【短編】アイ・アム・ヒーロー

宜野座

アイ・アム・ヒーロー

 昔からヒーローになりたかった。

 病弱で引きこもり気味な生活の中で、いつも僕を支えてくれていたハリウッドのスーパーヒーロー映画のヒーロー達。

 彼らのようになりたいという大きな憧れから僕はトレーニングを始め、大人になってもその願いは変わらないまま、必死に努力を続けていた。

 そしていつの間にか、僕は冗談みたいにムキムキなボディを手に入れることに成功していた。

 格闘術の本も多数読破し、ようやく自分に自信を持つことができるようになった僕は、ついにヒーローとしての活動を開始することに。

 街をパトロールし、悪者を見つけて退治する。

 この国の平和は、僕が守るんだ!



「動くなオラ!」

 

 そしてある日、市街地を巡回していた僕の目に、大柄な数人の男達によって取り囲まれている一人の男性の姿が飛び込んできた。彼はひどく怯えた表情をしている。

 まずい、これは暴行事件の香り!

 僕はすぐさまその男達の元に駆け出した。

「やめろ! 弱者をいたぶるケダモノどもよ、この僕が相手だ!」

「は? 何だおま……いたっ! 馬鹿、邪魔すん……ごふっ!」

 僕は危なげなく男達を処理すると、さっきまで取り囲まれていた男性へ向けて「早く、早く逃げて!」と促した。

「す、すまねえ! 恩に着る!」

 男性は安堵と喜びの表情を満面に浮かべながら、その場を去って行った。


「ふう。まったく、寄ってたかって一人を襲うなんて、人間の風上にも置けない人達だ! しっかり反省することだな!」

 僕は地面にダウンしている男達へ強く言い放った。

 これぞ正義、これぞヒーロー。

 僕は今日、名実共にこの国のヒーローとなったのだ。


「……ふざけんな! なんてことしてくれたんだ馬鹿野郎!」

「そうだ。反省するのはお前だ! せっかくここまで来たのに……!」

 男達が恨めしそうに僕を睨みながら立ち上がる。

「お前が逃がした奴はな……! 俺達が死ぬ気でようやく追い詰めた、連続殺人犯だったんだよ!!」

「え……?」

 その言葉を聞いた途端、頭の中が真っ白になった。

 え? 連続殺人犯?

「おいお前ら、ホシを追え! この馬鹿は俺と山下が引き受ける!」

 その一声で、男達は一斉に走り出して行った。

「あの、じゃあ、もしかしてあなた達は……」

「お察しの通り、刑事だ。そしてお前は、凶悪犯の逃亡を幇助ほうじょした犯罪者ってことになるな。ついでに公務執行妨害も」

 犯罪者? 僕が? ヒーローである、この僕が?

「さあ、さっさと手ぇ出せ。錠をかける」

 二人残った男の内の一人が、手錠を取り出した。

 え、これって、どういうこと? 逮捕? 逮捕だよね?

「……違う! 僕は、僕は正義のヒーローなんだ!」

「いい歳した大人が何ほざいてんだ。うだうだ言ってねえで早く手出せ」


 結局、僕はそのまま連行されることになり、正義のヒーローを目指した僕の人生には犯罪者のレッテルが貼られることとなった。

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