第5話 ササライ鉱山▷▷炎龍降臨後!!
ーー凄すぎるでしょ……。
目の前の炎龍……ファイアードラゴンは、私達の連続攻撃にも屈しない。
と言うより……効いてない??
その真紅の身体が神様の様に見えるわ……。
最早……ドラゴンとは、不死身ってやつなのか?
金色の爪の様なものが生えた翼を、羽ばたかせ悠々としている。
この鉱山の中の正に……キング。
今……ここいる誰よりも……強いキングだ。
「ちょっとはやるな? だがまだまだだな。」
飛翠の剣技にすら……傷一つついてない。
どうなってるの? あの身体。
まさかあの身体ぜんぶが、鋼鉄な鎧とか言わないよね?
「問題ねーっすか。」
飛翠は剣を肩に乗せるとため息ついた。
「ないな。引っ掻かれた様な気分だ。」
トカゲみたいな頭を傾げている。
長い首だ。
にしても……攻撃をして来ようとしない。
まさか本気で“ヒマなの”!?
「ちょっと! もう気が済んだ!? わかった! アンタは強い! はい最強です! だから通して!!」
ヒマなこのドラゴンに構ってられない!
私達は、“アトモス公国”に行って、このお尋ね者になってる現状を、説明しなくちゃならないのだ。
じゃないとここにいる間、ワケわかんない奴等にずっと命を狙われることになるのだ。
そんなのは御免だ!
異世界ゆうゆうとのんびり紀行とかしたい!!
いや。じゃなかった。
つい……本音が。
ん? でもアトモス公国に話をして……イレーネ王国から護ってもらうとしても……それはそれで、大問題とかになりそうだよね。
対立してるんだっけ?
仲悪いんだよね。
どっちにしても大変なのだろうけど、とにかく!
ここから出ないと話にならない。
「小娘よ。先を急ぐ理由はなんだ?」
先を急ぐ理由??
あー聞いてくれる?? そうか。そりゃ良かった。
「アトモス公国に行くの! そんでもって私達の間違いだらけの“罪”とやらを話して、仲間になってもらうの! 王国に歯向かうにはそれなりにバックが必要でしょ!? 歯向かう気はないけど。」
歯向かう事になるんだもんね〜……。仕方ないことだ。元はと言えば王家の争い事だ。
そこに巻き込まれたってことになるのだ。私と飛翠は。
「ん〜?? イレーネ王国のことか?」
ん? あらドラゴンさん。興味がおあり?? これはもしかして……話を聞いてくれる系!?
そんでもって味方になってくれないかな?
このファイアードラゴン連れて、イレーネ王国に乗り込めばなんか、どうにかなりそうなんだけど。この火炎放射で。
それは軽いか。
「そうよ! そこの王女様がトチ狂って王家の秘宝とやらを持ち出して逃げちゃってるの! しかもその王女様が、私に似てるとかでこっちは罪人扱いですよ! わかりますっ!? 腕試しとかしてる場合じゃないの!」
とにかく私は、話をしてみた。
ファイアードラゴンは紅い眼を丸くしながら聞いていた。
だが、首を傾げる。
「秘宝……“
は??
なんですって??
ドラゴンから奪った??
オイオイオイ……。何してくれてんのよ。
もしかしてドラゴンと人間が仲悪くなったりしたのって……そうゆう事も関係してるわけ??
「あの
核ですかっ!?
え!? なに?? これは北○○とア○○カの戦いですかっ!?
