第6話 ササライ鉱山▷▷鉱山の奥は国境越え!
ーーファイアードラゴンは高らかに火炎放射を、洞窟の空洞めがけ放ち、飛び上がった。
私達の真上を旋回しながら飛ぶその姿は、迫力がある。
こんなの街中に出てきたら大パニックだね。なんかの映画であったけど。
この空洞の上……、彼はそこから出て行った。
どうやら横に抜け穴があるらしい。
この真上は洞窟の天井だ。
どうにも出入り口の様なものは見えないのだが、ファイアードラゴンは、いなくなってしまった。
あんなデカい身体が抜けられる穴なんて、どんなもんなんだか。
ソッチも気になる。
つんつん。
私の白いワンピースを引っ張る感覚。
ふと視線を落とせばシロくんだ。
スカートの裾を摘んで引っ張っていた。
何となく……その横顔が、強張ってる様に見える。
私はしゃがんだ。
シロくんの白い顔。
そのくりくりの蒼い眼。
可愛らしいわんこ。
その顔を見つめた。
「蒼華様。その……僕は……」
私の眼を見ようとはしない。視線を外し、下を見ている。顔は真っ直ぐだけど……。これは、本当は言いたくないんだな。
だけど、気まずいから伝えようとしてるのかな?
私はシロくんの小さな手を掴む。
両手を掴み握った。肉球の感触が何とも心地良い。
「シロくん。言いたくなったらでいいよ。それに、もう“仲間”なんだから。何も気にしなくていいんだよ。私だって失敗ばっかりで、みっともないんだからさ。」
そう。今の私なんかよりも、夢を追うシロくんの方が、逞しいし強い。
信念を持って生きるその強さ。私はそれを聞いたし、あのコカトリスの山にたった一人で行く勇気。それだけでも凄い。
「蒼華様……」
「それ。やめようか。そうだな〜……様じゃなくて、ちゃん。とか、蒼華でもいいんだけどさ。」
この呼び方はちょっとな〜……。
私はカワイイから、シロくんと呼んでるけど。
シロくんは少し……困った様な顔をしたが、とっても照れ臭そうに笑った。
「あの……それなら……“姉さん”でもいいですか? 僕は姉がいなかったので。憧れているんです。」
ヤバい!
カワイイ〜〜。
あーもう! 姉さんでも姉ちゃんでも、なんでもなってあげるわよ!
なんてカワイイ生き物なの!
この照れた感じがまたヤバい!
「うんうん。なんでもいいよ。シロくんが呼びやすいので。そっかー。お姉さんがいなかったのか。一人っ子?」
「いえ。兄と妹はいます。それから三つ子です。」
あら。そこはやっぱり……わんちゃんなのね。
大家族っぽいな。
「蒼華。行くぞ」
このほんわかな空気を突き刺す一言!
飛翠しかおらん!
全く! なんでこう邪魔ばっかり!
大変な旅なんだからさ! 少しはゆったりのんびりさせてよね!
「はいは〜い。」
トーマスくん引き連れて来てしまったので、私は立ち上がった。
シロくんの手を掴んだまま。
「行こうか。」
「はい。蒼華姉さま。」
んん?
変わっとらん!! なんでさまつけるの!?
まーいい。カワイイから。
この空洞の先には、幾つもの洞窟への穴がある。カルデラさんは、ラウルさんとグリードさんと話をしながらその中の中央。
少し暗い洞窟に足を進めた。
茶色の洞窟が見える。ほんのりとオレンジっぽい光が、差し込んでるけど……。隣の洞窟の方が明るいし、広そうなんだけどな。
アッチは鉱山とかなのかな?
「この辺りは鉱山道と抜け道が入り組んでおってな。間違えると行き止まりになってしまうのだ。」
カルデラさんは少し狭いが、それでも私達二人は並んで歩けるその洞窟の中で、そう言った。
時折……低めの天井から水が滴る。
濡れた茶の壁が囲む。
「それってまだ掘ってる途中ってこと?」
カルデラさんを先頭。
その後にグリードさん。ラウルさん。私とシロくん。後ろには飛翠だ。
皆馬を引き連れているから、どうしても一列歩きだ。
「そうじゃ。“魔石の原石”だけじゃなく、ここには金もあるでな。更に奥に行けば銅もある。それらは武器や防具に使われるのだ。」
カルデラさんは灯りを持っていない。
そう。この洞窟は明るい。
何処から光が囲むのかはわからないけど、周りはオレンジの灯りで照らされている。
魔石の原石と言っていたから、紅炎の魔石が光を放っているのかもしれない。
「宝のヤマだな。」
後ろからとても低い声。
飛翠だ。
わかってるんだけど、背後から聞くとハスキーなヴォイスはどきっとするな。
いや。ヒヤッとする。
「正にそうだ。オレ達もここで金や銅を手に入れるんだ。オレ達は“鍛冶職人”がいるからな。ソイツらが武器や防具を造ってくれる。」
グリードさんの少し低い声が響く。洞窟の中は反響する。
「鍛冶職人? あの村にいるの?」
そんな工房みたいのあったかな?
