第7話 モザ平原▷▷魔法と剣デビュー 

 ーーモザ平原は、本当に広い草原だ。道は無い。たまに、土がちょろっと見えるだけで、緑に囲まれている。


 目の前には、黒い毛に覆われたダークウルフが、有り難くも三頭。


 人数に合わせて出て来てくれたのかな?


 ライオンよりも一回りは大きい狼だ。

 けれど、狼よりも凶暴そうな顔をしている。


 とは、言っても……“ニホンオオカミ”を、写真でしか見た事が無いから良くはわからない。


 ふと頭に過ぎったのは“シベリアンハスキー”の、おっかない顔だった。


「良いか。お試しじゃ。“紅炎石”の力で、炎の魔法を使うのだ。蒼華そうかちゃん。」


 黒崎さんは、真ん中にいる。

 私と飛翠で彼を挟む様に立っている。


 何故か……間隔が空いている。


 横一列に並び、ダークウルフ達と面向かいだ。


「“紅炎ファイア”。それが、魔法の言葉だ。」


 ……紅炎ファイア……。

 言うのはちょっと……怖かったので、心で呟いてみた。


「うん。わかった。」



 私はーー、何となくロッドの先端を、ダークウルフに向けていた。


紅炎ファイア!!」


 私がそう叫ぶと、ポウッ。と、持っているロッドの先端の方が、紅く光った。


 魔石を装着してある所だ。

 てことは……魔石が自然発光してるってこと?


 などと、呆気にとられていたら、


 目の前にいるダークウルフの身体が、一瞬で紅炎に覆われたのだ。


 ボッ!!  と。


 それは、自然発火したみたいに一瞬だった。


「え? うそ! すごい!」


 不思議なことに、炎でダークウルフを覆ったら、ロッドの先の方の、紅い光も消えた。


 まるで……発射装置みたいだ。


 炎に覆われたダークウルフは、身体を捩らせながら草むらに、倒れる。


 炎はいつしか消えた。


「この世界での“魔物の死”は、消滅だ。身体が消滅しなければ、死んではおらん。蒼華ちゃん。では、次に……樹氷ライムだ。」


 と、黒崎さんが言ったので、私はロッドをそのまま向けて、倒れているダークウルフに向かって叫んだ。


「“樹氷ライム”!!」


 今度は……白色の光だ。

 でもそこにうっすらと蒼みもある。

 蒼白い光だった。それが、ロッドの先端で光る。


“氷の魔石”……白氷石が光っているのだ。


 ダークウルフの身体が正に樹氷で凍りついた。それも一瞬で。


 パキーン……と、音までした。


 なんだか冷たそうだ。とても。


 黒い身体が真っ白になったのだ。

 白氷の塊の様になった。


「すごい! なにあれ!?」


 私は、目の前で起きている事に驚きを隠せない。


「絶対零度の樹氷で、凍てついた身体は……その名の通り……“凍死”じゃ。」


 と、黒崎さんが言うと、ダークウルフの身体は、そのままガラスの破片みたいに、砕け散った。


 消滅したーー。


「……これが“魔法”」


 飛翠の声が聞こえた。


 風の音しかないから、良く聞こえる。


「では、飛翠くん。君の番だ」


 と、黒崎さんは飛翠の方に、歩み寄った。


 杖を飛翠に向けた。

 丸い傘の柄の様な黄色い木の杖の部分。

 持ち手だ。


 ポウッ……と、金色の光が杖の先端に現れる。


「このバトルで、“戦いの感覚”を掴むのだ。その為に、今だけ“絶対守護プロテクト“と言う魔法をかける。」


 黒崎さんの声が、聞こえる。


 私も自然とそっちを向いていた。


絶対守護プロテクト?」


 飛翠が不思議そうな顔をしている。

 剣を右手に持ったまま、黒崎さんと面と向かっている。


 180超えてる飛翠と、黒崎さんでは体格の差が激しい。


「飛翠くんの身体を、今だけ“鉄壁”にする。つまり、ダークウルフの攻撃が効かぬ身体にするのだ。」


「は? そんな“透明人間”みてーなことも、出来んのか?」


 飛翠の顔は、とても驚いていた。

 目がぱっちりと開いている。


 透明人間ーー、確かに絶対守護だよね。

 見えないし触れないし。


「出来る。だがこれは“上級魔法”だ。熟練者向き。お前達ではまだ無理だ。」


 と、黒崎さんはそう言った。


 そういえば……“魔法の基本”みたいな事も言ってたよね。“上級魔法”って言うのがあるのか。


 ん? そう言えば……黒崎さんが使ってた“火の魔法”は……。あれも、“紅炎石の魔法”なのかな?



