決意を固めて

大阪に上陸してから二十分、私たちは今夜泊まるホテルに到着した。

部屋は二部屋とってもちろん男女別々だ。いくら幼馴染とはいえそこの線引きはちゃんとしなければ。

しかし部屋が離れているのも何かと不便なので並んで二部屋、灯が予約してくれた。

部屋は六階、周りがビルだらけだから夜景とか見れないかもねと新幹線の中で話していたけどそんなことも無く窓から見える視界は良好だった。

「よし、じゃあ男子達を呼びに行くかー!」

キャリーケースを部屋の隅に置いて灯は私を置いて先に出ていった。

私も急いで部屋の鍵持って外に出た。

「二人ともー、行くよー!」

灯は隣の扉をそう言ってノックしている。

私がドアに鍵をかけた時に二人ともちょうど出てきた。


「よし、じゃあまずはお昼ご飯を食べに行くぞー!おー!」


灯の先導で私たちは大阪の街並みを歩く。

すっごく大きなモニターに高くそびえる塔のようなビル。どれも初めて見るものばかりでそれらの持つ明るさに圧倒された。


色んな所に地下鉄の入口があってそのうちの一つに入っていった。

私には何が違うのか全くわかんないけど灯が入る前に確認していたので何か違いがあるんだろう。


「灯もしかして何回か大阪来た事ある?」

「実はねー、従兄弟が大阪にいてねー。遊びに連れて行ってもらうときに色々と教えてもらうんだ。」

あまりにも迷いなく進むもんだから尋ねてみたところ彼女はそう答えた。

「私たちが大阪に行く事を言ったらねー、美味しいお店とかたくさん教えてくれてね、裏では結構助けて貰ってたんだー。」

彼女はくるっと振り返って、

「だから、今回の旅行。行き先には全て保証が付いてるから絶対に損しないよ!」

おおー、と声が上がる。

「と、いうわけでこちらが一軒目のお好み焼き屋さん[しらかし]でーす!」

見上げると看板が目に移った。いつの間にか着いていたらしい。

早速中に入ると繁盛していてカウンター席はもう埋まっていた。

「では奥のテーブル席にお座りください!」

店員さんに案内され席に着いた。

早速克海がメニューを開いた。

「へぇー、お好み焼きだけじゃなくてもんじゃ焼きもやってんだ。」

「そうみたいだねー、そっちも美味しいらしいんだけどやっぱりお好み焼きだよねー。」

始めから私たちの目的はお好み焼きただ一つだった。だから注文もすぐに決まった。


「こちら豚玉となっております。取り皿こちらに置いておきますので分けてお召し上がりください。」

店員さんがお好み焼きの乗った皿を一枚、テーブルの真ん中に置いた。まだ一軒目なので相談して一枚、1番人気のものを頼んだ。

「それじゃ、分けるねー。」

ヘラを持った灯がお好み焼きを四等分にしてくれたので自分の取り皿に分けて口に運んだ。やっぱり想像通り美味しく、次々と箸が進んだ。

「はぁー、ごちそうさまでした。もう俺これだけで満足だわ。」

「克海早すぎだろ…」

「へへっ、まずは一勝だな。」

「次は負けねぇからな!」


美味しい物はやっぱりすぐに食べ終わるもので一時間もせずに予定していたお店を全部回りきってしまった。ちなみに男子二人の対決は2-1で克海が勝った。今はとりあえずホテルに戻ろうと地下鉄に揺られている最中だ。

車内には浴衣姿の女性がちらほら見えた。

「やっぱり浴衣の人多いねー。」

「だねー、さすが大阪最大級の花火大会って感じ。」

浴衣姿の人々は地上に上がるとさらに増えた。中にはカップルで浴衣を着て並んで歩いている人もいて少し羨ましく思った。


部屋に戻るとやっぱり疲れていたのか灯はすぐにベッドに倒れ込んだ。

私はベッドに腰掛けて外を眺めていた。

「ねぇ海結?」

「何?」

「今日ほんとに航大に告るんだよね?」

「…うん」

「そっか。」

その後しばらくの間沈黙が続いた。

口を開いたのは灯で

「あのさ、一つだけ聞きたいんだけど海結無理とかしてないよね?」

「…どういう事?」

「なんかさ、三人で作戦会議した時あったじゃん。あの時海結が航大の事好きって言ってくれた時にさ、なんか私と克海で勝手にはやし立てちゃってさ、あの後考えてみたらもしかしたら海結は別に航大に告りたいとは思ってなかったんじゃないかなって、無理やり言わせてないかなってずっと気になってた。」

「ううん、全然そんな事ないよ。」

「ほんと?」

「私が灯に嘘つくわけないじゃん、私だって高校生だし、彼氏くらい欲しいよ。それに航大は…」

「航大は?」

「航大は私に色んなものを教えてくれた。好きな人から貰うプレゼントの嬉しさとか、夕暮れの海が綺麗なこととか、聞いてよ、私名前に海って入るのについこの間まで別に海好きじゃ無かったんだよ。むしろ嫌いだったし。」

すぅっと息を吸う。

「航大は私の世界を色付けてくれた。だから私の初恋は彼で良いの。というか彼じゃないとダメな気がするの。」

そこまで言うと何だか恥ずかしくなってきて私は枕に顔を埋めた。

「そっか。ごめんね、変な事聞いて。頑張ってね海結、私、すっごく応援してるから!」

午後三時、花火大会は後三時間後だ。

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