第8話 来たぞ!!王都イレーネ!!
ーーモザ平原とやらを抜けると、そこは大きなお城のある地ーー。
「うわ〜……すごぉい。これぞまさしく“王子様とお姫様”の世界!!」
と、言いたかったがそんなメルヘンチックなものではなかった。
要塞。
まさにそれだった。
灰色と少し蒼い煉瓦造りの壁に囲まれた、大きな鉄壁。門は、黒い鉄の杭みたいな槍みたいなのが、上から正に降りてきそう。
今は開門状態? だから降りてないけど、これ落ちてきたから……串刺しだよね。
まぁ。通るに通れなそうなんだけど。
黒崎さんが、門兵? と、話をしている。
銀の鉄鎧。重そうな鉄兜。
大きな身体に、銀の先の鋭い槍。
ああ。なんか“仁王様”を思い出した。
浅草の寺とかにいるやつ。
とにかく平原抜けて、大きな煉瓦造りの橋を渡って来たんだけど……そしたらこの門ですよ。
その向こう側には、巨大な建物。
お城と言う……私の概念は一瞬にして消えた。
確かにお城みたいな造りをしてるけど……。
蒼とか白でさ、上に旗とか立ってヒラヒラと。
お花とかたくさん咲いてて、見るからに美しいお姫様がいそうなそんなお城を、想像していた訳ですよ。
それがどうよ!
この煉瓦で囲まれた巨大な要塞ですよ!?
大きな塔みたいなのが幾つも建ってるあのお城みたいな所に、中々辿り着きそうもないんですけど。
それにこの壁の上から砲撃とかされそう。
門の上の塀には、同じ様な鎧着たおっかなそうな人が、槍を持って見下ろしてるし。
その足元からタペストリーみたいに、垂れかけてある真紅と金の旗。
何やら獅子みたいのが金で描いてあるけど、それすらもおっかなく見える。
「こんなのだと思わなかった……」
私はついに、ぼそっと言った。
口から出てしまった。
夢がーー、消えてゆく。
「そうか? こんなモンだろ。王都ってのは。鉄壁、難攻不落。じゃねーと役にたたねぇ。」
飛翠は、白馬に乗ったまま橋の先に行ってしまった。パッカパッカと。
見下ろしてるし。
あの人はなんなんだ?
何でこんなに平気なんだ。
「
と、黒崎さんがそう言った。
え? 入れんの? このセーラー服とロッドとブレザーと大剣コンビが!?
明らかに不審者でしょ??
こんな絶対要塞みたいな所に入れんの!?
ウソでしょ!? フレンドリーな王様なの!? なんかこー、裏から行くのかと思ってたけど! 門から堂々と行くの!?
「行くぞ」
パッカパッカと飛翠はさっさと行っちゃったし。
あ〜もう。わかったよ。行きますよ。
私はロッドを強く握りながら、茶色の“トーマス”くん。❨馬の名前をつけてみた。仲良くなれるかな? と、思ったので❩の、手綱を掴む。
左手で。
「トーマスくん。あの槍で突き刺されないかな?」
私は門に向かいながらどきどきしてしまった。
黒崎さんと飛翠は、確かに平気だったけど……私も大丈夫。って保証はないよね??
と、ひやひやしながら門兵の脇を通る。
トーマスくんはカッポカッポと、大人しく歩いてくれた。
うわ。睨まれた。
ぎろって睨んだよ。あのおっさん。
コワッ!!
門を無事……通り、城内へ。
「あれ?」
どうやら門を潜り、直ぐに城。と言う訳ではなかった。なんだろ?
なんか、市場?
大きな建物とかもあるんだけど、目の前に広がってるのは、出店とか並ぶ市場みたいなとこだった。
黒崎さんの黒い馬が隣に近寄ってきた。
「イレーネの城下町だ。この先に城がある。流石にお主らのその格好では、中に入れん。」
と、馬を優雅に歩かせながらそう言ったのだ。
んん?
