番外編 夫に猫を被るワケ⑦
王妃のところにも顔を出してほしいと言われていたので、もう一つの包みを持ってアイリシアは詰所を出た。
体躯のいい二人の騎士が護衛までしてくれる。ちなみに猫の被り物も騎士が持ってくれたが、あまりの軽さに驚愕していた。だから簡単に外れるのだ、とアイリシアは説明する一幕もあったが。
護衛はいらないと言ったが、ぜひやらせてあげてくださいとベンエルからはなぜか懇願される始末だ。
結果、廊下を三人で歩いているのだが、不意に横にいた騎士たちが警戒を顕わにする。
向こうから大柄な男が歩いてきた。と思えば物凄い勢いで近づいてくる。
「赤銅隊隊長、今日はこちらの客人をつれているので邪魔しないでいただ―――」
「妖精さんっ!!」
「「妖精さんっ?!」」
頓狂な声をあげた騎士の間でアイリシアは大きな男を見つめる。お互い名乗ったことがないので名前では呼ばないけれど、彼が隊長と呼ばれるところに行き会ったことが何度かあり、隊長と呼ばせていただいている。制服から赤銅隊であることもわかっているので、実は名前も知っている。
ヘンリックス=マトル=ヲーグというのだと、国王から聞いた。
身長のある大柄な彼は、出会ったときからアイリシアを妖精と呼ぶ面白い人だ。
思考が乙女なのだな、と微笑ましい。きっと女の子を妖精と呼び、お花を眺めては私の宝石さんと語るようなものだろう。
二人の騎士など目もくれず、自分を見つめては真っ赤な顔をしてさっと視線を逸らす。アイリシアの瞳をまっすぐには見れない怖がりなくせに、会えばこうして話しかけてくれるので、優しい人だとは思う。
呪いなんて力はないけれど、無駄に怖がらせるのも可哀そうでいつも二言三言会話をするだけだが。
「こんにちは、隊長さま、今日もお仕事お疲れ様です。私はとても元気ですよ」
「ありがとう。そして体調がよくて何よりだ」
鼻息荒く応じる男に、アイリシアはくすりと笑う。
一度、彼の前で貧血で倒れたことがあり、それ以来彼との挨拶は体調確認が必須になっている。
「え、奥さま。彼と面識が?」
「はい。いつも王宮でお会いします」
「おい、ちょっと待て…奥さまとはどういうことだ?」
「赤銅隊隊長こそ…こちらはうちの隊長の奥さまだ」
「うちの隊長の奥さま…うちの隊長の奥さま?! 奥さま?!!」
ヘンリックスがうわごとのように何かをつぶやいているが、青銅隊の騎士二人はうんうんと大きく頷くだけだ。
「わかりますよ、なぜ彼女が隊長の奥さまなのかってことでしょう?」
「俺たちも今知ったんですよ。まさか噂の妖精さんが、隊長と…だなんてなあ。しかもこんな被り物かぶせてみんなに隠してるんだから質が悪いよ…」
しみじみと頷きあう騎士の横で、アイリシアは首をかしげる。
意外に妖精という呼称は騎士の間ではやっているらしい。見かけは屈強な男たちだが、メルヘン好きなのだろうか。
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