! 

 私はドッチボールみたいに、この空間で逃げ惑うしか出来ない。


 とにかくこの弾に当たったら終わりだ。逃げるが勝ち!


「!」


 うそっ!! 


 私は逃げてる間に……追い込まれてしまった。橋のヘリに来てしまった。


 このままだと落ちる!! 下はマグマ湖!! 炎が泳ぐ湖だ!


 後ろからは火の玉。


 私は無我夢中。ロッド振り上げた。


「“風の切り裂きウィンドカッター”!!」


 碧風の手裏剣が紅炎の弾丸に向かって行く。


 ええい! ここは乱射じゃ!!


「ウィンドカッター!!」


 ロッド握りしめ紅炎の弾丸めがけ、私は碧風のカマイタチの手裏剣を放つ。


 乱射したことで、火の玉を四方八方から切り刻んでくれた。


 やった! 何とかなった!!


 目の前で紅炎の弾丸は、風に切り裂かれた。


 これこそまさに! 風の切り裂き!! いやいや。感動している場合じゃない。


 私は橋の真ん中に戻る。


 マグマ湖なんかに落ちてたまりますか! まだ、死にたくない!


「その諦めの悪さは……感心するな。」


 イフリートはにやっと笑う。


 あー! やだやだ! この上からな感じ!


「だから言ったでしょ! 私はしつこいの!」


 とりあえず! 負けたくないのでロッドだけは、アイツに向けとこう!


 私はイフリートにロッドを向けた。


「ふむ。なかなか面白い。だが、ここに来るのは早かった様だな。そろそろ終わりにしよう。」


 んん? イフリートがそう言うと身体を仰け反らした。


 これはなんか、ヤバそうなのがくる感じだよね? いつものことながら。


 大きな紅炎の弾丸を放つのかも!?


 こうなったら! 属性なんか知らんわ!!


 とにかく魔法連射じゃ!!


 私はイフリートめがけ何やら放たれる前に、魔法をぶつける事にした。


 先手必勝!!


 と言うか……怖いので。


「“風の切り裂きウィンドカッター”!」


 碧風石の魔法。

 更に


「“雷鳴サンダー”!!」


 紫雷石の魔法。雷の雷槌だ。それを放つ。


 イフリートの頭の上から雷槌が落下!

 でも、イフリートはその口から思った通り。大きな紅炎の弾丸を放ったのだ。


 さっきの数十倍はある!


 こんなの撃つな! バカ野獣!!


 と、思いつつも逃げる訳にもいかず。

 逃げる事がムリそうだ。大きすぎて避けられません!!


 威力、迫力満点の紅炎の弾丸!


 映画さながらのド迫力! 3D、4D越えてます!


「ウィンドカッター!!」


 私はその紅炎の弾丸に対抗するべく、風の魔法を放ち、更に


「サンダー!!」


 雷の魔法を放ち、もう一発!


「“樹氷ライム”!!」


 ロッドについてる魔石オンパレード!! 三つの魔法を放った。


 向かってくる紅炎の弾丸。私の三つの魔法とぶつかる。


「蒼華!!」


 飛翠の声が聴こえたけど、私は吹き飛ばされていた。


 熱風。それに身体が包まれた。


 地面に放り出された。

 全身が溶けそうだった。


 ズキズキする。


 でも……生きてる。


 土の地面が目に入る。


 倒れていた……。でも、私はロッドを握っていた。熱い……と思ってる余裕もなかった。


 ただ、火に覆われた。それはわかる。私の腕は煤汚れがついていた。


 ボロボロだった。白い魔法闘衣ネイルが。


「ほぉ? ワレの紅炎を食らってもまだ生きてるか? お前の身を包んでいるのは……“魔法闘衣ネイル”か。猫族アイウラの装備。」


 イフリートの驚いた様な声が聞こえる。


 カレンさん……。助かりました。


 私の着ている白のワンピース。それに紅い布。エプロンみたいに着ているのは、ネイル。


 アイウラの特殊な魔法闘衣。


 そうか。これが……焼かれて焦げるのを、防いでくれたんだ。


 だから……生きてるんだ。


 私は全身ズキズキで痛いけど、立ち上がった。


「蒼華!」

「飛翠くん! 堪えるんだ。これは彼女の戦い。」


 後ろで……飛翠の声とネフェルさんの声が、聴こえる。


 飛翠……そんなに、心配する様な声を出したことない。私……そんなに凄い怪我してるのかな?


