Take 3
朝。
王城内のとある場所では慌ただしい雰囲気が漂っていた。そこは召喚の間である。
三度目の召喚が始まるのだ。後ろに控えている騎士達もいつ成功するかと呑気に考えていた。騎士団長はそんなことを知ったら喝を入れるだろう。なので騎士達は見た目しっかり、内面呑気にしていた。
そして、それぞれが準備を終え所定の位置に着く。
「よし! では始めようかの! 」
国王はやけにやる気が出ていた。徹夜をしてやっと十分の一の仕事を終えたイリスはほとんど死にかけていたが、魔法を駆使して回復させる。実に魔法様々だ。
閑話休題。
ウルトが早速詠唱を始める。
「『我、神に祈らん。我らが祖国を魔の手から守るための力を、我の手に。異界の勇者を時空を越えて、我らの救世主をここに喚ばん。我らが信ずる神の名の下に』――勇者召喚」
召喚の間が光に満たされる。
光が収まり魔法陣を見る。そこにはおよそ40人ほどの人影。おそらく学校の生徒と先生だろう。
「おお! ようやっと成功か! 勇者様方、ようこそお越しくださいまし……た。……あっ」
国王達は気付いてしまった。
「「「「……国立魔法学校の……生……徒?」」」」
そう、彼らが国が直接運営する学校の生徒達だということに。
面倒なことになった。
大人だったならば話せば理解してくれるのがほとんどだろうが、子供だとそうはいかない。まして、一部魔法が好きすぎる生徒もいるため執拗に聞こうとしてくるだろう。
それに加え、国王が一度勇者様方と呼んでしまっていたので言い逃れや誤魔化しは効かないだろう。
騒いでいた生徒達を静かにさせた教師が一人近づいてくる。
「国王陛下、どうか事情をお教え頂けませんでしょうか。」
「う、うむ、仕方ないか。もう一人の先生を呼んでこい、二人にだけ話す」
「分かりました」
突然召喚されたにも関わらず冷静な教師が問いかける。
国王は、大人である教師にだけ事情を話すのがこの場合の最善の手だろうと、考えた。
教師がもう一人の教師を呼びに行く。
「陛下、どこまで話すんですか」
「魔王のことは伏せておいたほうが良いじゃろうな。そういえばイリス、お前一部の記憶だけ消すこととかできんか? 」
「一応できなくもないですけど、失敗したときは記憶が全部消えますが良いですか? 」
「駄目にきまっておるわ! やるなよ? 絶対にやるなよ? 」
「む? 分かりました。では、さっそく『記憶消――あいだっ!? 」
「やるなって言ってただろうが! なにやろうとしてんだよ! 」
「え、フリかと……」
「んなわけあるか! 」
シャレにならないフリである。
そうこうしている内に教師二人が戻ってくる。一人は18歳ほどの若く落ち着いた感じの女性教師ルッカ、もう一人は25歳ほどの筋肉のかたま――筋肉の主張が激しい男性教師ガザ・ゴイル。二人で魔法や実技を教えているそうだ。
「さて、事情じゃったか? 」
「はい。何が起こってあの魔法陣は何かと思いまして」
「あれは勇者召喚を行う魔法陣じゃ。今回、その召喚のテストでの……間違えてお主らを喚んでしまっての、すまんがこのことは誰にもいうなよ」
「なるほど、あれは勇者召喚の魔法陣だったのですね。分かりました、このことはしっかり口を閉ざしておきます」
「陛下! こいつの言葉を信用してはいけません! こいつ、もの凄く口が軽いんですよ! 」
「師匠、おかしなことを言わないでください」
「えっ、師匠? イリスがか? 」
「はい、私はイリス師匠から魔法の
「ほう、そうじゃったのか。しかしなぜ基礎だけ? 」
「はい、師匠は理論派でしてどうも私に合わず。半分しか分かりませんでしたので」
((((いや、半分も分かった時点で凄いと思うが……))))
「おほんっ、話を戻すが口が軽いとは? 」
「こいつすぐに私の秘密を他の弟子に言うんですよ。口が軽いに決まってます」
((((こいつ、他にも弟子がいたのか……))))
イリスに他にも弟子がいると知り、弟子が一人もいないアレクは見て分かるぐらいに落胆した。「あいつに負けた。あんな奴に……」と呟いている。
「師匠、その事ですが、師匠の秘密しか話してませんよ。師匠だけ特別です」
