賢者と怒りと甘やかし

 村に入ると早速村人から歓迎され、流されるように一つのテントへ案内された。


「ナフトさん、ウェイザー婆さまはここで貴方がたが来るのを心待ちにしていました、どうぞ心ゆくまでお話していってください………うっわ見るからに嫌そうな顔しますね……ハッハーン? さてはこれが反抗期ですな?」


「違うわ、見知った連中のよそよそしい雰囲気で寒気がしてるだけだ……全く自分で気持ち悪いと思わなかったのか」


「あ、やっぱりそう思います? いやー俺達もやめた方がいいって言ったんですけどね? なんかね? ばあちゃんが――――」


 そんな感じで旧友に悪態をつきまくっているとテントの中から怒号が飛び出した。


「こらっ! ナフト! 雰囲気作って待ってるんだから早くおし!」


「はっはい! 今行きますので!!」


 そう言って隣にいる朝日にチラリと目配せをした。


『お前が先に行け』


『嫌です、ナフトさんが先に行って私のことを紹介して下さい、朝日は可愛くて優秀な子だって』


『馬鹿言ってんじゃねぇ、つーか自分で言ってて恥ずかしくねぇの?』


『ダメな子って言われるよりも何倍もマシです………あ、でも褒めすぎはナシの方向で……照れちゃうので』


『ふざけんな、自画自賛でもしてろ』


 ここまでのアイコンタクトは約一秒、面倒になったので朝日の背中を押して無理矢理テントの中に入れた。


「ちょっ! ナフトさんの卑怯者! 体格の差を利用するなんて!!」


「ふぅん………この子が例の子ねェ……?」


 テントの中で待っていたのは豪華な衣装に身を包んだ老婆だった、ここまで来てこの人が誰かなど言う必要はないだろう。声をかけられた朝日は怯え声で自己紹介を始めた。


「あっ………えっと………向日 朝日と言います………わ、訳あって勇者になりました……」


 黙りこくってじっくりと―――まるで価値を見定めるかのように観察するウェイザー。対する朝日はと言うと…………。


「………………………(涙目)」


 十秒経過、ウェイザーは全く目を逸らさない。


「………………………………(泣く寸前)」


 三十秒経過、タイミング悪くポックリ逝ったのかと思う程に全く目を逸らさない。


「……あー……ウェイザー婆さんそろそろ可哀想です」


「それもそうだねェ………それじゃ朝日ちゃんちょっとこっちにおいで?」


 怯え腰に震え足で少しずつウェイザーに近づく朝日。警戒するのは分かるが落ち着け、剣に手をかけるな。うっかりバッサリ殺っちゃったら洒落にならんから。

 一歩、二歩、そしてウェイザーの手が届く距離に入ったその瞬間。


「かぁわいいわねェー! 朝日ちゃんは!!」


「………………え?」


「………怖いだとか厳しいだとか言った手前何だか申し訳ないがウェイザー婆さんは元々そういう人だ、すまんな」


「えっでもすごく怖いって言ってたじゃないですか!?」


「そう言えって伝えられたからそのままお前に話したんだ、そうじゃないと後々俺が何されるか分かったモンじゃないからな、実際のウェイザー婆さんは見た通り子供が大好きなおばあちゃんだ、まぁ精々甘えさせてもらえ」


「私を! 売ったんですかー!?」


「失礼なことを言うやつだな………俺は子供好きの老婆の頼みを聞いただけだ」


「裏切り者ー! 悪魔ー! 無精ヒゲー!!」


 何とでも言うがいい………どうせ俺には関係の無いことなのだからな! そう思いながら俺はテントを出て、久しぶりに会った旧友たちと会話を弾ませた。

 尚、朝日が甘やかしから解放されたのは二時間と少し後のことだった……。

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