コオロギ

 憎悪ぞうお哀愁あいしゅうに満ちた声が聞こえる


「休憩中にコーヒーを飲むように、私たちにとって命をうばう行為とは日常なのだ。死が非日常的なものだと感じるのはおかしいことだと思わんかね?」


 正義に燃える声が聞こえる


「そんなことはない!日常とは自身の生存を指すのだ。死を感じてしまうのは、自身の死を予期している証拠。なんら不自然なことではない」


 興奮こうふんした声が聞こえる


「命を奪うことが日常!つまり僕たちは死を肯定こうていする略奪者りゃくだつしゃ!」


 笑い声がきこえる


「アハハ!そうだね!みんなみんな正しくて、みんなみんな間違ってるんだよ!」


 優しいこえがきこえる


「この世界のシステムは消費することで成り立っている。自分も他人も、何もかもが道具なんだよ」


 おさないこえがきこえる


『ねぇなにがいけないの?』




 わたしはいつだって正しい。だって世界がみとめてくださるのだから!


 なら何をしてもいいよね???


「だったら家を作ろう。肉でできた家を作ろう。犠牲ぎせいあい存分ぞんぶんに楽しむことができるだろう」


「肉は新鮮しんせんで多い方がいい。なら人間を使おう!」


「人間でできた家ならむたびに心地ここちよい悲鳴ひめいが聞けるだろう。ついでに家具も人間で作ろう。たくさんのうででできたまくらなんて夢があるじゃないか」


「床もかべ天井てんじょうも家具も、何もかもが人間!あぁなんて素晴らしいアイデアだ!」


「肉が腐っていく光景を観察するのも味わい深いものだろう。心躍こころおどるなぁ……」


『あははははははははははははははははははははははははははははははははは』


 わたしのこえがきこえる


 たくさんのわたしのこえが


 

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