「そんな特別嬉しくねぇわ! 少しは師匠を敬え! 」
「師匠のことは尊敬してますよ、半分は」
「半分!? 」
「師匠は性格がアレですが魔法の技術は確かなので。私達はそんな師匠を尊敬してますし、大好きです」
「えっ、あっ、そ、そう。なら、いいけど」
好きと言われるのに慣れておらず恥ずかしいがっているイリス。
「あの……」
皆んなが声をした方を向くとそこにはもう一人の教師。
皆んなが息を呑む。
なぜならそこに立っていたのは、2メートルを超えるであろう身長と、筋肉の塊と形容してもおかしくはない全身の筋肉。小型の巨人といっても過言ではない図体をした大男。さらに全身には死地を幾度もくぐり抜けた証ともいえる切り傷があった。
そこらの魔物よりも恐ろしいのは明白だ。子供が始めて見れば泣き出すに違いない。あくまで最初だけだが。
「ルッカ、学園はあんな化け物を飼ってるんですかっ」
「化け物じゃありませんよ」
「はっ、人型の魔物かっ」
イリスはルッカの背に隠れ、アレクはつい剣に手をかけていた。
「ちょ、アレク様、剣に手をかけないでくださいっ。僕は魔物じゃないですよぉ」
「「「「へ? 」」」」
「僕は正真正銘、人間です。」
彼は、見た目と性格が天と地ほどギャップがあった。
「言っておきますけど、この傷はただいじめられてついた傷がほとんどですからね」
「ゴイル先生は見た目こそ怖いですが、動物をこよなく愛する、心優しい先生ですよ」
ルッカが補足をする。
「人は見かけによらないってことか」
「そ、それはともかく、僕たちは間違えて勇者召喚されたんですよね。僕たち、帰れますか? 」
「ああ、ちゃんと送還できる」
「そうですか、よかったぁ。ところで生徒たちにはどう説明すれば……」
「あ……ああ。国の実験に参加させてもらったとでも言っておけば良いのではないか? 」
「分かりました。生徒たちにはそう説明しておきます」
ゴイル先生とルッカが生徒達のところに戻り説明する。直後、生徒達が歓声を上げる。ただの魔法学校の一生徒が国の実験に参加できたのだ。喜びもするだろう。
国王達は生徒達の元へ寄る。
「お主ら、実験に付き合わせてすまんのぉ」
「い、いえ! むしろ、実験に参加させていただきありがとうございます! この日のことは一生の宝物にします! 」
「「「「ありがとうございます!!! 」」」」
「そうか、それなら良いのじゃが……そろそろ送還させるかの。おっと、そうじゃ、今回のことはくれぐれも他言無用じゃぞ? 」
「「「「はい!!! 」」」」
生徒達の元気な声を聞いた後、ウルトは送還の準備を始める。
輝き出す魔法陣に生徒達は興味津々だ。
「師匠、たまには帰ってきてくださいね」
「分かってる……分かってるけど、魔法が私を拘束するんです! これはもう不可抗力」
「そんなこと言ってないで帰ってきてください。他の弟子達も大好きな師匠を待ってるんですから」
「う、うん……そ、そこまで言うなら帰りますよ」
イリスはまたもや照れていた。顔を赤くして目を逸らしていた。
送還の魔法がもう直ぐだ。
「じゃあ師匠、待ってますよ」
「「「「国王陛下ぁ! 今日はありがとうございました! 」」」」
生徒達が送還され、辺りに静寂が訪れたのは一瞬。
「元気な子じゃったなぁ。若さが羨ましい」
「国王陛下、また申し訳ありません」
「うむ、気にするな。誰にでも失敗はある」
ウルトがまた失敗したことに謝るも、国王は気にしていない。それでもウルトは申し訳なさそうな顔をしていた。
「イリス、お前弟子に好かれてたんだな。お前なのに……」
「それはどういうことですか! 」
「いや、こんな性格なのになっと思ってな」
「あ!? 喧嘩を大量生産ですかっ! 全部買ってやる! さあ! かかってこい! 」
また、アレクとイリスが喧嘩をしそうになる。
「ああ、もう、休憩して次じゃ。次ー!! 」
国王が声をかけて、皆んなが休憩を取り始める。
勇者召喚はいつ成功するのか。まだ、先は遠そうだ。
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