出発の朝

八月八日、大阪出発の日。私は昨夜服などを詰め込んだキャリーケースを引いて朝の七時から家を出た。もちろん耳には例のイヤリングをして。

待ち合わせ場所はいつものバス停だ。

海岸線はいつにも増して美しくて私は更にテンションが上がった。

キャリーケースを引いて十五分。バス停にはいつも通り灯がいた。

「海結ー!おはよう!」

「灯!おはよう!」

灯は私の耳にすぐに気づき、

「あれ?海結、そんなイヤリング持ってたっけ?めちゃくちゃ可愛いじゃん!」

「貰い物でね〜使う機会もあんまりないし折角ならと思ってさ。」

「へ〜センス良いねそれ送ってくれた人。さては航大か?」

「えっ!?なんでわかったの!?」

「昔っからセンスはいいからね〜あいつは。それにしてもいつの間に…」

「色々あってね…」

そんな話をしていると見覚えのある二人組が灯の方からやって来た。

「うぃーす!おはよーございまーす!」

「おはよう!後はバスを待つだけだねー。」

灯と克海のハイテンションコンビは朝からとっても元気だ。

「克海、朝からあんな感じでさ、着いてくだけでもう大変だわ。」

それを聞いてふっと笑って私は

「克海、楽しみな事が出るタイプだもんね。」

「そーそー、小学校の遠足の時とか…」

彼がそこで突然言葉を区切ったので

「どうしたの?」と聞くと、

「イヤリング付けて来たんだ。」

うんと私が頷くと

「やっぱ似合ってるよなー我ながらセンス良いわ。」

「それ自分で言う?」

「まぁな、そういや妹喜んでくれてさ、海結にありがとうって伝言頼まれてたんだよ。」

「えっ、選んだの航大じゃん。私なんもしてないよ。」

「んな事ねぇよ。場所とか教えてくれたじゃん。」

「じゃあ、どういたしましてって今度伝えといてね。」

「分かった。」

そんな話で盛り上がってるうちにバスはやって来た。

これから私たちは駅までバスで言った後に新幹線に乗り、大阪まで向かう。着くのはお昼すぎの予定だ。


「いやー分かってたことだけどさすがに横並びじゃ無理だよな〜どうする?」

キャリーケースやボストンバッグを抱えて高校生四人が横並びに座るのは誰がどう見ても不可能だった。それもそうだ。だって観光バスでもない普通の市営バスなのだから。

立ったままが一番危ないのでとりあえず私たちは一人二席使って各々座った。

「今日の夜には向こうで花火見てんだろ?やべぇめっちゃ楽しみになってきた!」

克海はほんとに小学生みたいにはしゃぐ。

「ほんとだよ〜しかし唯一空いてた八日が大阪で一番の花火大会って奇跡だよね。」

今回の旅行の立案者がそう言う。

「それな!それよりもありがとな灯、何から何までやってくれて。」

航大もとっても楽しそうだ。

「いえいえー、私こういうの好きだし、それに言い出しっぺは私じゃなくて海結だし。」

「え、私なんもしてないよ、というか言い出しっぺなのに全部灯に任せっきりでほんとにごめんね。」

「全然いいよー、あ、そろそろ降りるから準備しなきゃ!」

来た時より少しは人の増えたバスを下車して歩いて駅まで向かった。

もう朝の八時という事もありスーツ姿の大人達が行き交っている。

「みんなもう朝ごはん買った?私まだだから買いたいんだけどいい?」

赤信号を待っている時に灯がそう言った。

「私もまだだから行きたい、確かそこにコンビニあったよね?」

「あ、俺もまだだから買うわ。」

「俺も買うー!」


そうして私たち高校生四人組はコンビニに入った。スマホの時計は八時半を示していた。新幹線の時間は九時、まだまだ余裕はある。

私はパパッと鮭と塩にぎりとお茶を買ってコンビニを出た。

私の次に出てきたのは克海で早速ここで買ったであろう菓子パンを頬張って私に話しかけてきた。

「海結さ、まじで今日いくの?」

多分航大の事だろう。私は何も言わずうなづいた。

「そっか、やっとお前ら二人がくっつくんだもんなーなんかこっちまでドキドキしてきたわ。」

「まだ決まった訳じゃ…」

「大丈夫だって、お前らはどっからどー見てもいずれくっつきますよオーラ出てたし、それに何よりも恋愛マスターの俺が付いてるからな!」

「でも克海彼女いた事ないじゃん。」

「……それは言うなよ。」

克海がシュンとしてるのを見て笑いが込み上げてきて止めることが出来なかった。

「そんなに笑うことはねーだろ!俺だって一生懸命色々と頑張ってんだからさ!」

ごめんごめんと言って笑いを何とか抑えた。

少し沈黙が続いた後に克海が

「まー何だ、その、頑張れよ。めちゃくちゃ応援してるからさ。」

ありがと、と言って私は買ったお茶の蓋を開けた。

「二人とも何の話してたのー?楽しそーに。」

「海結めっちゃ笑ってたじゃん、何だったの?」

あとの二人が同時にコンビニから出てきてそう言った。

「何でもないよ、それよりも早く行かなきゃバスの時みたいにバタバタしちゃうかもだから行こ?」

私はスっと立ち上がって三人を先導するように歩き出した。

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