第4話 炎龍▷▷降臨!!

 ーーデカい……。


 それしか出てこない。

 この大きな真っ赤なドラゴンとやらを前に……私は、やっぱりここは夢の世界なのだと、思ってしまう。


 こんなの現実。

 目の前に現れないでしょう。

 フツーに生きていたら。


「シロくん。どう考えても……やる気マンマンだよね?」


 私は蒼いロッドを握りながら、そう聞いた。


 真紅のドラゴン。

 口から炎を吐き私たちを眺めている。


 炎を吐くその姿だけでも、見ていて恐ろしい。熱そうとかそうゆう問題じゃない。

 炎を吹く、吐く、ありえない。


 映画の世界だけにしてほしい。


「ドラゴンは“敵”と言うよりも、腕試しや力試しが好きですから。つまり。バトル好きってやつですね。」


 そんなくりくりのカワイイお目々で言わないで。バトル好き!?


 つまり……ヒマなのね。


 もういい!

 こうなったら


「ちょっと! そこのデカいの! 通してよ! あのね。私達はこんなとこでアンタのヒマ潰しに、構ってらんないの!」


 そうだ!

 もう私は……半分ヤケで、八つ当たりだった。気がついたらロッド振りかざして、そう怒鳴っていた。


 ファイアードラゴンだか、何だか知らないけど、腕試しするなら他に行け!!


 と、心の底から思っていたからだ。


 コッチはそれどころじゃないんじゃい!


「どうしたんだ? あの姉ちゃん。おっかないな〜」

「アレがアイツだ。よーやくノッてきたな。」


 グリードさんと飛翠の“嫌味”が聴こえてきた。


「聴こえてるっつーの!」


 二人そろって“おっかねー”とか、言ってるけどそんな事はどーでもいい!


「何ぞ? ならば我を倒してみよ。小娘。そのロッドは、飾り物か?」


 んん? なんか口調がハッキリしてるな。さっきより聞き取りやすくなった。


「飾り物!? こんな長いの飾りで持ち歩く女子高生いますかっ!? バカじゃないの!」


「蒼華ちゃん……。どうかしたかね? いつもと様子が……違う様だが……。」


 カルデラさん。

 そんな心配そうに見ないで。

 別に気がおかしくなった訳じゃないから。


 周りを見れば……まあ。飛翠はべつに。って感じだけど、ラウルさんもシロくんも。

 それにーー、グリードさん。


 皆。私を心配そうに見てる。


 そうか。私って……頼りない人。だったのね。

 どうにも……足をひっぱるだめだめな感じだったわけね。


 情けないっ!


 私は……いつだって“一人”で、乗り越えてきたんだから! たまには飛翠にも助けて貰ってたけど。


 私だってやる時はやります。

 とは言え……手持ちの魔法は、アイツに効きそうなのが、風魔法。


 これはまだ使ったことがない魔石だ。


 火には風が強い。

 使ったことないから、とにかくどんなものか知りたいし、もしかしたら強力かもしれない。


 何しろ……あのコカトリスが使っていた魔法なんだから。


 なんて事を思いながら、私はファイアードラゴンに向けてロッドを突き出していた。


 魔法……。

 ロッドの進化でちょっとは強くなってたみたいだけど……。


 私はロッドの先を見つめた。


 魔石が煌めいている。


 私はこの魔石で魔法が使える様になった。でも、このファイアードラゴンやさっきのサデューには、到底敵わなそうだ。


 対等に戦える魔法が欲しい。

 どうすればいいんだろうか。


 私は……“この時”はじめてだった。

 強い力が欲しい。と、真剣に思う様になったのだ。カルデラさんや飛翠に護って貰うだけじゃなくて……。


 私自身が戦える力が欲しい。


 魔法を使えるなら……“魔法使い”になりたい。


「戦う意志はありそうだな。小娘。そのロッドとやらで、使ってみるがよい。お前の力を見せてみよ。」


 まー憎たらしい!!

 なんでしょ。この上から目線でイヤミな言い方!


