第6話   魔石と馬

 ーーつまり。この三色の石をこのロッドに装着させると、私は“魔法使い”になれる。


 ってこと!?


 あらまー。凄いじゃないの!シンデレラのかぼちゃの馬車とか出せんのかな? 



 あれ。乗ってみたいんだよねー。キラキラドレスとかさー。ガラスの靴でしょ! やっぱり!!



 ガールズドリーム!!



「おい。帰ってこい」

「え!?」


 飛翠の声に、私はロッドを持ちながらくるくると、回っていた事に気がついた。


 きっとにやにやとしていたんだろう。


 とても気味悪そうに見ていた。

 冷ややかな視線だ。


 ごほん。


「失礼」


 私は取り乱した事を謝罪した。


「結晶を見ればわかるとは思うが、その三つの魔石はそれぞれ、“炎、雷、氷”の魔力を秘めている。序の口だな。基本中の基本だ。」


 と、黒崎さんは言うと私のロッドを掴む。


 頭の方を下げた。


「ここに“魔石”をセットする“装着穴”が開いている。」


 それは先端から少し下にあった。

 穴が三つ。まるで逆三角形をカタチづくる様に開いていた。


 飛翠も剣を見ている。

 どうやら剣の刃と柄の間に、同じ逆三角形のカタチを作る様に、穴三つが開いている。


 何か……ボーリングのピンの並びを思い出すカタチだ。


「どれを何処につけるとかあるの?」


 私は魔石を貰いながら、そう聞いた。


「決まりはない。好きにしていい。」


 飛翠にもどうやら魔石を渡している様子。黒崎さんは、丁寧に飛翠にも、説明していた。



 私達は、それぞれ填めた。

 カチッと。

 本当にぴったりと嵌った。


 でもなんかしっかりと埋まってない気もするけど……。


「え? 落ちないの?」


 と、そう言うと隣では、ぶんっ! ぶんっ! と、大剣振り下ろす飛翠がいた。


「落ちねーな。」


 と、魔石を見つめていた。


 実演ありがとうございます。


「よし! それならば行くか。」


 黒崎さんの一言で、セーラー服とロッド。

 蒼いブレザーの制服と“大剣クレイモア”の私達は、いざ!


 出陣!!



 ✢



 ーー王都イレーネまでは、どうやら闊歩。じゃなかった、馬に乗って行くらしい。


 いやいや。あんな魔法使えるんだから、ここはズバッとしゅんっと、瞬間移動でしょ!


 とは、言いたかったが言えなかった。


 何しろこの馬……


「ちょっとー! なんで真っ直ぐ歩かないのよ!! こら! しっかりしてよー!!」


 手綱引いても言う事聞いてくれない。

 今だってぶるぶると、頭振って歩くんだか歩かないんだか、ワケわからん。


 そもそもーー、この茶色くてとても綺麗な馬が、私に対してご機嫌ナナメなのは、乗る前に頭を撫でてあげようとしたのが、原因だった。


 私はーー、彼? の前足を思いっきり踏んづけてしまったのだ。


 その為、この有り様だ。

 振り落とされそうになるのを、必死でなんとか踏ん張っている。


 目の前では、白馬に乗った飛翠と、黒い毛がとても艷やかな馬に乗った黒崎さん。


 二人は和やかにパカパカと、馬を歩かせている。


「あーもう! この! 言う事聞かないと馬刺しにするよ! 貴重なんだからね! 知ってる!? 切り刻んでニンニクじょうゆで食ってやる!」


 革の紐を私はくいくい!と、引っ張った。これが、手綱だ。


 長いロッドを腕に挟みながらだから、中々上手い事行かないけど……。


 えいっ。と、私は左手で手綱のベルトをくいっと低く。



 口元と鼻にベルトの輪っかつけられて、この手綱だ。馬はその為、引っ張られると頭がクイッ!となってしまう。


 これで手懐けるしかないから、仕方ないのだろうけど。


 ブヒッ! 


 ん? あ。大人しくなった。


 え? 


「わっ! バカー!!」


 違う。大人しくなったのではなかった。走り出してしまった。


 草原をーー。


 今の鳴いた声は、怒りの声!?


「お。蒼華ちゃん。もう慣れたのかい? さすがだね。人は苦手でも動物とは仲良くなれるんだね。」


 後ろの方で、笑いながら黒崎さんがなんか言ってるけど、聞こえない。


 パッカパッカと、華麗に軽快に走ってしまっているからだ。


「ちょっと!! まじ! 止まれっての!!」


 手綱どころではなく、私はこの茶色い馬の首にしがみついた。


 何しろ“鞍”とやらがないから、不安定だし、お尻が痛い。


 ヒヒーン!!


 急に。だった。



「わっ! きゃっ!!」


 馬は立ち止まったのだ。


 しかも私は急ブレーキ掛けられて、背中から振り落とされた。


 どしんっ。と、草むらに落ちたのだ。落馬だ。

 お尻から。


 コロコロとロッドまで、草むらに転がった。


「あーもう!! 馬刺しじゃなくて丸焼きだ!!」


 私がそう怒鳴った時だ。


 パカパカ! と、軽快な足音二つ。


 白馬と、黒馬が追いかけてきたのだ。


「蒼華!」


 と、飛翠の声だ。


 私の乗ってた馬は、動かない。

 何故ならそこに……またしても、変な者が現れたからだ。


「今度は“狼”!?」


 それは、大きな真っ黒な狼が三頭だ。ライオンよりもデカいんじゃなかろうか。


 飛翠は、馬から飛び降りた。


 あーかっこいい。あーすごい。とか、突っ込んでる場合じゃない。


 だってもー、おっかない!


 今にも食い付いてきそうなこの鋭い牙。

 なんなの? あんな太くて尖った牙なんか、見た事ないよ!


 それに、このイカツイ顔!

 頭低くして、明らかに臨戦態勢だよね?


 爪も長いし……引っ掻かれたら、痛そう。


「黒崎さん! なにこれ!?」


 私は飛翠の手を借りながら、叫んでいた。


 もう。本当にここは何なんですか?


「魔物だと言っただろ。アレは“ダークウルフ”だ。安心せい。然程、凶暴ではない。」


 すとっ。


 と、軽やかに黒い馬から降りた黒崎さん。

 おじいちゃん……と、言っては失礼だが、足腰強いのには、びっくりしてしまった。


 飛翠は、早々に自分の乗ってきた白馬の胴体に、ベルトで括り付けてあった大剣を、引き抜いた。


 黒い革のホルスターみたいな鞘に、しまっていた。そこから抜き取ったのだ。


 慣れた手付きで。


 何故だ? 貴方はーー、私と同じ世界の住人のはずだ。


 それに……ブレザーで白馬に剣って……。

 ヤバい。カッコよすぎでしょ!

 “王子様ですか? 貴方様は”


 およよ……と、私はフラついてしまった。


「お前。大丈夫か?」


 わかってます。そんな冷ややかな眼で見ないで下さい。妄想が止まんないだけなんで。


「放置して下さい。」


 私は、そう言いながら白馬の王子様に、キュンキュンしてしまった。


 目の前に狼ーー、じゃなかった、ダークウルフが三頭いるのを、すっかり忘れてしまった。


「せっかくだ。試すがよいぞ。“魔法の力”を。」


 黒崎さんは、木の杖を持ったままにこやかにそう言った。


 何だかこの人も、楽しそうだ。


 私は、ロッドを拾うと握りしめた。


 とにかく、やるしかない。こうなったら。


 “魔法使い”デビューしてやろうじゃないの!

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