花火と真実

夕方六時の空は雲ひとつなく真っ赤に染まっていて私は花火がしっかりと見える事を確信して安堵した。

私たち四人は大阪駅へ向けて昼の時より三倍くらい増えた通りを歩く。

「やっぱり人多いなー、流石大都会って感じ。」

「ねー、場所あるかなー。」

「ふっふっふっ、心配ご無用!何故なら穴場スポットを従兄弟から教えてもらったから!」

「うおーっ!流石灯!めちゃくちゃ有能じゃねぇか!」

「褒めるなら私じゃなくて従兄弟にね!あっ!ここ右だね。」

昼と同じ、灯の先導で大阪駅構内を歩く。

エレベーターを降りた先の十三階は料理店ばかりでとても花火を見れそうにはない。

だけど灯は迷いなく歩いて、やがて数ある料理店の内の一つ、イタリア料理店の前で止まった。

「ここー?こんなとこで花火なんかみれんのかよ。」

「まぁ着いてきなって、あ、予約してた島崎です。」

そうやって案内された先はテラス席だった。

私たち以外の席はもう既に埋まっていてみんな揃って外に見える大きな川の方を見ていた。

「ね?よく見えるでしょ?という訳で晩御飯は花火を眺めながらのピザです!」

「おおー!和洋折衷!」

「うーん、ちょっと違うかなー?ま、とりあえず頼もっ!」

店員さんに注文した後すぐにパンっ!と大きな音が鳴り響いた。

「あれ?もう時間か?確か七時からだったよな。」

航大がそう言った。確かに予定では七時だ。だけど今は六時半、まだ予定には三十分ある。

「あー、これはね、交通規制が始まりますよー、っていう合図だね。」

「へー、まじで灯なんでも知ってるな。」

「まぁねー、て言ってもこれも従兄弟からの受け売りだけどね。」

楽しみだねーとそんな会話をしてる内にピザも席に届いてそのピザを頬張りながら私たちは花火が上がるのを心待ちにしていた。


やがてヒュルルルルルーという音が響き空に白線がゆらゆらと引かれた。

その白線はある程度の高さまで行くと見えなくなったかと思うとバンッ!という音ともにそれは大きな花火に姿を変えた。

「わー!みんな始まったよ!綺麗!」

私たちはご飯を食べていた手を止めて一斉に川の方を見上げた。その時丁度二発目が破裂し赤や黄色の大きな花が黒い空に咲いていた。

それからも花火は留まることなくバンバンと打ち上がり、辺りは煙の匂いで充満した。

大小様々、色も異なるいくつもの花火が空に打ち上がるのは圧巻の光景でしばらく心を奪われていた。

しばらく花火を眺めていたけれど次の花火が上がる一瞬の間にふと航大の方に目を向けると彼は何故か泣いていた。そして、私は何故かその光景から目を離せずにいた。

ヒュルルルルルーともう何発目かも数える事が出来なくなった花火が上がる。その光に照らされた彼の顔はまるで誰か仲のいい友人と別れた時のようなそんな悲しい顔をしていた。

その時、じっとみていた私に気づいたのか顔をこちらに向けてきた。何だか気まずいのですぐに空に目を移した。


クライマックスになるに連れて花火の数も大きさも段々と大きくなっていく。

最後に一つ、今までの中で1番大きな花火が上がって花火大会は幕を閉じた。

私たちは食べかけていたピザを食べて、口々に感想を言い合った。けれど全員上手く言葉にならず笑いあった。とても楽しい夢のような時間。ずっと続いてくれればいい。そう思った。


しかしそんな事叶うはずもなくピザを食べ終わった後はすぐにそのビルを降りてホテルへと足を進めた。

「いやーでもほんとに凄かったねー、生きてる内に見れて良かったよー!」

「ほんとにな、終わったあと皆語彙力無かったし。」

前を灯と克海の二人が歩いて、私と航大も二人並んで歩いている。

多分二人とも考えてくれたんだろう。だから今しかチャンスがないと思った。

「ほんとに綺麗だったね。ねぇ、航大。」

でも彼はずっと下を向いたまま歩いている。

流石に様子がおかしい。

「どうしたの航大?大丈夫?」

私が聞くとしばらく黙っていたが彼は口を開き、

「…あのさ、俺、お前らに言わなきゃいけない事があるんだ。」

前の二人にも聞こえる声量でそう言った。

「どうしたのー?」

灯が振り返って近寄ってきた。

「ほんとに今まで内緒にしてて申し訳ないんだけどさ…俺、夏休み終わったらこっちに住むことになるんだ。」

何を言ってるのか全く理解出来なかった。けれど彼は弱々しい口調で続ける。

「出稼ぎ…って言ったらいいのかな…?ほら、俺の家って貧乏だろ?今まではお父さんの保険金で何とかしてたんだけどさ、最近それも尽きてきてさ、生活だけなら何とかなるんだけど学費がほんとにどうしようもなくてさ…俺が大学に行けない分には全く構わないんだけど、このままじゃ妹の学費も難しいらしくて…だから、九月からはこっちにいる親戚の元で働く事になったからさ…多分、お前らとはしばらく会えない…」

突然のカミングアウトに頭の中が真っ白になっていくのがわかった。

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