第8話 艶やかな恋の歌を

午前中は国王の警護を務め、昼休憩をはさんで午後は青銅近衛騎士の控室にきていた。

そこでジルクリフは自分の席につくなり、深いため息をついた。


「お疲れですかな?」


副隊長であるベンエルがためらいがちに声をかけてくる。

ベンエルは今年、35歳になる。家格は伯爵で三人の子持ちだ。

穏やかで面倒見がよい彼を慕う者は多い。

かつては青銅の隊長だった男だ。つまり、ジルクリフの前任にあたる。


近衛には国王を守る青銅、王妃を守る白銅、皇后を守る黄銅、王宮を守る赤銅がある。それぞれに隊長がいて副隊長、隊員と続く。

それぞれのイメージカラーをまとっているので、間違えることもない。仕事もそれぞれの隊に任されているので、名誉職の感も強い。

そのためか、時折派閥争いのようなことが起こる。


ベンエルはそれに疲れたと言って、三年前に隊長を譲った。そのまま引退して王都の警備兵になりたいと言われたのを無理やり引き留め副隊長の地位に就いてもらっている。

矢面にはたたなくなったが、副隊長はそれなりにツライ。上司と部下の間で板挟みになることもしばしばだ。

だが、彼はいつも周囲を気遣ってくれる。

今もジルクリフの疲労を感じて心配してくれているのだろう。


ちなみに、彼は昨日の結婚式の招待客でもある。

祝宴は親族やごく親しい者に限ったので、式のみの出席だが、妻の状況を知っていることになる。


「陛下と宰相から少し責められただけだ。ところで、何か問題があったのか?」


控室にいるはずの人間の姿が少ない。視線を向ければ、皆気まずそうな顔をしている。


「問題というか、まあ、いつもの諍いのようなものですが…」

「今度はどことだ?」

「それが、白銅隊なんです」

「白銅…?」


国王が動けば王宮担当の赤銅隊とはよくぶつかる。皇后、王妃に会いにいけばそれなりに仕事の取り合いにもなる。

だが、女性だけで構成されている白銅隊は女性らしい目線で常に控えている。男を立てるのもうまいので、上手に折り合いをつけていた。

そのため、ほとんど問題を起こしたことがない。


「何が原因だ?」

「それが―――」

「失礼いたします」


ベンエルが言い淀んでいると、控室の扉がノックされた。そのまま、一人の長身の女性が入ってくる。

白に近い金色の髪に青い瞳の女性だ。ゆるくウェーブのついた長い髪を後ろで一つに結わえている。

着ている服は白銅の平時の近衛の衣装だが、胸に隊長を示す白銅のプレートをつけている。

白銅の隊長、ミレーナ=エル=ラウンディだ。


「今、お時間よろしいですか?」

「ああ。もしかして揉め事の件だろうか。こちらは今、状況を聞いたところなんだ」

「原因をお聞きになりました?」

「いや、まだだが…」

「では、率直に申し上げさせていただきますが、貴殿はもう少し奥様を大切になされたほうがよろしいかと思われます」

「は?」


奥様?

それは、昨日花嫁として迎えた呪いの猫娘のことか?


「ええと、すまないが、私には話が見えないのだが…」


視線をベンエルに向けると彼は申し訳なさそうな顔をしている。


「揉めた原因が、隊長の奥様だったのです…」


あの猫娘、いったい何をしたんだ?!


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