「そんなモンがなんで奪われたんだ? お前らみてーのがいれば、簡単に奪われたりしなそうだけどな。」
飛翠……。
核持ってる奴と普通に会話してるけど。
ああ。今は持ってないのか。
「“七聖戦争”は知ってるか? 大昔の戦争だ。七つの国の王と……この、イシュタリアの者達を巻き込んだ“人間と多種族”との戦争だ。」
え? それってもしかして……
「その戦争って人間と……貴方たちとの戦いだった。そうゆうこと?」
ファイアードラゴンは大きな首を伸ばした。
翼を閉じて静かにそこに立ったのだ。
紅い眼は私達を映す。
「そうだ。人間とイシュタリアの先住民族たちとの戦いだ。長く辛い戦いであった。だが、勝ったのは七国の王たち率いる人間だ。その時に、イレーネ王国は創立された。もう五百年も前の昔の話だ。」
五百年……。
そんな大きな戦争があったんだ。
この壮大な世界で。
ファイアードラゴンの何処か哀しげな声を、聞きながら私はそんな事を思った。
この世界にも歴史がある。
それは私達の暮らす世界と同じ。
戦争……。
私にはそれが悲劇を産むこと。
そうゆう認識でいる。
だからか……想像しただけで、少し苦しくなる。
映像や写真などでしか見た事はないが、どの戦争のものも酷く凄まじく……見るに耐えないものばかりだった。
それに纏わる物語や話も……。
中学の頃に修学旅行で行った沖縄。
そこでやはり、戦争の話を聞いた。
あれはとてもショックの大きなものであった。
「その戦争で……ドラゴン族の秘宝。“
ファイアードラゴンの瞳が、慈しみ。
そんな色を滲ませていた。
「なんでその戦争で“力”を持つ石とやらを、使わなかったんだ? それを使えば勝てたんじゃねーの?」
飛翠の……その言葉に、私もそれは聞いてみたい。と、思った。
そんな凄い力を持っている“石”なら、人間との戦いに勝てたんじゃないか?
それはそう思った。
ファイアードラゴンは、飛翠を真っ直ぐと見つめていた。
その瞳は、少しだけ険しく見えた。
「我らは“イシュタリア”は好きだ。だが人間は嫌いだ。力を使いイシュタリアを傷つける事は、我らの望みではない。」
ファイアードラゴンはハッキリとそう言ったのだ。
飛翠はファイアードラゴンの強い眼と向き合っていた。
「てことは……その戦争の後も、人間とは争ってきた。ってことか。」
「如何にも。小さないざこざや“七聖戦争”とまで行かない戦争も、幾つもあった。戦火はこのイシュタリアを包んだ。人間と人間の争いも多かったがな。」
なるほどね。
戦争は幾つもあったけど、ドラゴン達と人間が歪みあったのは、その大きな“七聖戦争”がはじまり。ってことなのかな?
そう言えば……
それに“
何だか矛盾してるな。とは思ったけど、きっと戦争の名残と、その後も色々とあったんだろうな。
「昔の話だ。飛翠。」
蒼い狼犬に似たコボルトのグリードさんが、両刃の大きな斧を担ぐ。
飛翠はグリードさんと向き合った。
種族の違いーー、目の前にその光景がある。
私も自然と隣にいる白い紀州犬に似たコボルト。
シロくんに視線を向けた。
シロくんは蒼い眼を丸々とさせて、私を見上げていた。
「コボルト族も人間と争った。今でも人間の事を良く思ってねーのもいるよ。奴隷扱いされてきた事もあるからな。他の種族もそうだ。ドラゴン族も奴隷として……人間に、扱われてた時代もある。」
え?
奴隷扱い??
私はシロくんの顔色が……少し、険しくなったのを見てしまった。
だが、シロくんは直ぐにその顔を変えた。
柔らかな笑みを浮かべた。
ちょっと待って……。
この表情は……幾らおバカな私にもわかる。
誤魔化して取り繕った……。
ウソでしょ?
こんなカワイイシロくんが……まさか。
「マジか。どこにでも“クソ”はいるんだな。」
飛翠が鼻で笑い飛ばした。
「奴隷制度に関しては……ワシらとて、有効的だとは思っていない。各国で廃止命令は下っているが、今も尚……制度のある国も存在しているのは、確かなことだ。」
カルデラさんが、何だか哀しそうな顔をしてそう言った。
「そうだね。イレーネ国も“制度の廃止”。先代の国王の時にそう決めたが……最近になって、今の“ヤヌス”が、制度復活を掲げた。その事で……“貴族”たちから反感を買ったんだ。」
うわ!
なんかイシュタリアの闇が出てきたけど??
