黒歴史†無料回収いたします

サダめいと

ああ素晴らしき無料回収の響き

 →→→無料回収にはウラがある←←←

 →→→タダほど高いものはない←←←

 →→→罠だと思って疑いなさい←←←


 今日も僕が営む業務を否定する言葉が降り注ぐ。

 怪しまれるのには慣れている。でも、業務妨害はよしたほうがいいよ。

 だって、話題にするってことは興味津々だからこそって知ってるんだから。

 後で使いたくなったって、否定してた事実は消せないよ。だから、使おうにも使えなくなっちゃうよ。


 でもね、否定してた事実ごと黒歴史ってことにして回収してあげようか。

 それで丸く収まるかもね。

 あなたの人生、丸く収まっちゃうかもね。


■■■□■■■


 回収依頼者がやってきた。

 どんな黒歴史をくれるのかな。


「さっき、好きな子に告白したらフラれてしまったので、記憶を消してほしい」


 すみませんね、ウチは消すんじゃなくて回収するやり方なんで。それで良ければ無料でやりますよ。


「はい、それで構わないのでお願いします」


 わかりました。

 ただし、戻す事はできませんのでくれぐれもご承知おきを。


「大丈夫ですんで」


 即答だね。よっぽど悔しかったのかな、すぐにでも忘れたいって気持ちが表れてるよ。

 でもフラれてしまったのがさっきの話だってのなら、衝動的になって適切な判断が出来ていなかったりしないのかな。

 ま、ボクはそれでも構わないんだけどね。


 じゃあそこのベッドへ横になって。

 回収するには寝てもらわないとだから。

 寝てさえくれれば五分も掛からず終わるからね。


「目をつぶるだけでいいんですか?」


 うん、後は任せて。


 ――ぷつっ

 ――バクり


 はい、回収終わったよ。

 気分はどうだい?


「すごいですね、スッキリしました。ありがとうございます」


 それは何よりだよ。

 また回収してほしい黒歴史が見つかったら来てね。でも、本当に回収されてもいいのか良く考えてからにするのをお勧めするよ。


「その時はぜひ!」


 足取り軽やかに、お客様は帰って行った。


■■■□■□■


「えっと、昨日の事なんだけど……私、一晩考えてみてね。本当に私でいいなら、お願いしたいかな」


 一日を置いて反転した返答が、依頼者に届けられました。

 なんと、告白を受け入れるのが本心だったのです。

 突然の告白に動揺してしまった少女の純情は、一晩の熟考を経て整理のついた心で、本当の想いをようやく言葉に出来たのでした。


 かねてより歩調の合わなかった二人ではありましたが。

 どうしてでしょうか、たった一晩の遅れで、もう隣合って歩けなくなってしまったのです。


「ごめん、なぜだかもう君とはそんな気持ちになれないんだ」

「えっ?」

「ごめん……ぐっ」


 依頼者の頭が疼きます。

 あったはずの感情が抉られ、取り戻そうとすると拒絶されてしまうのです。


「もう……近寄らないでほしい」

「……やだっ! どうして、昨日はあんな」


 あんなに私のこと、心から好きだと言葉にしてくれたのに。

 その大きすぎる愛を受け入れられるか不安になって、動揺のあまりお断りの言葉を口にしちゃっただけなのに。

 だけなのに、なんで――


 抉られた感情が、二人をも分かつ溝を成していました。

 もう、埋めることは出来ないのです。

 回収されたら、返却されないシステムなのですから。


■□■□■□■


 今日も回収依頼者がやってきた。

 どんな黒歴史をくれるのかな。


「彼と過ごした日々の、記憶を消してほしい」


 すみませんね、ウチは消すんじゃなくて回収するやり方なんで。それで良ければ無料でやりますよ。


「はい、それで構わないのでお願いします」


 覚えのあるやりとりに、似てるなあと思いながら。

 こんなにも染まり合うほどお似合いの二人になっていたのになあと思いながら。


 じゃあそこのベッドへ横になって、と促した。

 横になり、閉じられる目を見ていたら。

 泣き腫らしたように赤くなっているまなじりがふと、柔和に変化した。

 二人で過ごした楽しかった日々を思い出しているのだろうか。


 さぞ、美味しい思い出なんだろうなあ。

 じゃあ遠慮なく、いただきますよ。


 ――ぷつっ

 ――バクり


□ E.A.T. □

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る