第9話 二人だけの旅路?▷▷剣と魔法を紡ぐ!

 ーー紅いランセルで下ってきた街中で、食事を済ませた。


 私達はとにかく“炎の大空洞”。

 そこに向かうことにしたのだ。


 まだ陽は高い。

 夜までには戻って来れるかも。と、宿屋の手配まで済ませた。


 そこで、私と飛翠は顔を見合わせた。


「やっぱり?」

「ああ。何も言われねーな。」


 そうなのだ。ネフェルさんもそうだった。それに食堂でも。


 そして宿屋でも。


 手配書が回っていないのだろうか?


「観光案内所みたいなところがあったから、聞いてみたんだけど、私の顔を見ても何も言われなかった。あ。その代わり、魔石は持って行ってください。って、言われたけど。」


 飛翠が宿屋の手配をしている間に、私は道具屋。と呼ばれる場所で、回復薬などを買ったのだ。


 しめて五千コア!!

 宿屋入れると一万二千コア!


 う〜ん。これは大変だ。


 残りが一万三千コアになってしまった。

 貧乏だ。


「国境一つ越えたからか? それともイレーネ王国と親交がねーのか?」

「あの地図を見る感じだと……イシュタリアって、ヤバ広いよね? 大陸もあったし。」


 私達は街を出ながらそんな話をしていた。

 飛翠は少し考えていたが、


「考えても拉致あかねー。とりあえずフツーに出来るってことだろ。それならそれでいい。面倒くせーのが一つ減ったな。」


 と、言ったのだ。


 意外と……能天気なんだよね。飛翠って。ポシティブって言うのかな?


「そうだね。手配書見てみる?」

「は? 何でわざわざアピールするんだ? バカ女」


 これは久々のバカ女を、頂きましたね。いや。まいったね。


「飛翠。最近……キレすぎ。」

「お前の天然バカに磨きが、掛かってるからだ。」


 そぉかなぁ?? こんなだよね? 私。


 ▷▷▷▷


 久々の徒歩。


 そこまで距離は無かったが、それでも疲れましたね。ずっとトーマスくんの背中で揺れてたからね。


 草原を歩くのはとても久々だった。


 なので、その大変さが身に沁みた。洞窟歩くのと草むら歩くのは、違う。


 炎の大空洞。


 そこは、ガトーの大河。その手前にあった。


 私達のいたアークの街。そこから直進!

 大河めがけて歩くと、岩山が出てきたのだ。


 灰色と白と蒼。それらの岩が包む岩山だ。炎の大空洞と言うから、赤茶系かと思ったが……。予想を反しましたね。


 岩山にぽっかりと開いた穴。

 大きな入口が待ち構えていたのだ。


「待ち伏せされてるかも……」

「噂だ。」


 飛翠はさっさと中に入って行こうとした。

 も〜! なんでそんなに平気なのかな?


 私も後から付いて行く。


 思えばこうして二人だけの旅をするのは、始めてだ。この世界に来てから。


 何しろ、頼もしいカルデラさんとラウルさん。それに、グリードさんにシロくん。

 トーマスくんたち。


 みんな……何してるのかな。


「明るいな」


 その声に私は顔をあげた。

 洞窟の中は明るい。とても。それにトンネル並みに広くて大きい。


 天井も高い。ただ、岩窟だけど。

 トンネルみたいな洞窟を、紅い光が照らしていた。どうやら紅炎の魔石。その原石がこの岩壁の中に入っているのだろう。


 それが、照らしているのだ。


「飛翠。なんか少し……暑いよね?」

「ああ。じわっとくるな。」


 そう。今までの洞窟はひんやりとしていたのが、多かった。ここは少し暑い。

 我慢出来ないほどではない。


 夏近い頃。その頃の生暖かな風を思い出した。無風だから、余計かな。


「蒼華!!」


 飛翠のその声に、私は壁に追いやられた。

 ドンッ。と、押されたのだ。


「え??」


 私と飛翠の間に飛んできたのは、火の玉だった。飛翠も咄嗟に躱していたが、目の前を通過する火の玉は迫力があった。


 ファイアードラゴンの次はなに??


