25 せっかくイベントが発生したのに先生の個性が強すぎる。【蓮SIDE】


 ついにきた。きてしまった。この日が。

 兄妹会議からほぼ一か月後である今日の午後、あの薬草学と対魔魔法学の合同試験があると発表された。

 二つの授業を選択した生徒は本日十四時にフックの森に集合。……と、いうわけで。

 俺はレックスと移動式魔法陣に乗ってフックの森に来たのである──!!


「レックス様だ! レックス様がいらっしゃったぞ!」


 どこぞのアホがそんな事を口走る。それによって皆が俺とレックスに注目した。

 あーやべ。男女問わず貴族達が一斉にこっちに来るぞ。

 俺は風の精にお願いして、辺りに突風を吹かせてもらう。


「うわ、なんだこの風は──!!」

「──レックス様は只今試験に備えて集中しておられます! どうかその集中を欠くような行為はおやめください!!」

「なっ!」


 レックスは貴族に囲まれることを嫌う。それを配慮して俺はこうして人払いをするようになった。

 もう二ヶ月はこの俺様王子と一緒なのだから俺も「レックスの犬」として成長したわけだ。……まぁ、それが喜ばしいことだというと、そうでもないのだが。

 貴族達が俺を睨み、「下民のくせに」「調子にのりやがって」なんとかほざいている。こういう輩には聞こえないフリが有効だ。


「……すまないな、レン。悪意ある視線にお前を晒してしまうことになった」

「! いえ。今更ですし、もう慣れましたよ。それに……」


 もしこの試験でレックスと桜がペアになったらレックスは桜と結ばれる可能性だって出てくるんだ。桜を幸せにしてくれるかもしれない男を助けるなんて当たり前だしな。それに俺自身、この二ヶ月レックスと一緒にいてこいつの助けになりたい気持ちが強くなっていった。こいつみたいな努力家、応援したくなるってもんだ。


「……それに、なんだ?」

「いえ、レックス様の力になれるならそれだけで俺は嬉しいって話ですよ」

「──っ!!」


 するとその瞬間、レックスが胸を抑えよろける。俺は慌ててそんなレックスを支えた。

 

「れ、レックス様!? 急にどうしたんですか!?」

「っ、き、気にするな。胸が急にきゅーんって鳴っただけだ」

「きゅーん!? それって普通じゃないですよね!? 心臓病か何かですか!?」

「な、何を言う。王族は皆こうだぞ」


 マジで!?!? 王族って皆胸がきゅーんって鳴くの!? どういう身体の仕組みなんだよ!?

 俺は王族の意外な生態を知って素直に驚く。そんな俺達をヘクトルがやれやれと呆れて見ていた。


 そういえば最近レックスは俺の顔を見るなりすぐに目を逸らしたり、犬ではなくちゃんと「レン」と呼んでくれたり、俺が食事をしていると自分の食事の手を止めてじっと見てきたり、ちょっと様子がおかしいような気がする。胸を抑えるのもその症状の一つだ。まぁ、その度に「なんでもない」と言ってくるので何でもないらしいが。しかし流石に「床で寝るのは辛いだろうから余のベッドで寝ることを許すぞ」って真っ赤な顔で言われた時は丁重にお断りした。レックス様は俺を憐れんで恥ずかしいながらもそう言ってくれたんだろうが、俺は野郎と一緒に寝る趣味はない。


 ──そうこうしていると、桜もデュナミスと共に魔法陣から現れた。俺と桜は視線を合わせ、アイコンタクトをとる。……そうだ、今日は俺達にとって重要な日。今日の試験で桜がレックスと、俺がリリスたんとペアになれさえすれば、少しは俺達に希望があるのだから!

 チラリと当のリリスを見れば、少しだけやつれているような気がした。レックス同様、様子がおかしい? 大丈夫なのだろうか……。

 しかし俺がリリスを心配する間もなく、薬草学の先生の声が響く。


「はーい、皆さん! 今日は対魔魔法学と薬草学の合同試験の日です! しっかり準備してきましたか~? うふふ」


 台詞からしておっとり系大人のお姉さん風だが、この声の主は俺の男子寮の部屋番号を教えてくれたあのゴリラ先生である。本名はスルーマ先生。その筋肉質な身体はいかにもキメラとかムーンベアとか素手で相手にしてそうな様相だが、彼の腕は薬草に水をあげるためだけのものであるらしい。

 それに対してそのスルーマ先生の隣にいる対魔魔法学担当の教師──ガーネット先生は薔薇をイメージするような髪色の美女だ。しかし常に鞭を持っており、非常に恐ろしい。しかし一部の男子生徒には非常に人気のある先生だ。


「貴様らぁ! 今日の試験は一学期の成績にも大きく関わってくるものだ! 生半可な気持ちで受けると死が待っていると思え!」


 バシバシと鞭を地面に打ち付けるガーネット先生に俺は唾を飲み込んだ。たまたま傍にいたモーブがそんな先生に息を荒げて「いい……」と呟いているのは見なかったことにする。

 

「じゃあ、今から私が今日の試験のペアを発表するわね! 皆よく聞いておきなさい~!」

「スルーマ先生に名前を呼ばれたものは大きな声で返事をすること! いいな貴様らぁ!」


 見た目と台詞があってない。並べるな危険のカテゴリーだよこの先生二人。

 そうすると、スルーマ先生が徐々にペアになった生徒達の名前を読み上げていく。

 俺の心臓は呼ばれる度にビビり、暴れた。


 頼む! 桜はレックスと、俺はリリスとペアであってくれ──!!




 そして──。




***


レビューの仕組みはよく分からないのですが、お星さまを5つも投げてもらったおかげで先ほど「注目作品?」の欄にこの作品が載っていたのを確認しました。

あそこまで見えやすい位置に載せてもらえるなんて感無量です。

レビューをくれた方、本当にありがとうございました。もらったお星さまは大切にします! 更新の活力になりました。

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