「いや。あの村から少し離れた所だ。今度連れてってやるよ。どうせ。当分はいるんだろ? お前らに紹介したいとこなんて腐るほどあるからな。」
本当に第一印象と全然違うんだけど。グリードさん。確かに顔はゴツいんだけどね。獣感が物凄いので。
「そりゃー楽しみだな。」
飛翠はすっかり仲良くなったみたいだし。合うんだろうな。気質が。
この御方と合うのは同じ“荒くれ者”じゃないと、ムリだ。
少し歩くと広くなってきた。
辺りには水が湧き出ている。
地面に溜まり始めていた。
「鍾乳洞みたいだね?」
「行ったことあったか?」
あれ? 飛翠って行かなかったっけ?
「中学の時、沖縄行ったじゃん。」
「ああ。だったな。」
「行ったよね?」
「行った。お前のせいで迷子になった。」
う〜くそ! なんでそこは覚えてるかな!?
「蒼華姉さまと飛翠さんは……ずっと一緒なのですか? とても仲がいいですよね?」
シロくんの可愛らしい質問が飛んできた。
「ああ。一緒だ。仲はよくねーが。」
「なんでそこを否定すんの!?」
「良くねーだろ。」
憎ったらしいな! ホントに!
当たってるけどさ!
ケンカ多いからな〜……。私達。どうも飛翠の顔を見ると……もう……文句しか出て来ない。と言うか……イラッとする。と言うか。
これが……良くなかったんだな。きっと。ずっと一緒にいるのに。
くすくす。
シロくんは笑った。
「仲宜しいと思いますよ? 本当に仲が良くなかったら、そうゆうの言えませんから。」
あ……。そうか。確かに。
それは言えてるかも。
憎ったらしいけど……嫌いとは思ったことない。寧ろ……。
いや……でも、シロくん。やっぱり色々とあったんだろうな。なんか……今の言葉も深い……。
こんなカワイイのに……嫌な想いとかしてきたのかな。それはちょっと哀しいと言うか……許せないな。
「お。開けたな。蒼華。」
「え?」
私はいきなり腕を掴まれて驚いた。
「ボサっとすんな。コケる」
あ……。
私の前に少し窪みがあった。
どうやらそこに足を突っ込みそうになったらしい。
それを止めてくれたのだ。
「ありがと」
「ボーっとすんな」
一言!!
これが余計なんだ!!
他の娘にはこんな事言わないのに!!
洞窟は開けた。
ようやく鉱山から外に出られそうだ。
「国境を越えるでな。」
カルデラさんの明るい声が聞こえたのだ。
「やったー!!」
空!! 草原!!
太陽!!
と……思ったけど。
「え〜〜〜!? ウソでしょ〜〜〜っ!?」
大音声で響いてます。
遠くにまでこだましてます。
ここはいつの間にか……山の上でした。
目の前には長い吊り橋です。
風で木の吊り橋がゆ〜らゆ〜らしてます。
「な……なにここ!? 高い! 高いけどっ!?」
これ知ってる! なんかのバラエティで罰ゲームとかで、よくバンジージャンプやらされるやつ!
崖ですよ!?
ねぇ!? ここから落ちたら死にます!
アウト!
切りだった崖。
私達はそこにいた。
高さなんて下を見るのも恐ろしいぐらいだ。いつ、登った?? 坂道あったっけ??
洞窟は平坦な道だったはず。
抜けたら崖の上!!
オーマイガっ!!
神様!! なんでこんな試練をカワイイ女子高生にお与えになるんですかっ!?
私が何かしました!?
空は快晴。
太陽は今日も丸い。
真っ白だ。まるで大福だ。
「おい。座り込むな」
後ろから頭を叩かれた。
ぺしっと。
「痛い……」
「そんな強くしてねー。」
あーもう! なんで貴方は平気なんだ!
お尋ね者の旅は困難が憑き物。
わかりますよ。でもねー。これはないでしょう!?
こんな長くてゆらゆらの吊り橋渡れますか!?出来ません! ムリです!
