11.白亜
地上に出てから確認してみると、かなりの数の着信と、メールと、メッセージが入っていた。一応前二つに関しては、登録したもの以外は一切受け付けないような設定にしていたはずなのだが、待ち受けの画面が画面だ。恐らく寝ている間にでもこっそりと設定を弄ったのだろう。つくづくロックをかけておくべきだったと悔いる。
それはさておいて、先ほどからずっと小原とコンタクトを取ろうとしていた
今すぐ学校の前に来てほしい。昨日の続きをしたい。
この島で「学校」とくればすなわち「県立桜生島高校(とその他諸々)」のことだろうし、昨日の続きと言うのはつまり島内の案内ということだ。昨日執見は小原に対して、八割がたは回れたけど、一部見せられていないところがあるから後日紹介したいといったことを言っていた。恐らくはそれだ。そしてそれはほぼ間違いなく紅葉の言っていた
「……行くか」
ここから学校まではそこそこ距離がある。自転車を使っていこう。その方がぐっと楽なはずだ。幸い、
◇
「遅いよ!」
学校に着き、最初の第一声がこれだった。ちなみに小原はここまで寄り道のようなことは一切……いや、途中駄菓子屋で飲み物とか買ったな。
小原はそんな事実を隠した上で、
「遅いって言われてもな。これでも直で来たんだぞ?」
「ホントに?だって風介、
駄菓子屋でおばちゃんの世間話に付き合っていたことは伏せたまま、
「ホントだって。ほら、俺来たばっかだからさ。ここ。道確認しながらだし。時間だってかかるよ」
「むー……」
まだ納得しきっていない執見の横から、
「さくらちゃん……無理もないよ。昨日来たばっかりなんだから」
こうやってさくらと並んで立っていると、改めてその肌の白さを実感する。おおよそ日の光など浴びていないのではないかという白さをもつその肌と、細見で、綺麗というよりは華奢すぎて栄養不足を心配してしまいそうになるほどの体躯、更にはそんな心配をある意味で吹き飛ばしてくれるスタイルの良さが特徴的だ。こうやって並ぶとより一層、
「じー……」
明らかに疑り深い目で眺められた。
小原はその訴えから逃れるように、
「えっと……白亜さん、で良いんだよね」
白亜は「はい」と言って頷き、
「白亜……と、呼んでください」
「白亜……さん」
「白亜……と、呼んでください」
「白亜」
「はい」
にっこり笑顔。
なんなんだろう。この島の女性はみんなして「名前で呼んでもらえないと死んでしまう病」でも罹患しているのだろうか。
「さっき、さ。紅葉姉さんに聞いたんだけど、神社のことに詳しいんだっけ?」
白亜は軽く首を横に振り、
「そんな……詳しい、だなんてことはありません。ただ、興味の赴くままに……調べて居たら、気が付いたら話が大きくなっていただけで……」
執見が自分のことのように、
「白亜はね、凄いんだよ。蛭子神社とかの研究でケンミンエイヨショーっての貰ったんだから」
「え、マジで?」
白亜は消え入りそうな声で、
「は、はい。一応……」
「はぁ~……」
言葉が出なかった。
執見の認識が曖昧な可能性はあるが、本人が大きく否定しないところを見ると、恐らくはそれらしき賞を貰ったのは間違いないのではないだろうか。
白亜は続ける。
「元々は……小学校の自由研究で、蛭子神社のことを調べていたんです……だけど、そこから派生していって、島の歴史とか、そういうものに行き当たって、気が付いたら広範囲に及んでいて……それが、たまたま歴史研究家の人の目に止まって、その人の研究と合わせて言ったら色々な事実が見えてきて……それが注目……されたみたいです」
執見が、
「ホントはね、大雑把なことだったら私でも解説は出来るの。だけど、こうやって凄く詳しい人がいるわけだから、やっぱりその人の話を聞いた方が良いかなって思って、お願いしたって訳」
「いや、まあ、それはそうだろうけど、白亜はいいの?俺に付き合わせちゃって」
「大丈夫です」
即答だった。白亜は自らの反応に驚くように口に手を当てたのち、小さな声で、
「……案内、させてください」
そう付け加える。その目に偽りはない、と思う。
「それならえっと、よろしく?」
手を差し出す。白亜はそれを観察するように眺めていたが、やがてそっと手を出し、
「よろしく……お願いします」
力は弱弱しく、けれどしっかりと握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。