 やってやろうじゃないの。

 蒼華様をなめるなよ。


風の切り裂きウィンドカッター!!」


 私は予告なしだ。


 ロッドの先端で煌めく“碧風石”から、風の魔法を放ったのだ。


 碧の風のカマイタチが十字の手裏剣の様になり、ファイアードラゴンに向けて放たれる。


 この手裏剣で敵を切り裂く。

 シロくんが教えてくれた。


 大きな巨体に向かって風の手裏剣は、舞うように向かって行く。


 円を描くようにしながら幾つも。

 四方八方からその身体を切り裂く。


 でもーー、ファイアードラゴンにはあまり効果は無さそうだった。


 確かにその大きなトカゲみたいな身体は、くねらせてはいるが、頭をふるふると振って倒れる訳でもなく、特に痛そうな気配もない。


 いや。何となく血は出てるんだけど、かすり傷ってことかい!


 効かないってことだよね。

 だったらここは!!


「“風の切り裂きウィンドカッター”!!」


 連射じゃっ!!


 なんだっけ? 

 魔力が無くなるまでは、魔法が使えるんだよね?

 そんなのどうなってるのかわからないけど、とにかく放てるだけ、放ってやる!


 ヤケであった。

 完全な。


 私はファイアードラゴンに向かって、碧風の魔法を乱発していたのだ。


「おお〜〜」


 一同の歓声が聴こえた時には、私はふらふらっとしていた。


 どうやら何発も放ったことで、魔力とやらを使い果たしたらしい。


 ファイアードラゴンは、身体をくねらせながらよろけていた。


「小娘。お前はバカか?」


 それでも両翼を羽ばたかせながら、かすり傷程度の切り傷から、血を流しながらそう言った。


 ぐらついた身体も問題なさそうに、地面に大きな足をつけて立つ。


 あーもう!

 倒れない!


 私が倒れるわ!


 ロッドを杖代わりにしながら、ふらつく身体を支えにした。


「バカってなにっ!? アンタが黙って通してくんないからでしょっ!」


 口が減らないドラゴンだ。


 はーはー。


 言いながら、私はまるで一気に体育館で連続バスケでもやったかの様な疲労感に、苛まれていた。


「蒼華様! 無茶苦茶ですよ!」


 シロくんの心配そうな声が聴こえた。


「無茶苦茶でけっこう。わからずやにはこれが一番なの。実力行使! 無鉄砲で突っ込むしかわかってもらえないんです。」


 お前のことだからな!

 涼しい顔してコッチを見てるけど!


 飛翠!!


 とりあえず……飛翠に文句を言う気力はないので、私は睨むだけにしておいた。


「小娘。限界か? そんな小さな魔法でよくここまで来れたものだ。周りの連中に感謝するんだな。」


 全く効いてない。

 5〜6発は撃ったのに!!


 あーくそ!もー!!


 杖を頼り。

 私は立ってられないので、コントのおばあさんみたいになっている。


 シロくんが腰元で支えてくれてるけど、彼はとても低いので申し訳程度に、小さな手を差し出してくれている。


 この優しさが何とも心に沁みる。


 私……ババくさいな。


「うるさいな! 邪魔しといてなんでそーエラそうなの!? なんなの? ここの世界の奴らってのは、みんな性格悪いの!?」


 強い奴ってのは……優しいのが基本でしょう??

 カルデラさんとかラウルさんみたいに!


 あのクソ王様とか、サデューとか、このファイアードラゴンとか!


 威張りくさってエラそうに!


 いつか……絶対にやっつけてやる!


 今はムリだけど。


 バサッ……


 ファイアードラゴンは両翼を広げた。

 孔雀みたいに。


 真っ赤な身体をしたこのトカゲの王様みたいな奴は、どうにも引きそうにない。


 威嚇ーー、だと受け止めたのか、カルデラさん達は、剣を構え引き締める様になっていた。


 互いに“戦闘モード”とやらなのだろうか。


「蒼華様。今のうちに回復薬をお飲みください。」


 シロくんが差し出してくれたのは、あのコカトリスの親子と戦った時に、出してくれた“小瓶”だ。


「ありがとう。シロくん。」


 えっと……たしか。

 魔力回復薬マジカルメイトだったっけ?


