真偽

「ナフトさん、さっき村の人に『英雄』って言われたときに訂正をしてほしがってましたよね………? アレってなんでです? やっぱり勇者的にはこだわりがあったりするんですか?」


 出会って一ヶ月も経っていない頃に朝日はそんなことを聞いてきた。思えば会ったときからプライバシーにズカズカと入り込んでくる距離感の図りづらいやつだった。まぁ別にこだわりや深い意味はなかったから話したのだが。


「んー………なんて言うか………英雄は人を救うために、誰かを不幸にして勇者は人を救うけど、その為に誰かを不幸にしないってのが俺の考え方なんだよ」


 まぁ、朝日みたいな桁外れの力を持つやつからしたらどうでもいいこだわりか………、と思っていた。しかしそんな独りよがりな考えは朝日の返答で盛大にぶち壊された。


「へぇー………そんな違いが…………だったら私も英雄じゃなくてちゃんと勇者を名乗れるようになりたいです」


 朝日からしたら何気ない一言だったかもしれない。だが今まで彼女のことをだと思い込んでいた俺には衝撃的な一言だった。

 そうだ、彼女は絶大な力を持つ勇者である以前にただの女の子なのだ。俺たちのような多数を救うために少数を切り捨てることを容認してきた人間じゃない。多い少ないに関わらず、誰かを傷付けたらその分悲しみ、誰かが幸せになったならその分喜べるそんな少女だった。感情がない殺戮マシーンではなく、殺すことが日常と化した逸脱者でもない。本当にたまたま、ただ唐突に強大な力を手に入れてしまっただけの無垢な少女だったのだ。


 もしかしたら、俺が一つの思いエゴイズムを抱くのは当然のことだったのかもしれない。


 ただの少女に英雄人殺しになってほしくない。彼女が桁外れの力を持っているとしても。


 だがそれは思いの外険しい道だったらしい。出会う人のほとんどが過去の俺と同じ考えをしていたのだ。ただの少女である以前に強大な力を持った勇者なんだ、と。だから今回の戦争だってあんな命令がされた。冷静に考えなくとも一国の王が、そこらの少女に大虐殺を命じるだなんておかしな話だ。俺はそれがおかしいと思った、だから本来そこにいるべき人間が前線に立った。正直、今後も朝日は勘違いされ続けることになると思うが、そこは彼女のことを正しく理解しているシェスターやウェイザー婆さんがなんとかしてくれると信じている。


 だから後悔はない。後戻り出来なくなった今でも変わらずそう思える。そしてそれはきっと幸せな事だ。


 だって――――――――



 俺みたいな英雄ヤツでも一人の女の子の普通を願えたのだから―――。

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