もどかしい気持ち

航大と帰った日の夜、私は家のベッドの上で枕を抱えて灯とLINEしていた。

「明日空いてる?この前言ってたカフェ行こうよ」

五分くらい経った後に灯から

「いいよー!行こー!」

と返信が返ってきたので喜んでいるクマのスタンプを送って私は携帯を閉じた。

(明日、灯に全て話して相談しよう。)

そう心の中で宣言して、もう寝よう、そう思い目を閉じた。けれども、

(どうしよ…全然寝れない…)

今日あった事が頭の中で流れていく。

(航大、やっぱカッコイイなー。なんで今まで気づかなかったんだろ。)

一緒に帰っただけだった。なんなら今までに何回だって一緒に帰った事だってあったし、二人だけの時だってあった。

けど、その中で一番特別なのは間違いなく今日だった。

二人で見た海。絶対二人で海を見た事だってあったのに今日が初めてにすら思える。

(はぁ…なんかもどかしいな)




気が付いたら朝になっていた。

枕元のデジタル時計は五時半過ぎだった、いつもアラームを六時にセットしているので普段なら起きない時間だ。

(結局、気づいたら寝てたなー)

昨夜は航大の事を考えてあまり寝付けなかったのに。

私は起き上がってリビングへ向かった。私の部屋は二階にあるのだけど階段を降りる時にトントンと包丁の音が聞こえたからお母さんがもう朝ごはんを作り始めているんだろう。

「お母さん、おはよ。」

私がそう言うと、お母さんは少し驚いた顔で

「あら海結、おはよう。珍しい時間に起きたわね、朝ごはんもうちょいで出来るから待っててね。」

「うん、わかった。」

リビングで座ってテレビを付ける。

この時間帯はやっぱりニュースばかりで目を引く様なものは無い。別にニュースが嫌いな訳では無いけど。

仕方ないからいつも付いてるチャンネルにすると、丁度星座占いのコーナーがやっていた。やっぱりせっかくやってるものだから気になって自分の星座を探した。

私の誕生日は九月二十五日なので天秤座だ。

(今年の誕生日は航大と二人で過ごせたらなぁ)

そんな事を考えながら天秤の二文字を探す。

(あっ、あった!)

見つけたのは十二個の一番上。一位だった。

(何かが始まりそうな予感、新しい挑戦を始めるなら今日が吉!か。)

いつもなら何位だろうと特段気にする事の無い星占いだけど、今日のはどこか特別な気がした。珍しく早く起きたからそう感じたのかもしれない。けれど、言われた通りになる。そう思えた。


「いってきまーす!」

ご飯、着替え、歯磨きと朝の決まったルーティンをこなして私は家を出た。

バスはいつも通り、私がバス停に着く頃にはエンジンを蒸かして待っていた。

バスでは灯がバスの後部座席でスマホをいじってた。

「灯、おはよう。」

私が挨拶すると、灯はスマホの画面から顔を上げて

「おはよー、ねー海結LINE見た?航大今日休みっぽいよ。」

「まだ見てないー、航大が休みなんて珍しいね。」

そう言いながら開いたスマホには確かに一件、通知が来ていた。

朝の四人のグループに航大から

「今日学校休みます。なので朝居ないです。」

それを見て私はいつも全く敬語とか使わない航大が敬語でLINEを送ってきたのが面白くてクスクスと笑った。

私が笑っていると灯は「おけ!ゆっくり休んでねー」とグループにLINEを送って、

「夏風邪とかかなー、航大休むの珍しいし心配だね。」

「んー、昨日一緒に帰った時は元気そうだったけどね。」


「えっ!昨日一緒に帰ったの!?」


灯はなんだか期待通りに驚いてくれて私はその事を鼻にかける気分になった。

「うん、昨日バス停でたまたま会ってね、しんどそうには見えなかったけどなー」

私が何気なく話を戻そうとすると、

「いや、そこじゃなくて!」

それから灯は少し間を開けて小さな声で、

「君ら二人、実は付き合ってるでしょ。」

耳が一気に熱くなるのを感じた。灯は間髪入れずに

「昔からいつかは付き合うだろうなーって思ってたんだよねー。そろそろかなって克海と話したりしてたけど、まさかもう付き合ってたとは…」

「ちがっ…まだ付き合ってない…」

「まだって事は予定があるんだよね?」

灯がいじわるそうにそう聞いてくる。一緒に帰ったこと言わなきゃ良かった、一気に形勢逆転された。私は調子に乗っていた過去の自分を呪った。

「今まで全く色恋沙汰の無かった海結ちゃんがついにかぁ、なんか感慨深いものがあるなぁ。」

私は恥ずかしくて何も言えなかった。

「あっ!もしかして今日のお茶会ってもしかして…」

若干俯いて私はうんと頷いた。灯には何もかもお見通しらしい。

「なるほどねー、じゃあ私も恋する可愛い親友の為に一肌脱ごうかな!それに克海も誘って良いよね?」

克海にもいつかは伝えようと思ってた事だし、丁度良いタイミングなのかな。

私はまた小さく頷いた。その時、話題に出したからなのかちょうど克海が来た。

「よっ!何話してたんだ?」

とりあえず私は「おはよう克海。」と小さな声で言った。

「おはよー、そうだ克海、突然だけど今日空いてる?」

「おう!今日は部活オフだから空いてるぜ。」

「良かった。今日海結とカフェ行く予定だったんだけど克海も来ない?たまには三人も良きでしょ。」

「おっけ、じゃあ正門とこで待っとくな。」


こうして私たちのお茶会作戦会議が始まった。

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