 後で聞いてみよう。


 黒崎さんは、杖を飛翠に向けたまま


プロテクト絶対守護。」


 そう言った。


 私と違って何ともお上品な言い方だ。


 すると、飛翠の全身が、金色の光に包まれた。

 それはまるで、オーラみなぎる。


 飛翠の全身から、光が燃えたぎっているみたいだった。


 全身が金ピカになる訳ではなかった。

 光に包まれてるだけだった。


 黒崎さんは離れる。


「その状態で、思うように剣を操り戦うのだ。基本的な動作はわかるな?」


 黒崎さんの声に、飛翠は剣を握りダークウルフの方を向いた。


 やる気まんまんだ。あれは。


「ああ。殴る、蹴る、ヘッドバット。だろ。」


 おいおい……。ケンカか?


「違うわ! 斬る、払う、突く。だ。特に飛翠くんのは、“クレイモア”だ。切断(圧し斬る)が得意な武器だ。好きな様に振り回すがよい。」


 あー。そうゆう事言わんといて。


 ほんとに好きなよーにしちゃうから。

 見境なく。


 はぁぁ……。私はため息ついた。


 何しろ……にやっと不敵に笑っているのだ。

 飛翠が。


「了解」


 そう言ったかと思うと、突っ込んでいっちゃったよ。しかも……速い!


 黒崎さんも、笑ってるし。


 狼二匹だよ? いくら何でも……。


 と、思ったけど……。


 無敵……だとわかったからなのか……いつもの“ケンカ”よりも、キレが凄い。


 思い切りの良さが違う。


 何度か見た事あるんだ。私は。

 実際に、私も何度か助けて貰ったこともあるし。


 狼が飛翠に噛みつこうとしてきても、あの大きな剣を、払う様にして、斬りつけてる。


 右から狼が来ると、蹴り。


 鋼の身体でも持ってるみたいに、狼の身体に上段蹴りですよ。


 ありえない。


 何なの……あの人。


「あ! でた!! 必殺“裏拳”!!」


 かと思ったら、拳じゃなくて剣を振り回してた。


 後ろから向かってきたんだ。

 さっき……斬りつけた奴が。


 その狼の身体を、裏拳でも繰り出すかの様に、剣を回しそのまま、振り切った。


 ズバッと!


 真っ二つ!


「飛翠! 後ろ!」


 私は手に汗を握りながら、観戦した。


 ケリを食らった狼が、向かってきたのだ。

 飛翠の、左肩に噛みつこうとして飛びかかってきた。


 飛翠の身体は、後ろ向きだ。


 何しろ狼を一匹、真っ二つに切り裂いて……。


 お腹の辺りから、横に真っ二つにしてました。

 はい……。


 後ろ向きの飛翠は、なんと柔軟なこと。

 さすがケンカ慣れしてる。


 肩に噛みつこうとしてきた狼を、払いのける様にパンチを繰り出した。


「まじか! ヒット!!」


 私は歓喜の声をあげた。


 ギャン!


 痛そうな声だ。狼の。


 狼は、横っ面を殴られて体制を崩した。

 さすがに、ふっ飛ばされないんだね。ヒトと違って。


 ケンカだとあのまま相手は、ノックアウトなんだけどね。


 狼が、体制を崩したところで飛翠は、剣を握りしめ、そのまま斬り降ろした。


「やったぁ〜!! 飛翠! 圧勝!!」


 ズバッといった。


 狼の頭からズバッと、大剣が斬り裂いた。


 私は手を叩いて喜んでしまった。

 バンザイまでしてしまった。


「ふむ。やるのう。」


 黒崎さんも、満足そうだ。


 そーでしょ。そーでしょ。


 あの御方は、“最強イケメン”なんです。


 うんうん。


 私は、狼が弾ける様に消えたのを見ると頷く。


「あ。黒崎さん。なんか“魔物”の、消滅の仕方が違うのはなんで? 倒し方?」


 と、私はふと疑問を抱いた。


 さっきはガラスが砕けるみたいだったし、黒崎さんが、倒したあの“サイ”みたいな奴……は、蒸発するみたいに、消えた。


 今の狼たちは、二頭ともパンッーー! って、弾けるみたいに消えた。


「その通り。この先ーー、様々な“術者や戦士”たちにも逢うだろう。それに、お前達もそれぞれ“新たな力”を手に入れて行くだろう。」


 黒崎さんは、息をつきながら戻ってくる飛翠に、目を向けていた。


「魔物の消え方は、様々じゃ。それも良くわかってくるはずだ。」


 と、そう言った。


「そっか。」


 私はーー、とりあえず納得した。


 いきなり全部を分かろうとしてもムリだ。

 私には。


 何しろ、けっこう今でも……限界キテますから。ね。

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