 洞窟の奥から力強い足音が響く。大きそうだ。


 少し地面が揺れていた。


「やっぱり! 待ち伏せされてた!?」

「みてーだな。」


 飛翠は大剣を身構えた。


 現れたのは、紅と茶が入り混じる毛で覆われた、大きなライオンに似た顔をした獣だった。


 たてがみがオレンジと紅で炎みたいに、めらめらと燃えている。


 長い尻尾の先まで炎だ。


 けどこれはデカすぎでしょう? 巨大ライオンですか!?


「まさかこれが……番人!?」

「さぁな。」


 飛翠は大剣握りながら獣を見上げていた。


 ライオンはもう少し、可愛げある顔をしてるけどこれはダメだ。おっかない。


 それに黒い牙だ。上の口から伸びて突き出てる。


 前足を上げながら、大口を開いた。


 そこから火の玉を放ったのだ。


「どーしよ!!」


 私と飛翠は火の玉になすすべもなく、逃げるしかなかった。


 洞窟の中で火の玉が乱発される。


 その度に壁に当たり中は揺れる。


「ちょっと! このままだと崩れない!?」


 私と飛翠は火の玉から、逃げ回ることしか出来ない。お互いに、壁の所にいた。


「さぁな。」


 火の玉を放たれながらも涼しくお方なのね。貴方は。少しは焦るとかないのかな?


 とりあえず。聞くかどうかはわからないけど、ここは風です!


 私はロッドを向けた。


「“風の切り裂きウィンドカッター”!!」


 碧の風がカマイタチのように、魔物に向かう。手裏剣の様に飛んでゆく。


 火の玉を放たれ私の魔法とぶつかった。


 弾かれた気がしたのは気の所為??


「そいつは……“風耐性”です。余り効果はありませんよ。」


 え? この声って。


 私が振り返った時だ。


 そこには魔導書みたいな本を、宙に浮かせ開いた状態。


 黒い神父服を着たネフェルさんがいたのだ。


 パラパラと捲れる本。


「“聖なる槍クリミナル”」


 金色の光だった。

 本から放たれるその光と、ネフェルさんの言葉で、魔物に放たれたのは金の槍。


 それもまるで天から降ってきたみたいに、槍が斜め十字。魔物の身体に突き刺さったのだ。


「飛翠くん。一時停止ストップ効果があります。今のうちに剣技を。」


 ネフェルさんの碧の髪が揺らぐ。


 と言うよりも……どうしてここに??


 飛翠は強く頷くと、駆け出していた。


「”黒の鉄槌“!!」


 カルデラさん直伝の剣技だ。

 魔物は本当に停止していた。


 だから、無防備だ。そこに、飛翠の閃光走る剣技は、振り下ろされた。


 脳天直撃の斬りおろす剣技だ。


 更に、この前何を見て思いついたかわからない、新技を放った。


「”烈風斬“!!」


 上段切りからの下段薙ぎ払い。

 これが風の様な刃で敵を切り裂く……らしい。


 シロくんがこそっと教えてくれた。


 魔物は飛翠の剣技を食らうと、身体を拘束から解かれたのかばたん。と、倒れたのだ。


 飛翠は離れた。


 パラパラと捲られるネフェルさんの、本。ページが勝手に捲られるのだ。


「“聖なる光ホーリーサイレント”」


 それは物凄い力だった。

 魔物の身体の下から金色の光が、滝の様にあがり包むと、一瞬にして魔物を消滅させてしまったのだ。


「な……何という魔法……」


 私は驚いてしまった。


 ぱたん。


 本が綴る音がした。

 振り返るとネフェルさんは、本を手にしていた。


「魔法ではありませんよ。“神導術”。私は“神導者”と言う者です。この聖なる力を使う術者です。」


 静かな声だった。

 でもハッキリと聞き取れた。


 飛翠は大剣を背中に差し込んだ。


「魔道士とは違うってことか。」


 と、そう聞いた。


「ええ。“神道”を伝える者。と言われていますね。わかりやすく言えば神父です。」


 ネフェルさんは、微笑んだ。


 銀色の眼。その光がとても優しく煌めいていた。炎の大空洞で、私達はネフェルさんと再会した。とても早い再会だったが……、正直。助かったと思っていた。

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