命綱あってもいやです。
「蒼華ちゃん。大丈夫じゃよ。馬も渡れるでな。」
カルデラさんが吊り橋の前でそう言った。
「え?? トーマスくんとか渡るの??」
どう見ても不安定だけど。
それに距離が長い……。
「ここはな。鉱山で掘った物とかも運ぶ道なんだ。揺れては居るが頑丈だ。それに風の抵抗に強い造りになってる。ちょっとやそっとじゃ落下しない。」
グリードさんは焦げ茶色のホーストくんを、引っ張りながら吊り橋に向かった。
既にラウルさんと白馬のジークくんは、歩き始めている。
確かに見た所……揺れもそこまで無さそうだけど。
渡り始めたら最後だよね。これ。
「大丈夫ですよ。蒼華姉さま。この吊り橋はみんな、使っているんです。」
シロくん。わかるんだけど……。なんか騙されてない!? そうやって誤魔化してどうにかしようとか思ってない!?
「行くぞ」
私は腕を掴まれた。
飛翠に引っ張られながらこの吊り橋を、歩くことになったのだ。
シロくんなんて軽快だ。
ロープを手で触りながら鼻歌まじり。
時折振り向いて
「渓谷が綺麗ですよ! 蒼華姉さま!」
と、下のちょっと流れの早そうな渓流と渓谷の景色の説明までしてくれている。
何とも逞しい。
それに馬たち。
トーマスくんもそうだけど、慣れてる。
そう言えば……いつも魔物が、出て来ても大人しく回避してるし、さっきのファイアードラゴンにしても、ビビる事もない。
馬って臆病って聞いたけど……こっちの子たちは、慣れてるんだな。こんな高さ……歩けるんだもんね。
それもとってもお上手。
吊り橋の上を平気で歩いている。
風吹いてるんだよ? なのに……身体を上手く揺れに乗せながら歩いてるんだよね。
不思議だ。
「すげーな。こんな高い吊り橋は歩いたことねーな。お前と行ったな。栃木だったか?」
飛翠は私の手を掴み、トーマスくんの手綱を掴みながら歩いてくれている。
ほとんど引っ張られてますが。
「うん。栃木。紅葉が綺麗だった。あと栗最中。」
そう。あの栗最中は美味しかった。
「栗最中? あー。食ったな。」
飛翠の懐かしそうな声を聴いた時だ。
何か変な音が聞こえた。
「なに? 何か音がするけど。」
バサッバサッ!!
羽音だ。
大きな羽音が響いたのだ。
吊り橋を渡る私達に向かって飛んでくる、大きな黒い影。
それも物凄い速さだ。
それは大きな黒い翼を羽ばたかせた得体の知れない者だ。
羽音響かせ私達の頭上を飛び越えた。
「きゃあっ!!」
正に突風。
通過しただけなのに、私はその突風に吹き飛ばされていた。
「蒼華!!」
飛翠の声が聞こえたけど、私は吊り橋から落ちていた。
「蒼華ちゃん! 飛翠くん!!」
カルデラさん……。
え!? 飛翠!?
落下しながら私は目を開けた。
落ちてるのはわかる。
でも目の前には飛翠。
「な……何してんの!? バカなの!? 一緒に落ちるとか……」
私は咄嗟に……吹き飛ばされるときに……飛翠の手を離したはずだ。
「手を伸ばせ!」
空中なのに私は飛翠に手を伸ばしていた。
飛翠の手と私の手……。
繋がる訳ない。
落下しているのだ。
それも私の方が先に。
だが、私と飛翠の左手。
そこについているブレスレットが、光ったのだ。
「これ……黒崎さんの……」
この世界の文字が読めると言うブレスレットだ。
灰色のチョーカーみたいなブレスレットが、空中で光る。
それは白い光だった。
私と飛翠の伸ばした手も不思議と……左手だった。
お互いのブレスレットが光る。
白い光の中で私と飛翠は手を繋いだ。そう。繋げたのだ。離れていたのに。
この光が出たことで、私達の身体は浮いた。
「このまま落ちるしかねーみたいだな。」
飛翠は私の手を掴むと引き寄せた。
私は……飛翠の腕に抱きしめられながら、落下していくのを感じていた。
それでも背中に回される腕の強い力を感じた。大切なものをしっかりと……抱えているような、そんな気がした。
「飛翠……。このまま行くと……渓流……」
私がそんな事を言ってると幾ら……浮いているとは言え、二人揃って渓流に落ちたのだった。
落下速度が緩やかだったのがまだ救いでは、あったが……川に落ちた事は、変わりない。
渓流の中でようやく私達は、互いに顔をだした。
ダイナミックな飛び込みだった。
「流れ! 速い!」
でも不思議と私と飛翠の手は繋がれたままだった。それに……私はちゃんとロッドも握りしめていた。
「流されるしかねーな。落ちた所が悪すぎだ。」
ど真ん中だった。
こうして……私達は、暫し望んでいない渓流下りをする事になったのだ。
それもボート無しで。
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