「ちょっと待って。この格好してないと意味ないでしょ! 別世界から来たってどうやって説明すんのよ! 今更だけど、ロッドと剣なんか持ってる時点で、アウトだし!」
と、私は黒崎さんの何ともにこやかな顔を見ると、ムッとしてしまった。
よく考えたらこの人は何者なんだ?
今はなんだかとても世話焼きの優しい人。みたいだけど……。元はと言えばあの“古書店”にあった本だよね。
こんな事になってるのは。
「わかっておる。“城に入る道”がある。そこから中に入ればよい。大丈夫じゃ。ワシがちゃんと王様に面通しさせてやろう。」
と、黒崎さんは飄々としてそう言ったのだ。
とりあえず。あのおじーさんへの質問は、無事に終わってからだ。
そうだ。とにかく……“アレスの人”をなんとかしないと。
あと。私と飛翠が“極悪非道”ではないことも、わかってもらわないと!
うん。
私は強く頷き街の人たちが、たくさん行き交うその中を、トーマスくんと歩いた。
あ。違った。トーマスくんが、歩いた。
ロッドを握る手がちょっとべたつく。
緊張する。やっぱり。
こんなにーー、緊張したのはいつぶりだろ?
✢
王様のいる城。
イレーネ城とやらには、黒崎さんの薦めでトーマスくんを置いて、歩いて入る事になった。
とは言え……
「ねぇ? どう見ても門だけど? ここから入るの!?」
裏どころか思いっきり正面玄関みたいなんですけどっ!?
さっきの門より数倍デカい門が待っていた。
それもあの黒い鉄杭みたいな槍みたいな……がしゃん!!と、落ちてきそうな門。
それが横に二つも並んで待ってるんですけど。
開いてるけど、通ったら最期……みたいな気配がするのは、気の所為ですか?
それに、門兵はその脇に並んで二人。
槍もまたさっきよりも大きい。三叉? って言うのかな。
あの海神ポセイドンが持ってるやつ。
はぁ。こんなとこで“神話の変な知識”が、頭に浮かぶとは。
私もそろそろ“終わり”なんだ。
「蒼華ちゃん。ほれ。しっかりせい。」
と、私は右腕掴まれた。
その脇では、飛翠が左腕を、掴む。
がっしりと掴まれた。二人に。
「ちょいちょいチョイ!! これじゃー私が犯罪者みたいでしょ!? なんで腕抑えらんなきゃなんないのよ!!」
と、私が言うと黒崎さんは、にこにこと門兵に愛想振りまいてる。
「娘なんじゃ。カワイイじゃろ。」
っておい!! 聞けーっ!!
娘っておかしい!! 孫でしょ!! どう考えても!
「へぇ? じーさんの。」
鉄鎧が頷く。
いやいや。おかしいって! じーさん言ってるだろ!
「大人しくしとけ。」
「なにが!? ねぇ?? あんた飛翠!? ウソでしょ!? それ仮面!?」
もー! なんでこう平気なんだ!
お前は。
さらっと言う飛翠が恨めしい。
と、私はまるで担がれる様にお城の中に運ばれたのだ。
トーマスくん。帰って来れないかも。
などと、思いつつ私は城内へ入ったのだ。
そこは、やっぱり灰色と蒼が混ざった煉瓦みたいな石で作られた壁に囲まれていた。
何やら歩いているのは、鎧。甲冑。そう完全な武装軍団。馬までも優雅に歩いている。
トンネルみたいな所だった。
そこに大きな扉がいくつもあって、オレンジ色のライト……みたいな灯りが照らす場所だった。
広いトンネルーー、そこを私達は歩いたのだ。
武装軍団にちらちらと見られながら。
「戦士の村と言われておる。」
黒崎さんは、私の右腕をしっかりと掴みながらそう言った。
完全に逃さねーぞ。的な掴み方だ。
飛翠も黒崎さんも。
「村? だってトンネルじゃん? 村ってなんかこー……空の下じゃないの?」
がやがやしてるそのトンネルを、私は歩きながら聞いてみたけど、
「そうゆうもんじゃ。」
しか、返って来なかった。
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