 私は小さな蒼い菱形の瓶を開けると、飲み干した。


 このトロピカルジュースみたいな甘酸っぱさは、クセになる。


 堪能している場合ではなさそうだ。


 ファイアードラゴンは口から、紅い炎を吹きだした。


 私達に向けて火炎の風の様に、撒き散らしたのだ。


 咄嗟に飛翠やグリードさん。

 カルデラさんにラウルさんは、避けていた。


 私とシロくんは頭を抱え身を低くして、その炎から避けたのだが……。


 かすりもしないのに……この熱さ。


 正に炎!!


「髪の毛燃えるよね」

「そうゆう問題ですか?」


 シロくんがとても呆れていた。


 率直な意見なんだけどな。


 よし! 身体も軽くなったし!

 復活じゃ!!


「言っとくけど! その炎とやらだって限界があるんじゃないの!?」


 私はもう……“女は度胸”!!


 それしか頭になかった。


 ファイアードラゴンにそう叫んだのだ。


「何を? ほぉ? 面白い。我と本格的に魔力勝負をするつもりか?」


 あらら。

 浮いた。


 ようやくその重そうな紅い身体は浮き、両翼を羽ばたかせ私達の前に、立ちはだかる。


 バッサバッサ。


 ここらの埃が全部舞ってる。

 花粉症の人がいたらキレてるわ!


「力比べなんかしたかないけど! やらなきゃここを出れないんでしょ! やってやるわよ! えーもう!」


 ぶんっ!!


 私はロッドを両翼羽ばたかせるファイアードラゴンに、向けたのだ。


「その身体! ズタズタに切り裂いてやる!」


 手裏剣なめるなよ!!

 時代劇では必殺なんだから!


 見てなさい!


 本気になった女子高生は恐いのだ!

 ただ、ふらっと有名店とか立ち寄るだけが、脳じゃないんだからね!


「蒼華。やべーな。今のお前。惚れるかも」


 飛翠の声が聴こえた。

 大剣を右肩に乗せて、悠々とそう言ったのだ。


「は?? もっと前に惚れろや!」


 遅いっつーの!!


 コッチはどんだけあんたのこと……。


 いやいや。やめておこう。

 顔が熱くなってしまった。

 これは真っ赤だ。きっと。


「来い! お前らの力とやら見定めさせてもらおう。」


 エラそうなファイアードラゴンの声が、宙から響く。


 低いその声が私達に向けられる。


「シロくん。下がってて。」


 ロッドを持たない。


 シロくんを馬鹿にしている訳ではない。

 彼はこのチームに必要なサポート役だ。

 傷を負って貰っては困る。


「蒼華様。僕は……」


 哀しそうな声が聴こえてきた。


「シロくんがいないと困る! 誰がコントみたいな私の身体を、心配して回復薬くれるの? シロくんは、必要な役割なんだからね! しっかりしてよ!」


 あー。耳が痛い。

 こんなエラそうな事を言える立場ではない!


 でも。ここは優しく言ってもきっと響かない。必要なの!


 もう。ここにいる人たちは。

 私達の仲間なの。

 それを伝えたい。


 それだけだった。


「……蒼華様。わかりました。」

「勘違いしないで。シロくん。大切なの。」


 わからない。

 何と言えばいいのか。

 でも、伝えたかった。


 邪魔じゃなくて……大切だから、自分の身を護って。私にはその余裕はないから。


 そうやって上手く伝えられる……言葉が、でなかった。


 シロくんは私達から一歩引いた。


 葛藤してるかもしれない。

 でも、今はーー、ごめん。


 私は……このエラそうなファイアードラゴンを、倒したい。


 倒せなくても……まいった!!

 と、言わせたい。


 それだけ。


「行くわよ! バカデカいトカゲキング!!」


 私はロッドを握りしめた。


「ラウル殿!」


 カルデラさんが、何故かラウルさんにそう叫んでいた。

 その顔を見合わせていた。


 でも、私はファイアードラゴンに向けて“碧風”の魔法を放った。


 効かない魔法でも、ちょっとは何とかなるでしょう!