これはダークな部分だ。
あんまり知っちゃうと逃げられなくなるパターンだ。つまり、首を突っ込むな! ですよ。
世の中にはほどほどに。と言う言葉がある。
私は当たり障りなく生きていくこと。
それをモットーにしている。
おっかないことや、面倒くさいことには極力、関わりたくない。
自分のキャパはそんなに大きくないからだ。
つまり……抱えてもどうしていいかわからない!
「マジか」
「ああ。アトモス公国は貴族の国だ。奴隷制度には絶対的な反対を掲げている。奴隷は貴族にとって黒歴史でもあるからな。自分たちがそうだったからだ。」
飛翠の黒い髪とラウルさんのブロンドの髪が、目の前で混じって見えた。
人種も様々なもの。
それが……世界だ。
「貴族も奴隷扱い……ってこと?」
私は言ってから……納得した。
そうか。身分や階級の違いなんかがあるもんね。一番……そうゆう縦社会的な世界なのかも。
う〜ん………。
ますます。何だかヤバそうな気になってきた。
イレーネ国とアトモス公国……。
大丈夫かな? 私達が行って戦争の火蓋とかにならない??
ファイアードラゴンは、そんな私達の話を聞いていたが、ふと羽を広げた。
「ここを通してやる代わりに、我の願いを受け入れよ。さすれば通してやろう。」
え!?
願い??
「なにそれ。急に……お願いごととかしてくる系なの?」
ちょっと驚いた。
まさかの展開だ。
すると、飛翠は背中に大剣を突き刺した。
背中の鞘のホルスターにしまった。
「
え!? そうなの??
「正解だ。小僧。中々……勘が鋭い。」
ファイアードラゴンの顔が少しにやけて見えた。こうやって見ると、なかなか若いかも。
幼く見える。
「話の流れで想像つくだろ。」
飛翠ってのは、何処でもこうゆう感じなんだな。変わらない。
「
ファイアードラゴンは両翼を大きく広げた。
見事な翼だ。
どっちにしても……王女様と、元王国騎士のシェイドってのには、会わなきゃいけないんだ。
それにそんな“核兵器”みたいなの……、人間が持つって言うのはどうなんだろ?
強い力を持てば……試してみたくなるのが、人間の心情だよね。
ここは、ドラゴン族に返すべきなんじゃないだろうか。
奴隷扱いや制度の事を聞いたからか。
戦争の事を聞いたからか……。
私はそんな事を思っていた。
「それで手を打つから通してもらうわよ。約束だからね!」
私は……そう言っていた。
飛翠がフッ……と笑う。
「決まりだな。」
そうファイアードラゴンに後押しした。
「蒼華ちゃん……。良いのか?」
カルデラさんが、とても心配そうな瞳を向けた。オレンジ色の眼が揺らぐ。
「え? なにが?」
私が聞き返すと
「ちょっと……かなり。大変な旅になると思うけどね。シェイドさんは戦士としてかなり強いし、ティア王女は……“召喚士“だ。勿論。魔法も使える人だよ。」
と、ラウルさんがとても心配そうに言ったのだ。
その頭を軽く掻きながら。
「え? 召喚士で魔法使い?? それってなんなの?」
と、私が言うと
「”魔道士“だよ。蒼華ちゃん。魔法を使う者達の中でも魔道士は、格別じゃ。魔法に長けた者たちだ。」
カルデラさんが説明してくれたのだ。
え? どうゆうこと??
そんな凄いの? 魔道士って。
召喚士とか言われても……まぁ。なんとなく。程度で、魔法使いの上って言われても……。
「今のお主では”何も出来ずに死ぬ“であろうな。魔道士の魔法は強力だ。」
ファイアードラゴンの止めの一言だった。
そう。この時に私の道は決まったのだ。
“魔道士”になること。
それも……ティア王女様を越える必要があること。
この短時間に、イシュタリアで私が成すべき事が、明白に定まった。
私は……とんでもない道に突き進むことになったのだ。
「しんどそうだな。どーでもいいけど……投げ出すなよ。」
「うるさいな! ちょっとは心配しろ!」
飛翠のその一言に……元気に言い返せる気力は、この時の私にはあったのだが……。
魔道士の道は険しい事を知らなかっただけなのだ。
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