8月の眩しさ
海沿いのバス停
一週間はすぐに過ぎ去り、今はもう夏休み三日目、八月三日だ。
私の高校は昔からの伝統だとか言って八月いっぱいが夏休みとされている。それが他校と比べて長かろうが短かろうが私には関係ない。
やる事がない事が最大の特徴と言っても差し支えない地元。私はクーラーの効いた自室で読書と宿題を交互にするという生活を送っていた。
他の三人はみんな何かやる事があって忙しい。
灯は毎日のようにバイトに行っている。休みの日だってあるだろうけど疲れてるだろうから遊びに誘うのは気が引けた。
克海もバイトでは無いものの毎日部活だと夏休み前に言っていた。なんでも最後の夏だからできるだけ部活に集中したいとの事だった。
航大もバイトが…と思った所で思い出した。(そういや航大バイト辞めたんだったっけ…)
けれど、航大を誘って二人でどこかに行けるような勇気は残念ながら持ち合わせていない。
(でも私も結構成長したよね…)
つい一か月前くらいまでは話すことすらままならなかったのに今じゃ二人並んで帰宅したり…とにかく急成長したなと自分を褒める。
しかし、自分を褒めても暇なのは依然として変わることは無い。
昼ごはんのそうめんを食べ終わって、何だか動くのが億劫になってきた頃。読書じゃ私の心を埋めるには刺激が足りず、暇だと。はっきりそう感じた。
その時、手元にあった携帯が震えた。
見ると、灯から通知が一件、大阪に行く日にちと泊まる場所が決まった旨のラインがグループに来ていた。
この間それぞれの夏休みの予定を送ったばかりなのに、流石灯、仕事が早い。
慣れた手つきでパパっとラインを開くと画像が何枚かと灯からのメッセージが添えられていた。
(日にちとホテルこんな感じでいい?なんか問題あったら早めに言ってねー。)
画像を開いてサッと横にスクロールしていく。
(ホテルも雰囲気良さげで、値段も手の届く範囲って…こんなとこ灯どうやって見つけたの…?)
こんな事を思うくらいにはホテルは良いとこで問題は無かった。はっきり言うと問題なのは日にちの方だった。
別に私が何か予定があったとかそういう訳じゃない。というかもしそうなら今頃暇してないだろう。
じゃあ何が問題なのかと言うと早すぎるのだ。今日から五日後。八日に行く予定と確かに送られてきた画像に書いてある。
いや、確かに夏休みは毎回一瞬で終わる。けれど、いくらなんでも早すぎる。
とりあえず見たからには何かしら返事を返さなきゃ。
(私は全然大丈夫だけど、日にち早すぎない?)
すぐに既読が付いてラインもすぐに帰ってきた。私はグループに送ったはずなのに何故か個チャの方で。
(だってさ、早くしないと灯いちゃつけないでしょ?それにさ、割とみんなの予定見るとこの二日で行かなきゃ他に無いんだよねー。)
こいつめ…これを言う為にわざわざ個チャで…
けれど、八日しか予定が合わないならそれは仕方ない。あやかるか。
(そーなんだ、じゃあ仕方ないね。あと配慮して頂いてありがとうございました笑)
灯からは猫が親指をあげたスタンプ来て、そこで会話は終わった。私はベッドに寝転がって呆然と天井を見上げた。
(今年の夏休みは楽しくなりそうだな。)
去年は克海の家の庭で四人で集まって花火をした。家がお金持ちだから庭も広く、それに芝じゃなくて砂利だから克海家の庭は絶好の花火スポットなのだ。
けれど今年は去年とは何もかもが違う、大阪、何なら宿泊までする。
(ちゃんと好きって言えるかな…)
初めての恋。迷って、戸惑って、色々と苦労しながらもやっとここまでやってきた。
今までの過程が正解か不正解かすらも分からない。けれど、実って、成功して欲しい。ただ思うことはそれだけだった。
そのうちこんな事を考えてるのがどこか恥ずかしくなってきて枕に顔を埋めた。
(散歩でもしよう…)
そう思ってクローゼットから白のワンピースを取り出し、サッと着替えて外に出た。
外は思った通り暑く、家から水でも持ってくれば良かったなと少し後悔した。
とりあえず海にでも見に行こう。そう思い立っていつも歩いてる道を歩き始めた。
案外毎日のように歩いてた道にも新しい発見は多く、小さな花や、前まではなってなかった実が木になっていたり色んな発見があった。
そんなこんなでいつものバス停まで来た時、とても驚いた。横にあるベンチに航大が座っていたのだ。
私はじっと固まって、見つめていた。
航大はすぐにこちらに気づいて、
「あっ!海結、丁度良いところに!今時間ある?」
断る理由も無いので頷くと、彼はどこか安堵した表情で
「良かった!まじで困ってたんだよな〜」
そう言って事の顛末を話し始めた。
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