「“風の切り裂きウィンドカッター”!!」


 私が……碧風の魔法を放った時。

 カルデラさんとラウルさんは駆け出していた。


 剣を握りファイアードラゴンに向かって行ったのだ。


 碧風の十字の手裏剣。

 風の手裏剣はファイアードラゴンの大きな身体に、傷をつけていく。


 雄然と構えるその身体に、次々に飛び散り刃先で切り裂く。


 本来なら相当な威力があるのかもしれないが、ファイアードラゴンには全く効かないのか、口元に炎を吐く。


 そしてそれは私達に向けられた。


 火炎の渦だ。


 炎が風の様に私達を襲う。


 炎を避ける力があれば!!


 でも!

 ここはモノは試し!


 やってやれないことはない!


「“風の切り裂きウィンドカッター”!!」


 消し去るとか相殺とか、そんな事は考えてなかった。ただ、炎を……みんなに向かってくる炎を、弱らせたい。


 それだけで、私は碧風の魔法を放っていた。

 でも炎の渦を切り裂いたのだ。


 それもまるで切断するかのように。


「やった!」


 切断された炎。

 直撃しなかったことで、カルデラさんとラウルさんは、互いにファイアードラゴンに剣技を放った。


皇伽連撃おうかれんげき!!」


 ラウルさんだ。

 剣の十字型の二連撃。


 縦と横に切り裂く剣技だ。

 ファイアードラゴンの胴体にその連撃は、放たれる。


 ぐらっとよろめくファイアードラゴン。


 だが、その顔は険しさを増した。


 下からカルデラさんが居合斬りに近い体制を、取っていた。


 見た事のない剣技を出そうとしていたのだ。


 だが、ファイアードラゴンの口から炎は放たれる。


 威力はやはり凄まじい。


 火炎放射だ。


 でも、火炎には私の風も効くことはわかった。


風の切り裂きウィンドカッター!!」


 何度だってやってやる!


 まいったって言わせてやるんだから!


 碧風の手裏剣が向かってくる火炎放射に、立ち向かう。


 風はカマイタチの様に炎を切り裂いていた。


 揺らぐ炎は標的を見失う。


「”両斧猛進ダブルアクセル!!」


 グリードさんだ。


 大きな斧を抱えて踏み込み、旋風巻き起こしながらファイアードラゴンを、切り裂く。


 斧を薙ぎ払ったその烈風が、ファイアードラゴンを切り裂いた。


「ぐぬぅ!!」


 旋風巻き起こされ刃で切り裂かれるファイアードラゴン。


 剣技とは威力が強い。


 そこへ溜めていたのか、カルデラさんが居合斬り。


「“蒼刃斬撃”!!」


 それは大きな刃の閃光だった。


 剣を抜いたのと同時に閃光放つ刃が、ファイアードラゴンの胴体を切り裂いたのだ。


「おのれ!!」


 ファイアードラゴンは強力な体力の持ち主なのか。


 刃をくらい烈風でやられ、二連撃をくらっても傷を負っているのにも関わらず、倒れないのだ。


「飛翠!!」


 正にーー、真打ち登場!

 主役登場とでも言わんばかりの、最大の見せ場で、グリードさんから声が掛かった。


 いや。主役は私。なんですけどね。


 飛翠は大剣振りかざし既に飛び上がっていた。


「見よう見真似」


 は??

 またか!!


「“烈風斬”!!」


 なんだって??


 新技披露に……私は呆然だ。


 飛翠は大剣を振り下ろし斬りつけると、そのまま着地と同時に薙ぎ払ったのだ。


 閃空が起こる。


 大剣の刃から……。風がファイアードラゴンを包んだ。


「凄いです!! 飛翠さん!!」

「スゴすぎでしょ……」


 シロくんの大歓声に、私は最早。

 ぽかーんとしていた。


 なんなんだ。あの御方は。


 ファイアードラゴンは、よろけていた。

 それでも倒れない。


 これだけの剣技を受けて……倒れないのだ。


 私は……“ドラゴン”と言う生命体の恐ろしさを、始めて知った。

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