海岸通り
家に帰ってから母に夏休み泊まりで大阪に行くかもしれないと伝えたらその四人ならと母は了承してくれた。
とりあえず三人に伝えよう、そう思って夜、ベッドの上でグループにラインし、一息ついて、今日した話を思い返した。
(泊まりかぁ…楽しみだなぁ)
今まで四人で遊ぶ事はたくさんあったけれど泊まりとなると初めての事でとても楽しみだった。
(ちゃんと好きって伝えれるかな…)
まだいつ行くかすらも決まってない。それでも私は変に緊張していた。
(とりあえず今日はもう寝よう…考えても多分どうしようも無いし。)
あくびを一つしてベッドに潜って目を閉じて私はすぐに眠りについた。
翌朝、バスの中は大阪旅行の話で持ち切りだった。今日はちゃんと航大もいた。
「とりあえずおいしいたこ焼き屋さんは行くでしょー、後通天閣で食べ歩きとかもしたいよねー。」
「食べ物ばっかじゃねーか!道頓堀行こうぜ!グリコの看板見にさー。あれと同じポーズの写真とりたいんだよ!」
主に盛り上がってるのは灯と克海の二人で私たちを挟んであれやこれやと言っている。
「航大は行きたいとこないの?」
灯がそう聞くと航大は
「んー俺は花火見れたらそれで十分だよ。」
笑ってそう言った。私はその笑顔に少し見とれていた。こういう所に惹かれたのかなって気づいた。
「そっか、そっか、じゃあ海結は?」
「私?私も花火だけで十分かな。」
航大が居るならどこでだって良いと思っていた。
「じゃあ私と克海で行く場所決めていい?」
灯は目を輝かせながら聞いてきた。
「うん、いいよー。」
「俺も全然良いよ。」
私と航大が二人とも快諾したら灯は上機嫌で
「だってさ克海!後で行きたい場所とかラインするね!」
克海も
「よっしゃ!じゃあ灯よろしくな!」
と言ってとてもテンションが上がっていた。
やがて学校に着いて、私と航大は二人と別れた。二人とも別校舎だからだ。
「あのさ、海結。」
航大が話しかけてきた。
今までこんなこと無かったから動揺しながら
「何?どうかした?」
航大は少し目を逸らして、
「花火行こって言ったのさ、海結だよな?二人誘ってくれてありがとな。まさか泊まりになるとは思わなかったけど。」
照れ笑いを浮かべて彼が言う。
とても嬉しかった。そりゃ、人に感謝されているから嬉しいのは当たり前だけど、航大だから一層嬉しかった。
私が嬉しいのはダダ漏れだったようで教室に入ると穂花が
「あれー?今日は珍しく彼と一緒に入ってきて、あー!それにその表情、これは何かあったんだなー?」
今まで航大の前だったから耐えていた分の感情が溢れてえへへと笑って
「そうなんだよ、夏休みにね、泊まりで大阪行く事になったんだよ〜!」
「えっ!?つい最近まで話しかけることすら恐れてたのに?ほんとに海結?」
そう言って穂花は私の事をジロジロと見てきた。
「そんなに疑わなくてもいいでしょ〜それに四人でいくし。」
穂花は急につまらなさそうに
「なぁんだ、四人か。二人で行ってあれやこれやじゃないのかー、面白くないなぁー。」
やっぱり穂花は二人で行くと思っていたみたいだ。
「でもほんとに急だね〜、やっぱり海結じゃないんじゃないの?」
冗談半分で疑ってくる穂花に私は昨日の会議の話をした。
「なるほどねー、やっぱり二人に話して正解だったじゃん。穂花ちゃん、かっしこーい!」
「はいはい、その節はほんとにお世話になりました〜。」
「お世話しました〜。あー夏休み明けにはもう海結がリア充になってんのか〜お姉さんは寂しいなー!」
「まだ決まった訳じゃないって…」
「でもほとんどそうじゃん。同い年が少ない田舎の幼馴染って、恋愛小説でもなきゃ無いような設定だよー?」
「それとこれとは別問題でしょ?それに…」
二人でそんな会話をしている内に始業のチャイムが鳴った。
「夏休みまであと一週間。楽しみなのはわかるが羽目を外し過ぎるなよー、じゃあさようなら。」
終礼の時間の先生の言葉で気づいた。
もう一週間すれば夏休み。気づけばすぐそこに夏は来ていた。
(夏休みも一瞬で終わるんだろうなー)
そんな事を考えてると、航大が
「おーい!海結、帰ろうぜ。」
ハッとした。
航大がバイトを辞めたってことはこれからは自然と航大と一緒に帰る事になる。
私はとても嬉しく思った。
「うん!帰ろ!」
私たちの帰り道は他人と比べるとだいぶ長い。その筈なのに一瞬でその時は過ぎ去り、気づけば一昨日二人で歩いた海岸線。そこにいた。
今日も航大はおつかいを頼まれてるらしく、私と同じ方向だ。
海と夕日は相変わらず今日もきらめいていて綺麗だった。
「私ね、実は一昨日航大に言われるまで海なんか見飽きたって思ってたの。」
話尽くしてお互い無口になっていた頃。自然と言葉が出てきた。
「けど、違った。私が勝手に思い込んでただけだった。海は…とっても綺麗だった。」
今になってもなんでこんな事を言ったのか分からない。けれど、ここで話さなきゃいけない。そんな気がした。
「だからさ、気づかせてくれてありがと。航大。」
「…うん。どういたしまして。」
彼は海の方を見て言った。
夕焼けに照らされた彼の顔はとっても赤だった。
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