顔も記憶も綺麗が一番
綺麗になりたいって思うよね。
見た目もそうだけど、記憶もね。
嫌な事、忘れたいもんね。
綺麗サッパリ忘れちゃえば、記憶が綺麗になった気がしちゃうもんね。
もっと言えば、心も綺麗になった気がしちゃうもんね。
人生が、綺麗になった気がしちゃうもんね。
■■■□■■■
回収依頼者がやってきた。
どんな黒歴史をくれるのかな。
「友達の顔をボールペンで刺しちゃったの」
おや、それは痛そうだ。
「頬のところに一生消えない傷が付いちゃった」
おやおや、それはお気の毒に。
「あたしのせいで、一生消えない傷が付いちゃった」
かわいそうだけど、ボクはお医者さんじゃないから怪我は直せないよ。
「かわいそうだよね。可愛い顔に可愛くない傷が付いてかわいそう」
あれ、かわいそうって思ってるわりには、ちょっと嬉しそうな顔してない?
「だからね、事故なのに事故だって認めてもらえないんだよ。可愛い子への嫉妬だろうって。可愛くないお前の恨みで顔を狙ったんだろうって、周りから陰口叩かれてるのもう嫌で嫌で」
ふうん。事故じゃなくて事件だって思われてるんだね。冤罪だったら迷惑だね。
「だからいっそ、あたしが傷を付けたって記憶を無くしたいの。そうすれば堂々とあたしじゃないって言えるし」
なるほど。君は罪の意識を捨てようって思ってるんだね。
「罪だって言うなら、顔に優劣を付けた神様だって罪があるし、あたしの気持ちなんて何も知らないくせに悪く言うやつらも罪があるよ」
まあまあ、そんな怖い顔しないで。
わかったよ、じゃあお望みどおり回収してあげるよ。
でもね、確認させて。
君のそのお友達へ、本心から謝ったかい?
「刺しちゃってすぐに、ごめんって言ったわよ。でも、そんなひどい傷が付いたなんて思わなかったから……ってそんなのどうでもいいじゃない、もう忘れちゃう出来事なんだし」
うん、そうかもね。じゃあその記憶が回収されるのに思い残すことはないって意味として受け取っておくよ。
では、回収させて、いただきます。
――ぷつっ
――バクり
はい、回収終わったよ。
気分はどうだい?
「うん、スッキリ。これでまたいつも通りの関係に戻れそうね」
だといいよね。
友達は大切にしてあげるんだよ。
■■■□■□■
「あたし、そんなの知らない!」
「さいってー! もうあんたなんか無理っ! ……ううっ」
口をきつく押さえ、涙を落としながら駆けて行く友達の姿を、何が起こったのかわからないような顔で見送っている依頼者の姿がありました。
友達だと、お互いに思っていた二人でしたが。
事件により壊れかけていた関係が今、完全に壊れてしまったのです。
「アイツ、とんでもねえな。自分がやった事なのに白を切るとか、とても人の心を持ってるとか思えねえ」
「おい、聞こえたらヤバイぞ。今度はお前が刺されるって」
「うわああぶね。だよな……無理だわ俺も、あんなヤツなんか」
周りから注がれる悪意の込められた言葉は、身に覚えのない罪を帯びていました。
友達の口に変な手術跡が出来ていたのを見て、つい気になったから質問しただけで険悪な雰囲気になってしまい、言葉を発するごとに否定の言葉を返されるばかりで。
もう、元に戻せはしなかったのです。
関係を元に戻すための、謝罪をして清算するために必要な記憶が、もう無くなっていたのですから。
■□■□■□■
今日も回収依頼者がやってきた。
どんな黒歴史をくれるのかな。
「友達の……ううん、あの犯罪者の事、全部忘れたい」
犯罪者?
具体的に言ってもらえないとわからないよ。
「私の口に、傷が付いてるでしょう。この傷を付けておきながらちゃんと謝りもしないで、そんなの知らないって言う薄情者の事よ」
うん、わかったよ。その情報で充分さ。
謝らないのってよくないよね。
綺麗な関係に戻すには、まず謝ることからだよね。
そこからじっくりじっくり、大切に大切にしなきゃ、綺麗にならないもんね。
でも、思い切って関係を無くしちゃうのも、綺麗になる方法だから。
君たちは、それを選んだんだね。
うん、綺麗な結末になったね。
では、ボクはボクの仕事をして、綺麗にしてあげるよ。
――ぷつっ
――バクり
□ E.A.T. □
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