誕生日にはプレゼントを
航大が言うにはもう少しで妹の誕生日だからプレゼントを買いに行こうと思っていたらしい。けれども何を買えば良いのか迷っていてどうしようかという時に丁度私が来たらしい。
「だからさ、まじで助かった!ありがと!」
爽やかな笑顔で彼は言った。
まさかこんな事があるとは、災い転じて福となすとはこの事だ。暇だからと散歩に出た一時間前の私に感謝しかない。
「ところでさ、何をプレゼントする予定だったの?」
「んー、今のところはイヤリングかなーって思ってるんだけど、海結なんか他に良い案あるー?」
うーんと私は唸ってしまった。
私は一人っ子で兄弟から何かを貰った、とかいう経験が無い。だから、
「妹ちゃんが何欲しいかとかわかんないけど、航大から貰ったんなら何でも嬉しいと思うよ。航大センス良いし。」
こんな当たり障りの無いようなことしか言えなかった。けれども航大のセンスが良いのは本当だ。
去年、航大から誕生日プレゼントを貰った事があった。私の誕生日は十一月にあるのだけれど、これから寒くなるからと言って手袋をくれた。
色はベージュで何にでも合わせやすく、とっても使いやすかったのを覚えている。
「そっか、じゃあイヤリングか。それとさ、イヤリング買うとして良いとこどこか無い?」
良いとこ…と言われてもピンと来ない。
ピアスだとかイヤリングに興味が無いわけじゃない。けれど、付ける機会が無さすぎて買う気が失せてしまうのだ。
それでも一回灯と一緒に行ったところが駅の周りにあった気がする。
「前に灯と行ったとこが駅の方にあってそこなら場所分かるけどそこでもいいかな?」
「全然良い!ありがと、まじで助かるわ!」
「良かった。じゃあ駅までだね。」
駅はいつも登校する時に降りるバス停よりもう少し奥にある。
けれどそんなもの誤差でバスはすぐに駅に着いた。
「ここをこっちに行って、ここかな。」
駅から少し歩いてはずれた場所にある小さなアクセサリー店。入るといらっしゃいませーとレジの方から声が聞こえた。
「こんなとこ入るの初めてだからなんか緊張するなー。」
航大が笑いながら言う。
「どんな感じのやつにするとかきめてあるの?」
「うーん、どんな感じって言われると困るけど、あいつ青色好きだから青色の感じのやつにしよっかなーくらいにしか考えてなかったけどまさか青色だけでこんなにあるとは…」
目の前には航大が求めている青いイヤリングが二十個くらいコルクボードに並んで掛けられていた。
私たちが二人並んで悩んでるのを見かねてか店員さんが声をかけてくれた。
「こちらのなんかどうでしょう?」
店員さんはコルクボードから一つ、青い雫のような形の物をとってみせた。
「ほら思った通り、彼女さんにとってもお似合いですよ。」
私は照れた事を隠したくて下を向いた。
「あ、あの…私たち別に…」
「じゃあ、これと、これでお会計お願いします。」
私が否定しようとした時航大がそう言って遮った。
「こ、航大?妹の誕生日プレゼントだけだよね?」
私は困惑して震えた声で航大に問いかけた。
「いや、なんかわざわざ声掛けてくれたのに訂正するの申し訳なくってさ、それに今日一日付き合ってくれた海結にもなんかお礼したいなーて思って。」
「あ、ありがとう。」
私の頭はもう既にキャパオーバーで何も考えることが出来なくなっていた。けれど、ただひたすらに嬉しかった。
ずっと大切にしていよう。そう思った。
「海結これ付けてみてよ。」
アクセサリー店から出た時私にイヤリングを渡して彼はそう言った。
袋から出すと日差しを照り返した青い装飾が一層輝いて見える。
「ほんとに貰っても良いの…?そんなに安く無いよねこれ…?」
「全然良いよ、今日だけじゃなくて日頃から海結にはお世話になってるし、それに似合ってると思うしさ。」
そう言ってくれたから私はイヤリングを不慣れな手つきで耳に付けた。
「やっぱり似合うなー!良かったー、もし似合わなかったらって思うと怖かったんだよなー。」
「ほんと…?」
「ほんとほんと、海結昔から青いイメージあったからこれも似合うと思ったんだよな。」
「ありがとう、大切にするね。」
「うん、この後さどっか行くとことかない?無いならスタバでなんか飲んだりしたいんだけど良い?」
私が黙って頷くと彼は歩き始めた。
私は黙ってその後ろについていく。
自分は夢でも見てるんじゃないか。彼の後ろ姿を見て何度もそう考えた。
好きな人と二人で町に出てお買い物して帰りにスタバを飲む。今まで小説とかでしか知らなかった世界の中に自分がいる事がおかしくってクスッと笑うと、
「なんか面白いものでもあった?」
彼が振り向いてそう言うから笑いながら私は
「ううん、何でもない。」
そう言って彼の横を並んで歩いた。
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