 自分ではわからない。


 でも服がボロボロなのはわかる。


「まだやるか? もう一度……“紅炎の熱風メルトストリーム”を食らえば……お前は死ぬぞ? それよりもここは退き……ワレに対抗する力を手にしてから来る事を進める。」


 イフリートの嫌味な声が聴こえる。


 ここは退く?? 何を言ってるのよ。こんな所まで来たんだから。


 冗談じゃない! 出直しとか有り得ない! そんな簡単に諦めてたまるか!


 はー。もー……これは……仕切り直しじゃ!!


 私はとっとと回復薬を飲む。


 そうよ! この考えはちょっとイヤだけど、傷を回復する薬、それに魔力回復。これらを補うものが、私にはあるのだ!


「そうか。退く気はないのだな? 愚かな。」


 イフリートは私の事を見ると、そう言ったのだ。


「退く? そんなのしません! 一度決めたら簡単に諦めたくないの! ここまで来たんだし! 絶対に紅炎の魔法を貰ってく! 蒼華様をなめるなよ! この野獣!!」


 全回復じゃ!! ご覧あれ! 服まで元通り!


 なんか凄い世界だ。

 ちょっと……ついていけない。命の有り難みとか薄れてくわ。これ。


 まあ。そうゆう世界だしね。強制的に納得しておこう。うん。何でもアリな世界ってことで。


「威勢だけはいいな。良かろう。その心意気。しかと受け取ってやる。」


 イフリートは何だか勇ましく、嬉しそうな顔をしているが、力を溜め始めたのだ。


 あの“メルトストリーム”とかをまた放つのだろう。


 雷と氷。風。三連射は効果なく。

 と言う事は……ここは風の連射。


 様は、有効属性とやらで打ち消せばいいんだよね。一度の魔法の力は弱いんだから、何回も撃つしかない。私の場合。


 道は開ける! 自分で切り開く! 諦めない!


「ウィンドカッター!!」


 私が先に風の魔法。碧風のカマイタチの手裏剣を放つ。


 イフリートの口から大きな炎の弾丸は、放たれる。熱風纏い全てを焼き尽くしそうな大きな弾丸だ。


 私だけじゃなく辺り一帯まで、焼けてしまいそうだ。これが魔法の力。


「ウィンドカッター!!」


 ロッドは向けたまま。私は大きな弾丸めがけ、撃てる限り、叫び続けた。


 カマイタチが手裏剣みたいに、飛んでゆく。でもそれは無数の風の刃。


 思った通り! 乱射した事で紅炎の弾丸に直撃し、炎を切り裂いてくれる。


 でも! 消せない!


「ウィンドカッター!!」


 フラつきそうだった。だけど、弱まっていく紅炎の弾丸を見て、私は叫んでいた。


 もう一発!!


 そうは思ったけど……どうやら、魔力は力尽きてしまった様だ。


 魔石が煌めいてくれない。


 紅炎の弾丸は完全には消えてない。私に向かってくる。


 あれに包まれたら死ぬかも……。今度こそ。


「蒼華ちゃん。お主……変わったな。」


 え?? この声は……。


「“碧風の竜巻トルネード”」


 金色と白の混じったローブ。銀色の長い髪。樫の木の杖。


 私の前に白い光に包まれてその人は現れた。


 その声と共に……紅炎の弾丸と、イフリートめがけ大きな風の竜巻がまるで……火炎放射みたいに、放たれたのだ。


 私はその背中を見つめていた。それにその長い銀色の髪。姿は少し違うけど……この声は……。


 黒崎さん!?


 紅炎の弾丸は竜巻の力で、消し飛んでいた。


 私は涙が出ていた。この時の感情は良く覚えていない。


 でも、涙が止まらなかった。

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