番外編 夫に猫を被るワケ⑫
午後の部は騎馬戦団体戦と個人戦の決勝戦だ。
午後一番には団体戦の決勝戦が先に行われたが、黄銅隊と白銅隊の同志の戦いとなった。旗を振りながらの応援は活気に満ちている。
その熱気のままに両者がぶつかりあい、白熱した試合を展開する。
馬上は砂ぼこりが舞い上がり、それにも負けない雄たけびが上がる。
白銅隊は女性で構成されているので軽さと機動力を生かした戦法をとり、黄銅隊は力で押していく。だが赤銅隊ほどの重量級はいないので、どちらかといえば頭脳戦だ。
五人で一つのチームとなり、落ちた者が少ない方が勝つ。
乱闘にはならない統率のとれたチームの戦いに、アイリシアは見入った。
結局数十分の戦いの末、勝ったのは黄銅隊だった。
観客席からは惜しみない拍手が送られた。
賭けをしていた者たちは、ほとんど賭けが外れてしまったようで落ち込みつつも手を叩いている。
そうして次の試合を知らせるファンファーレが高らかに鳴り響いた。
最後の試合はジルクリフを含んだ八人の戦いだ。
個人戦は団体戦とは違い個々の持つ技が光る。馬上からぶつかりあって落馬させた方が勝ちとなる。
赤銅隊からは一人、黄銅隊からは三人、白銅隊からは二人が決勝戦に残っている。青銅隊はジルクリフと副隊長の二人だ。
お互いの隊がぶつからないように組みあわされており、ジルクリフは最初黄銅隊の大柄な男との勝負となった。
決勝戦の最初は四試合同時に始まる。
アイリシアは息をつめて、馬上のジルクリフを見つめた。
ジルクリフは甲冑をつけている。馬が疲労しないように軽いものだが、頭から足先までフル装備だ。
彼の目立つ黒髪はヘルムの隙間から前髪を覗かせる程度だが、エメラルドグリーンにも似た光沢のある甲冑姿が陽光を受けて、きらりと輝くさまは正に武神といっても過言ではない。神々しすぎて、眩暈がしそうだ。
試合開始の合図とともに駆け出し、血気盛んに槍を繰り出す。
相手も返すが、縦横無尽ともいえるジルクリフの槍裁きに比べるとどこか拙い印象を受ける。
それほど、彼の技量は素晴らしい。
また愛馬と一体となって、生き生きと動いている。
意思疎通が完璧で、足を引っ張られることがないのも大きい。
ジルクリフが馬鹿と言われるほど馬好きな所以だろう。
巧みに操縦する姿は、まさに馬の心が分かって会話までできているようだ。
彼の愛馬であるサバッタンは体躯堂々とした青毛で、主人とよく似ている。だが、嫉妬深いためアイリシアは近寄らせてもらったためしがない。
休みの日にはいつもジルクリフと一緒にいて、羨ましいほどである。
いつかは彼の愛馬とまではいかなくても、その何十分の一かの気持ちを向けてくれればいい。
試合を眺めながら、アイリシアはそっと心の奥でつぶやくのだった。
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